
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が順調に進んでいるという手応えを感じているからだろうか、9都道府県の緊急事態宣言を発表する記者会見での菅義偉首相の態度からは、自信のようなものが伝わってきた。
混乱はあれど、菅首相が強いリーダーシップでワクチン接種を推進した点は評価されるべき
確かに、当初の予想を超えて、ワクチン接種は進んでいる。高齢者だけでなく、職域接種や一部大学での接種も始まった。菅首相が掲げた「1日100万人」という高い目標も、達成しようとしている。2回接種を済ませた医療従事者の間では、感染が減っているとの報道もある。このまま接種が進めば、コロナを巡る状況は改善するのではないか、との希望も芽生えてきた。
一方、自治体によって64歳以下への接種券の配布時期が異なるとか、職域接種は大企業優位になるとか、医学部のない大学は後回しにされるとか、五輪関係者は優先接種されるとか、公平性の観点ではいろいろ問題はあり、不平も聞こえてくる。
なかなか接種の対象にならない者が、取り残されているような気分に陥り、自治体に文句を言いたくなる気持ちはわかる。ただ、だからといって自治体に押し寄せて列を作ったり、電話で抗議をしたりするというのは感心しない。こうした状況になっているのは、自治体に接種の優先順位を示して準備をさせておきながら、自衛隊の大規模センターががら空きとなるや、その順位を無視した接種を行うなど、政府が場当たり的な対応をしてきたからだ。自治体を責めても仕方がない。
こうした政府の対応は臨機応変ではあるが、思いつきや準備不足も目立ち、行政に期待される公平さに欠けている。しかし、ワクチンは接種した本人を守るだけでなく、その周囲の人の感染リスクを引き下げることにもつながる。思うように発信ができない高齢者や障害者など、弱者が置き去りにされてはならないが、ある程度公平性や計画性を犠牲にしてでも効率を上げ、ひとりでも多くの人に少しでも早く、というやり方は、感染拡大の防止という点では理にかなっている。菅首相が行政の常識にとらわれず高い目標を掲げ、自治体の尻を叩いてきたことは、評価してよいと私は思っている。
心配なのは、それによる菅首相の自信が過剰に見えることである。特にオリンピック・パラリンピックの開催に関しては、自説が正しいと思い込んでいるようで、専門家の助言にまともに耳を貸さない態度が顕著だ。