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江川紹子の「事件ウオッチ」第185回

菅首相の“コピペ回答”に絶句!「総裁選より、まずは国会召集を」【江川紹子の提言】

文=江川紹子/ジャーナリスト
菅首相の“コピペ回答”に絶句!「総裁選より、まずは国会召集を」【江川紹子の提言】の画像1
8月25日に行われた首相会見の模様(首相官邸HPより)

 期待はしていなかったが、予想以上にひどい回答だった。

 8月25日に行われた、緊急事態宣言地域の拡大に伴う菅義偉首相の記者会見。私は、出席はできたものの、質問の機会は与えられなかった。会見中に指名をされなかった記者は、会見終了後に書面で質問を送ることができる。私もメールで質問を送り、後日書面で回答を受け取った。

別の質問への回答にも「コピペ」ですませた菅首相

 質問内容は、国会の召集について。前回の本コラム「【新型コロナ対策】菅首相はすぐに国会を開け! 今のままでは責任放棄だ」に書いたことを手短にまとめ、次のように尋ねた。

「臨時国会を開く必要性があり、憲法上の要請もあるのではないか。総理は、いつ、もしくは、どのような条件が整ったら、国会を開くつもりなのか」

 これに対する菅首相の回答が、以下の通りだ。

「臨時会の召集については、国会のことでもあるので、与党とも相談しながら考えてまいります。

 いずれにせよ、政府としては、新型コロナ対策、大雨の被害に遭われた方々への支援等、目下の重要課題に、引き続き全力で取り組んでまいります。」

 質問に答えていない。答えようという誠意も感じられない。

「いずれにせよ」は、国会答弁などでも、質問にまともに答えず追及をかわす時に菅首相の口から頻出する「決まり文句」のひとつだ。それを書面回答でも使っていることは、ちょっとした驚きだった。

 それだけではない。この回答は、別の記者会見で出した文書回答の使い回しだったのだ。

 前回8月17日の記者会見でも、質問できなかった京都新聞が、私とは異なる理由を挙げて国会召集について文書質問していた。菅首相はそこでの回答をそのまま「コピペ」して、私への回答としていた(より正確にいうと、京都新聞への回答は3段落あったが、その後ろ2段落をそのまま写したものが私への回答だった)。

 記者会見は、首相が国民に対して直接説明をする場だ。記者は代理人として質問しているようなもの。首相の回答は、記者に対して行われるというより、国民に向けての発言であり説明だ。それは文書でのやりとりであっても同じだろう。だからこそ、記者会見でのやりとりと合わせて公表もされる。

 ただ、文書回答の場合、その作成過程は見えず、実際には官邸報道室のスタッフが原案を作ると思われる。それでも、首相の回答として出される以上、その責任は首相自身にある。

 別の機会の別の質問に対する回答を「コピペ」してすませようというやり方は、国民に対して誠実に説明しない、「由らしむべし知らしむべからず」という菅首相の姿勢を象徴していると思う。

 説明はしない。国会は開かない。それでも、自民党総裁選は9月17日告示、29日投開票のスケジュールで行われる。

 21都道府県に発出されている緊急事態宣言と12県に出ている「まん延防止等重点措置」の期限は9月12日(8月29日現在)。今後の感染状況にもよるが、学校で新学期が始まり、そこで感染が広がる可能性も考えると、すべての宣言をこの期限に解除するのは難しく、再度延長をすることになるのではないか。

 それでも総裁選が始まれば、メディアの関心は自民党に集まり、ニュース番組でも一定の時間をとって報じることになる。遅くとも11月には行われる総選挙を前に、国会で政府が野党議員から追及される場面を国民に見せず、それでいながら自党関係者のメディア露出を増やそうということだろう。

「国民のために働く内閣」といいながら、結局のところ、党利党略が最優先ではないか。

後手後手で小出しのコロナ対策、初動が遅れたとの指摘が専門家より上がるアフガン対応

 そうした意図は、国民に見透かされている。前述のような菅首相の「誠実に説明しない」態度、後手に回ることの多いコロナ対策への批判などから、各種世論調査での菅政権への支持率は下がり続けている。直近の毎日新聞世論調査(8月28日)では、支持率26%、不支持率66%にまで落ちた。

 菅首相は、記者会見で「明かりは、はっきりと見え始めています」との楽観論を展開したが、その「明かり」は国民の目には届いていない。

 日本経済新聞の世論調査(8月27~29日)でも、新型コロナへの政府の取り組みについて「評価しない」との回答が前回7月の調査に比べて6ポイント上昇の64%。菅首相が最も力を入れ、自身の実績として自信を示しているワクチン接種についても、「順調だとは思わない」との回答が前回より5ポイント高い70%に上った。

 こうした菅首相の不人気ぶりに、安倍晋三総裁の下での「風」頼みの選挙しか経験していない、当選回数の浅い議員が、「菅首相では『選挙の顔』にならない」と狼狽し、浮き足だっているという。安倍氏辞任後の総裁選や首班指名選挙で菅氏に一票を投じた責任があるはずの議員が、自らの保身のためにうろたえ、慌てふためく。あきれかえる話だ。報道では、そうした議員の言動は匿名で報じられているが、ぜひとも名前を明らかにして伝えるべきだ。こうした情報は、遠からず行われる選挙で、有権者にとって貴重な判断材料になる。それを提供するのが、報道機関の仕事だ。

 すでに、メディアの政治記者の主たる関心は、国会を召集してコロナ対策やアフガン情勢を議論するより、「衆議院解散はいつか」という政局に集まっているようである。しかしメディアが、コロナ対策のために政治は何をなすべきか、という最重要な問題より、政局を優先し、次期総裁を巡る自民党内の権力争いを追いかけるばかりだけでは困る。

 酸素投与が必要になっても入院できない患者が激増し、在宅医療を強いられた患者が自宅で命を落とすケースが相次いでいる。政府もようやく医療供給体制の改善に本腰を入れ始めたが、この問題は昨年からずっと指摘されてきた。人口当たりの病床数は世界一多いのに、欧米よりはるかに少ない患者数でも医療が逼迫を起こす。これについては、後手後手で小出しの対応をするのでなく、抜本的な対応策が必要だ。

 また、同じような緊急事態宣言を出し続けても、人々には慣れが生じ、人出の十分な抑制にはつながらないという問題についても、効果的な対策が行えるよう、法的検討を専門家は求めている。

 さらに、アフガニスタンでタリバンが復権した事態を巡っては、日本は初動が遅れた、という指摘が安全保障関係の専門家から出ている。そのために、現地に残っていた邦人のほか、長年日本の大使館で働いてきた現地スタッフやその家族の退避が難航している。

 ほかの国々、たとえば韓国は、素早い初動と米軍の協力によって、390人を救出した。それぞれの国で法制度が異なり、簡単に比較はできないものの、経緯を検証し、問題点を洗い出す必要はあるのではないか。

 救出のための活動や交渉は続いているわけで、現時点ですべての事実を公表できるわけではないだろう。それでも、検証の仕組みを構築し、関連文書を残しておくことなど、早めに決めておくべきことはあるように思う。

 自民党総裁選の告示まで、あと2週間以上ある。これらの問題について、すべては無理だとしても、できることはあるのではないか。ぜひ、この期間に国会を召集し、できる範囲で議論や法的枠組み作りに着手すべきだ。

 総裁選よりまず国会。国会議員は「全国民の代表」であり、国会は「国権の最高機関」(いずれも日本国憲法より)だ。まずは国会の仕事をしっかりやってもらいたい。

 国民は、その姿を見ていることを、お忘れなく。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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