先日、愛知県名古屋市のパチンコ店でスロット台を蹴りつける男性客のニュースが注目を集めた。台を2回蹴った上に殴った男性客はエレベーター内でも壁を蹴り続け、さらに駐車場でもコーンを蹴り上げるなど迷惑行為を連発。大事なタネ銭を失ったようだが、その映像を見て「自業自得だ」と感じたギャンブラーは少なくなかっただろう。
熱くなると「絶対に勝てない」理由
今から30年ほど前、大学生だった筆者は数年間、パチプロと行動を共にしていた。いわゆる“ジグマ”(特定の数店で稼ぐパチプロ)であるそのプロは、常に目立たぬ存在ながら、気がつけばほぼドル箱を積んでいた。
ツルさん、と呼ばれたそのプロは常に冷静沈着だった。あるとき、財布の中の3万円をすべて失った筆者がパチンコ店の床に唾を吐いた。当時流行っていた一発台にタネ銭を注ぎ込んだが、一度も当たらず、むしゃくしゃして自暴自棄になっていたのだ。
その直後。一発台を当てたツルさんが筆者にこう語った。
「今日は帰れ。もう絶対に勝てないし、やるだけムダだ」――その瞬間は負けが込み熱くなっていたが、頭を冷やした後日、言葉の意味がよくわかった。
数日後。3万円勝った直後のツルさんに、酒を飲みながらこう言われた。
「なあ、イヤマよ。この前みたいになると絶対に勝てねぇぞ。なぜだかわかるか?」
ギャンブルの経験値の少ない筆者は、首を横に振った。
「パチンコを筆頭に、ギャンブルにはいろいろな必勝法がはびこっている。そのほとんどは理論的だが、一つだけ、どんな種目にも共通するものがある。何だかわかるか?」
筆者は、またも首を横に振った。
「直感だ。頭の中が冴えていると、たとえば釘を見たときに『この台だ!』とピンとくる。その直感が、勝つために一番大事なんだ」
当時は今よりも釘の重要性が高かった時代だが、それはさておき、ツルさんいわく、直感こそ勝利への入口だという。
「ピンときた台を試し打ちするだろ。一発台ならストレート(球が真横に飛ぶ回数)が多いか否か、デジパチならボーダーライン(「1000円で20回転以上」などの勝利戦略)を超えているかどうかで判断するよな。ただ、『その台を見つける、最初の瞬間』こそ直感だ。直感を閉じたら、勝てる台をほかのヤツに取られちまうんだよ」
「いつまでも負け組」の特徴とは
1カ月後、ツルさんの言う通りに行動した筆者は、ギャンブルで稼ぐためのイロハを覚えた。負けが込むほど熱くなり周囲が見えなくなっていたが、経験を重ねるにつれて、熱くならず冷静にいることが大事だと悟った。
そう、熱くなると直感を感じなくなる。どこかへ逃げていってしまうのだ。
パチプロはもちろん、馬券プロも株の投資家も、勝利者は常に冷静である。いくら負けたのか知らないが、件のニュースのように熱くなってしまうのは「いつまでも負け組」。自分自身に敗因がある、と理解しなければ、いつまで経っても泥沼から逃れることはできない。
ツルさんは、筆者にこう教えてくれた。
「まず、冷静でいること。基本中の基本だ。もちろん、たまには負けることもある。そんなときも、直感が冴えていると『この台は勝てない』とピンとくる。つまり、負けを最小限にできるんだ」
あれから30年。パチンコをやめた筆者の種目は株や競馬に替わったが、勝利に共通するのは「冷静さによる直感力」。これは、どのジャンルでも変わらぬ永久的な必勝法である。
(文=井山良介/経済ライター)