
期待はしていなかったが、予想以上にひどい回答だった。
8月25日に行われた、緊急事態宣言地域の拡大に伴う菅義偉首相の記者会見。私は、出席はできたものの、質問の機会は与えられなかった。会見中に指名をされなかった記者は、会見終了後に書面で質問を送ることができる。私もメールで質問を送り、後日書面で回答を受け取った。
別の質問への回答にも「コピペ」ですませた菅首相
質問内容は、国会の召集について。前回の本コラム「【新型コロナ対策】菅首相はすぐに国会を開け! 今のままでは責任放棄だ」に書いたことを手短にまとめ、次のように尋ねた。
「臨時国会を開く必要性があり、憲法上の要請もあるのではないか。総理は、いつ、もしくは、どのような条件が整ったら、国会を開くつもりなのか」
これに対する菅首相の回答が、以下の通りだ。
「臨時会の召集については、国会のことでもあるので、与党とも相談しながら考えてまいります。
いずれにせよ、政府としては、新型コロナ対策、大雨の被害に遭われた方々への支援等、目下の重要課題に、引き続き全力で取り組んでまいります。」
質問に答えていない。答えようという誠意も感じられない。
「いずれにせよ」は、国会答弁などでも、質問にまともに答えず追及をかわす時に菅首相の口から頻出する「決まり文句」のひとつだ。それを書面回答でも使っていることは、ちょっとした驚きだった。
それだけではない。この回答は、別の記者会見で出した文書回答の使い回しだったのだ。
前回8月17日の記者会見でも、質問できなかった京都新聞が、私とは異なる理由を挙げて国会召集について文書質問していた。菅首相はそこでの回答をそのまま「コピペ」して、私への回答としていた(より正確にいうと、京都新聞への回答は3段落あったが、その後ろ2段落をそのまま写したものが私への回答だった)。
記者会見は、首相が国民に対して直接説明をする場だ。記者は代理人として質問しているようなもの。首相の回答は、記者に対して行われるというより、国民に向けての発言であり説明だ。それは文書でのやりとりであっても同じだろう。だからこそ、記者会見でのやりとりと合わせて公表もされる。
ただ、文書回答の場合、その作成過程は見えず、実際には官邸報道室のスタッフが原案を作ると思われる。それでも、首相の回答として出される以上、その責任は首相自身にある。
別の機会の別の質問に対する回答を「コピペ」してすませようというやり方は、国民に対して誠実に説明しない、「由らしむべし知らしむべからず」という菅首相の姿勢を象徴していると思う。
説明はしない。国会は開かない。それでも、自民党総裁選は9月17日告示、29日投開票のスケジュールで行われる。
21都道府県に発出されている緊急事態宣言と12県に出ている「まん延防止等重点措置」の期限は9月12日(8月29日現在)。今後の感染状況にもよるが、学校で新学期が始まり、そこで感染が広がる可能性も考えると、すべての宣言をこの期限に解除するのは難しく、再度延長をすることになるのではないか。
それでも総裁選が始まれば、メディアの関心は自民党に集まり、ニュース番組でも一定の時間をとって報じることになる。遅くとも11月には行われる総選挙を前に、国会で政府が野党議員から追及される場面を国民に見せず、それでいながら自党関係者のメディア露出を増やそうということだろう。
「国民のために働く内閣」といいながら、結局のところ、党利党略が最優先ではないか。