「お願いだからもう黙っていてもらえないものでしょうか……」
ある電通関係者は7日朝、「東京オリンピック(五輪)」「竹中平蔵」の2つの言葉が並んだ複数のネットニュースの見出しを見てそう嘆息した。ニュースは6日、関西圏で放送された『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)に出演した竹中平蔵・パソナグループ(東京2020オフィシャルパートナー)取締役会長の発言を取り上げたものだった。
五輪開催めぐる議論に竹中氏「世論は間違ってますよ」
竹中氏は政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が今月2日と3日の衆参厚生労働委員会で、「本来は、パンデミックの所で(五輪を)やるのは普通ではない。やろうとするのなら、かなり厳しい責任をオリンピック委員会や政府が負って、強い覚悟でやってもらう必要がある」などと見解を示したことに、竹中氏は番組内で以下のように猛反発したのだ。
「分科会がオリンピックのことを決めるわけじゃないのに、明らかに越権」(発言内容ママ、以下同)
「本当にエビデンスがないと私も思いますけど、人流を止めればいいんだとか、なってるでしょ。しかし、人流を止めてロックダウンした国でも抑えられなかったんですよ」
「なんでやるか、やらないか、あんな議論するか、私はわからない。だって、オリンピックってのは、世界のイベントなんですよ。世界のイベントをたまたま日本でやることになっているわけで、日本の国内事情で、世界に『やめます』というのは、あってはいけないと思いますよ。世界に対して、『やる』と言った限りはやる責任がある」
またマスコミ各社の世論調査で五輪開催の賛否が2分されていることに関して「世論は間違ってますよ。世論はしょっちゅう間違ってますから」と言ってのけたのだ。
番組での一連の発言は7日午前、Twitterのトレンドに入り、竹中氏が言うところの“間違っている世論”の激しい批判にさらされている。本来であれば五輪開催に向けて強固なタッグを維持すべき電通関係者ですら冒頭のように絶句し、次のように語った。
「事業を行うのに、世の中すべての人の賛同を得られるとは思っていません。ただ、このタイミングで世の中すべてを敵に回すような発言をしなくても良いじゃないですか。パソナさんはどんな形であれ、開催されれば良いのかもしれませんが……。
国際的な信義を果たすために、一人でも多く、五輪に前向きな考えを持つ日本国民を増やすべきだと思います。五輪組織委(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)のスタッフもアスリートも、世間から猛バッシングを受けているウチ(電通)やスポンサーも、少しでも五輪に対して前向きな気運が高まるように努力していきます」
五輪運営業務でパソナは9割中抜き
五輪の大会運営業務を委託されているパソナといえば、5月26日の衆議院文部科学委員会で大幅な中抜きが指摘されて物議を醸したばかりだ。
同委員会での立憲民主党・斉木武志衆院議員による質疑で明らかになった「パソナと東急エージェンシーが締結した業務委託契約書」によると、パソナは運営スタッフ1人あたりに支払われる日当が最高で35万円、管理費・経費を入れて42万円で受託していたのだという。各社報道によると実際の日当との乖離は激しく、中抜き率は9割に及ぶようだ。しかもパソナ一社の独占契約なのだという。
ちなみに2021年5月期のパソナは売上高3300億円、営業利益175億円、純利益62億円。本業の儲けを表す営業利益は過去最高を記録している。自民党衆議院議員秘書は苦虫をかみつぶしたように話す。
「安倍晋三前首相の時代から少しずつ首相官邸への影響力を強めていった竹中さんですが、菅義偉首相の代になって、国家戦略特別区域諮問会議有識者議員に就任し、全盛期と同レベルの発言力になっていると思いますよ。
あくまで結果論ですが、五輪関連では電通さんですら大打撃を受ける中、パソナさんだけがオリンピックバブルで独り勝ちです。『そこまで言って委員会NP』での発言も、利害関係者としてそのように発言されたのかもしれませんが、正直、首相官邸や我々に対する援護になっていない。五輪の一連の政策の肝は、日本経済全体にプラスの影響を及ぼすことです。『諸外国にやると宣言したから開催する』のでは決してありません。開催したほうが日本の国益になるからやるのです。
また竹中さんはずっと前から、小泉純一郎元首相時代の“薫陶”を小泉進次郎環境相に授け続けていると党内では噂になっていますよ。もはやキングメーカーですね。それが吉と出るか凶と出るかはまた別の話ですが」
「官僚制は終始雇用だから問題」「官僚は選挙されていない」
前出の議員秘書の話す小泉環境相に対するキングメーカーとしての“薫陶”の一端は、竹中氏の公式YouTubeチャンネル「平ちゃんねる」6月5日に公開された動画『竹中平蔵【国民が知らない】危険!官僚政治の実態』(以下)で伺い知ることができる。
動画で竹中氏は、初めて衆議院選挙に出る小泉進次郎氏に「官僚主導の何が問題ですか?』と問われ、以下のように答えたのだと訥々と語った。
「一つは官僚というものは実は終身雇用、年功序列の典型、官僚の皆さんももちろん専門的な知識を持って日本を良くしたいと思って官僚になっている。
しかしながら、だんだん歳をとるとともに官僚というのは終身雇用、年功序列でやっているから、国民のために良い政策もやりたいけれども、自分の組織を守るために良い政策もやりたいという風に実はなってきます。天下り先の確保というのはその典型ですよね。
これが終身雇用、年功序列だから自分が局長の時に作った新しいポスト、天下り先、そこに自分がいける、ないしは自分の先輩が行ける。
(中略)
もう一つ大きな問題があります。それは官僚というのは国民の選挙という洗礼をうけてない。国民に選ばれたんだという政治家であるならば、これは思い切ったことができますけども、官僚というのは別に国民の選挙の洗礼を受けていませんから、国の土台に影響するようなものすごく大きな政策って、やっぱりできないんですね。
知恵がありますから、ここをちょっと変えよう、あそこをちょっと変えようというような知恵は、官僚からは結構出てきますけども、例えば皆さん旧郵政省が郵政の民営化を提言すると思いますか。そんなこと絶対しません。
(中略)
そういう点が実は官僚政治官僚による政策の問題点です。だからこそ、国全体のことを考えられるような総理主導の政策でやっていかなければ、そういう風に考えています」
この動画を見た立憲民主党衆議院秘書は次のように突っ込みを入れる。
「もはや、終始雇用制に対する“憎悪の化身”のように見える動画ですね。確かに組織至上主義や縦割り行政の非効率性の是正と、国民の負託を受けた政治主導での国家運営は自民党だけではなく、多くの政党の基本方針です。効率化すべきものはすべきでしょう。
天下りを防ぐために職員の終身雇用を取りやめたとして、まさかパソナさんが代わりに『職員を派遣し業務を代行する』とか言い出さなければ良いのですが。つまり五輪の運営業務のようにできれば、パソナさんが利権を独占できるために、こういう主張をしているのではないかとも思えてしまいますね。
五輪組織委の運営業務委託の件はさすがに自民党内でも、『やりすぎではないのか』という声が上がっているようですよ。森喜朗元首相、安倍前首相、菅首相の肝いりの竹中氏の顔もあって、誰も表だって声にしませんが。
中央省庁にはパソナから派遣されている職員もたくさんいますが、もっと増やせというのでしょうか。正規の基幹職員の不足で新型コロナ対策が従前に回っていないのは周知のとおりです。派遣職員と正規職員の間に漂う職場の有形無形の緊張感も前から課題になっています。また竹中氏は一度、選挙出ていますよね(編集部注:竹中氏は2004年7月の参院選で比例区で当選)。一度でも国民の負託を受けたことがあるのに、『世論は間違っている』と言えてしまうのはある意味すごいですね」
竹中氏の次の問題発言はなにか――。注目しているのは、野党関係者やマスコミだけではなく、“味方”であるはずの与党や五輪関係企業も同様のようだ。
(文=編集部)