今月は、重要な需要項目のひとつである輸出について取り上げる。輸出は需要項目のなかでも景気を予想するうえで最も大切なものといえる。輸出が重要な理由としては、拡大していた景気が、輸出の不振により後退に転じる、あるいは、後退していた景気が、輸出の好調により拡大に転じるなど景気の転換のきっかけになることが多い点を挙げることができる。
韓国で毎月の輸出を把握するための指標は、関税庁が毎月公表している「月間輸出入現況」のドル価格でみた輸出金額である。これは名前のとおり金額ベースの数値であり、価格の変動も反映されるため、数量ベースの実質値を把握できない。
例えば、原油価格の高騰により石油化学製品の価格が上昇した場合、石油化学製品の輸出数量は増えていなくても輸出金額は高まってしまう。よって実質的には輸出が増えていないにもかかわらず、輸出が増加していると判断する危険性がある。また季節調整値が公表されていないため、前年同月比しかみることができない。よって、きめ細かい数値の変化を把握することができない。
日本の場合には、輸出数量指数があり、輸出数量の変化、すなわち実質的な輸出の動きを把握することができる。また、内閣府が季節調整をかけた数値を公表しているため、季節調整済前月比をみることができ、きめ細かい毎月の動きを把握することができる。韓国の輸出統計は日本のものと比べ限界があるものの、この指標しかないため、限界に留意しつつ輸出の動きを判断することとなる。
韓国の輸出はかなり好調
さて韓国の9月の輸出の動きをみてみよう。9月の前年同月比は16.7%増であり、前月の34.8%増よりは増加率が低下したものの、7カ月連続で2桁増が続いている。金額でも7カ月連続で500億ドルを超えている。よって韓国の輸出はかなり好調であると考えていいだろう。
品目別に輸出動向をみてみよう。半導体は前年同月比で26.9%増となっている。半導体はコロナ禍により需要が伸びた品目である。テレワークやリモート会議が増えたため、コンピュータ需要が増えた。コンピュータにはメモリーが積まれているが、韓国はこの分野では世界でトップシェアを持っており、その結果、輸出が大きく増加した。また、通信量の増加もありデータセンターの増設がなされたが、そのために必要な半導体需要も韓国の半導体輸出を押し上げた。
また石油製品は77.2%増であるが、これは原油価格の高騰による。コロナ禍によって減少していた原油需要が最近は回復した一方、産油国の供給が需要増に追いついていないことから原油価格は高騰した。原油価格が高騰すれば、石油製品の価格も高まることとなり、主に価格要因により石油製品の輸出金額が大きく増加しているのである。一方で乗用車の輸出は5.6%の減少となっている。これは車両向けの半導体が世界的に不足しており、自動車生産を抑制しなければならない状況に陥っているからである。
次に地域別の輸出をみてみよう。中国向けは17.3%増となっている。中国の景気は最近は鈍化気味になっているが、現在のところ中国向け輸出は景気鈍化の影響を受けていないようである。また、アメリカは14.5%増、ユーロ地域は15.8%増であり、主要輸出国・地域向けの輸出は現在のところすべて2桁増となっている。
韓国の輸出統計は数量ベースではなく金額ベースなので価格変化の影響を除くことができない。また季節調整値が公表されておらず、毎月のきめ細かい変化を把握できない。このような限界を承知して最近の輸出の動きを判断するならば、輸出は好調であるといえるだろう。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)