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千葉哲幸「フードサービス最前線」

高級食パン・ブームの先駆者「一本堂」、急拡大の経営の秘密…食パンのFC化を実現

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
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一本堂
東京・新宿御苑にある「一本堂 新宿本店」。紺の大きな暖簾が老舗の雰囲気を醸し出している

コロナ禍でも伸び続けている「高級食パン」の先駆者が信念としていること

高級食パンブーム」が続いている。セブン-イレブンが「金の食パン」を商品化したのが2013年。10年代の前半に一世を風靡した「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」が「俺のBakery&Cafe」1号店を恵比寿にオープンしたのが16年。21年に出店が加速している「One Hundred Bakery」1号店が池袋にオープンしたのは19年。この業態は過当競争となって閉店している事例がある一方で、コロナ禍で夜営業が厳しくなっているなか、新規出店の事例が相次いでいる。最近では「〇〇妻」「自己中〇〇」など奇抜な店名も増え、この業態特有の現象を感じさせる。

 高級食パンブームのトレンドをつくってきた存在として、「一本堂」というチェーンが挙げられる。創業は13年3月、大阪市都島区高倉町で9坪の店からスタートした。現在はFC(フランチャイズ)メインで全国に約140店舗を展開している。筆者が訪ねることが多い東京・十条の商店街のなかに同店があり、地元の顧客がパンを買い求める光景が見られる。奇をてらうところはまったくなく、顧客の日常に根差した「街のパン屋さん」という存在感がある。

学習塾のFC展開で“急成長”を体験

一本堂
「一本堂」(IFC)の代表、谷舗治也氏。学習塾のFC開発、飲食店のコンサルタントのキャリアを経て「高級食パンのFCチェーン展開」に至った

「一本堂」を展開するのはIFC株式会社(本社/東京都新宿区、代表/谷舗<たにしき>治也)。創業者であり現代表の谷舗氏は1959年生まれ。大学卒業後、製薬会社に勤務、その後学習塾に勤務し、FC全国展開の立ち上げを行った。ここでは2年間で200店舗という実績をつくり、FCの仕組みを体得した。

 学習塾の会社を退社してから、飲食業界のコンサルタントを行った。その過程で、ほかの人の事業を支援するのではなく、自ら事業を立ち上げようと考えた。それは「日常的な存在」であること、そして「説明が不要」なものということ。

 ここで、ある“ひらめき”のきっかけとなったのが、製薬会社に勤務していた当時の出来事。その会社ではドイツのバイエル社が開発したアスピリン(解熱鎮痛薬の一つ)を注射薬にして新しい可能性を切り拓いた。アスピリンは当時飲み薬しかなく、注射薬にするのは技術的に困難であったことから、その発想すら存在しなかったという。谷舗氏は当時同社がアピールしていた文言をしっかりと記憶していた。

「アスピリンは誰でも知っている薬だが、注射薬にすることで効果が数倍早くなる。だから、誰でも知っているものが、表現の仕方を変えるだけで汎用性が格段に広がる」

 この発想をベースにして谷舗氏はこれから取り組む事業に対して「古くて新しい」というキーワードを付与した。

一本堂
売り場には製造された食パンが並べられて出来立ての香りが漂っている

食パンをFC展開する仕組みをつくる

 ある日、高級スーパーで同店の人気商品である「ホテル食パン」を購入した。購入の動機となったのは「ただいま焼きあがりました」というキャッチフレーズ。帰路そのパンを自転車の前かごに入れていたのだが、一口つまんでみたところ温かく大層おいしく感じられた。また一口、また一口と食べ続け、家に到着したときには食べきってしまっていた。

一本堂
食パンの出来上がりの時間が表示され、顧客の好みのパンを購入するタイミングが分かる

 そこで谷舗氏はひらめいた。一般的なパン屋さんには「焼きたて」が存在しないことを。他の例えば総菜店では、コロッケ、メンチカツなどに「揚げたて」があって、その言葉が大きな付加価値となっていた。

 谷舗氏の新しい事業のキーワードである「日常的で説明が要らない」「古くて新しい」という商品として「食パン」が定まるようになった。

 これがきっかけとなり「食パン専門店」の存在を知った。その店に通い同じ食パンを食べてみるのだが、その味がいつもと違うことがあった。それがなぜかをパンの業界関係者に尋ねたところ「職人さんがつくっているからだ」という。

「職人さんはプロだから、小麦粉、砂糖、塩、バターといったものを勘と経験で調合する。それによってパンの味が変わることがある」

 谷舗氏は「それでは食パン屋のFCはできない」と考えた。そこで、その知人に「パンを規格化することができないか」と尋ねたところ「できる」という。しかも、研修を受けることによって誰でも同じ品質のものができるという。

 そのポイントは「食パン専用ミックス粉」であった。これに製造工程に沿って水やイースト菌などを入れてミキシングしマニュアルに沿って焼成すると常に安定した品質の食パンができあがる。谷舗氏はこの仕組みによって食パンのFC化が可能になると判断し、焼きたて食パン専門店「一本堂」をオープンした。それが冒頭で紹介した大阪の店舗である。1斤の価格は210円。同じような商品はスーパーで150円程度であったが、「焼きたて」によって差別化した。翌14年4月、FC1号店として東京都三鷹市に出店し今日の成長の足掛かりとなった。

一本堂
関連商品の品ぞろえが充実してきている

大手製粉業者がもたらした飛躍のチャンス

「一本堂」が飛躍したのは17年のこと。現在同社に食パン専用ミックス粉を納品している大手製粉業者と出会ってからである。これによってミックス粉の品質は安定するようになり、商品のバラエティは広がるようになった。

 現在の商品は大きく3つのカテゴリーに分かれている。まず、「プレーン系」として1斤300~430円(税込、以下同)、次に「デザート系」として400~540円、さらに「高機能系」として370~450円と、全部で約30品目をラインアップしている。

「高機能系」のなかに最近急速に注目を浴びてきている低糖質の商品をラインアップしている。これは17年に商品化したものだ。低糖質化のポイントは大豆粉で、これによって「一本堂」のプレーンの商品に対して糖質50%オフとなっている。この商品を求めてやってくる遠方からのお客も存在し安定した量が売れ続けているという。

 また、「一本堂米粉食パン」650円も加わるようになった。これは北海道当別町産の「ななつぼし」の米粉、国産小麦粉、北海道産豆乳をしている。一本堂としては「しっかり朝食」という文言でアピールしているが、こだわりがはっきりとしていることから、根強い人気が定着するようになった。

コロナ禍で法人が「一本堂」の堅実さに着眼

高級食パン」がにぎわうようになって一本堂でもこの分野に参入した。「東京食パン 壱よし」という店名で21年6月、東京・自由が丘にオープンした。差別化のポイントとしてアピールしていることは、まず素材にカナダ産小麦、国産小麦、フランス産発酵バター、カリフォルニア産モハベレーズン、北海道産大納言小豆を使用していること。製法として卵・蜂蜜・イーストフード・乳化剤を使用しないで低温長時間発酵でじっくりと生地を熟成させていることである。

一本堂
「新宿本店」は研修施設を兼ねるために工房が広くレイアウトされている

 店名ははやりのキャッチーな要素を追わずに、素材と製法を詳しく表示している点に「正統なパン屋」としての矜持が感じられる。当初2斤800円~1200円で打ち出したが、1斤430~630円の商品も加えたところ1斤のほうがよく売れるようになった。

 さて、一本堂にFC加盟するに際して初期投資は、加盟金などが178万円(税抜、以下同)、製パン機械等の設備関係が約900万円、12坪程度での物件関係に約550万円、合計概算1600万円強が必要となる。ロイヤリティは売上の3%で月額5万円が上限となっている。

一本堂
研修室に飾られた食パン製造の工程。視覚で記憶することで習熟が正確で早くなる

 これまでFCに加盟する人は個人であった。それは元自衛官、元公務員、元会社員など。またコンビニ経営者が加盟するパターンもあった。これが、コロナ禍によって法人が増えた。それはカフェ、美容室、エステ、書籍販売、カルチャーセンターといったところで、昨年10月以降増える傾向を示している。加盟の狙いはそれぞれ事業多角化の一環である。食パンには日常的な需要があり、地元密着の商品特性があることから新規の加盟者は既存の商売との親和性を感じていることであろう。

 谷舗氏の事業のキーワードとされた「日常的で説明が要らない」「古くて新しい」は商売の本質を語っているようだ。それがコロナ禍でも店数を増やし続けることで実証している。

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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