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インボイス制度開始で大混乱?個人・小規模事業者、消費税「益税」消滅で収入減少

取材・文=A4studio
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「Getty Images」より

 ウーバーイーツ配達員や個人タクシー運転手、そのほかフリーランスで仕事をしている多くの個人事業主、または小規模で事業している企業にとって、大きな負担となりそうな制度改革の試行が刻々と迫っている。

 2023年10月から始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式)。この制度が施行されると、消費税の納税を免除されていた個人事業主や小規模企業も納税しなくてはいけなくなり、実収入が減ってしまう可能性が高いとのこと。一例だがウーバーイーツ配達員として月20万円の収入がある個人事業主の場合、手取り額が1万円弱も減ってしまうという。

 そもそも消費税に採用されているのは、課税事業者が年間売上高の消費税分から、仕入時の消費税分を控除されて納める仕入税額控除方式。一方、現在は事業者免税点制度によって、個人事業主は前々年、小規模企業は前々年度の課税売上高が1000万円以下の場合、消費税を納める義務が免除されている。しかしインボイス制度によって、実質的にこの消費税免除が受けられなくなるというのだ。

 そこで今回はヒロ●総合会計事務所(編注:●は星マーク)の代表税理士であり、「税理士YouTuber」としても活躍している田淵宏明氏に解説してもらった。

「益税」解消が「インボイス制度」の目的? 「益税」とは?

 まず、インボイス制度とはどういう制度なのか。

「インボイスとは請求書や領収書のことで、インボイス制度とは、支払った消費税額の証明となる登録番号付きのインボイスの保存を義務付けるというもの。これによって支払う側の企業は個人事業主などからも、インボイス制度施行後は登録番号付きのインボイスを提出してもらわなくてはいけなくなります。

 消費税の免税事業者だった個人事業主や小規模企業からすれば、大手企業と取引するためには登録番号付きのインボイスを発行する必要があるため、税務署で手続きをして課税事業者にならなくてはいけないのです。インボイス制度施行後も免税事業者のままでいることもできますが、適格請求書発行事業者でない事業者とは取引を打ち切る大手企業は多いでしょうから、大多数の個人事業主や小規模企業が免税事業者から課税事業者に鞍替えせざるをえなくなるでしょう」(田淵氏)

 売上高1000万円以下で免税されていた個人事業主や小規模企業は、これまでは消費税分も実収入として懐に入れられていたが、インボイス制度でそれが許されなくなるということか。

「それこそがインボイス制度導入の目的だと思います。これまで業務委託などの個人事業主は自分が受け取っていた消費税10%を、納税せずに自分の収入にできていました。上乗せされて支払われていた消費税分は、一時的に預かっているようなもので、本来は自分の売上ではないのに収入にできていたんです。免税事業者が納めていない税金のことを『益税』と言いますが、インボイス制度はそんな現状を是正して『益税』解消を目的としたものだとみていいでしょう。

 国としては、本当は売上高1000万円以下を免税事業者とするといった基準自体を、なくしてしまいたいのだと思います。ですが一度つくった制度をなくすというのは、国が国民との約束を反故にするようなものなので、なかなかできない。だからインボイス制度を導入することにしたのでしょう。国としては免税事業者の制度はなくさないけれど、ウーバーイーツなどの大手の支払先に責任をなすりつけるような形で、現実的に免税事業者ではいられないようにするというのが、インボイス制度の実態でしょうからね」(田淵氏)

月収20万円のウーバー配達員なら1万円弱の収入減になる?

 だが受け取った消費税10%分をそのまま納税しなくてはいけないわけではない。

「その収入を得るためにかかった仕入れなどの経費分は控除されます。実際に課税業者になった場合、計算などの手間がかからず業種によって40%から90%の“みなし”で仕入税額控除を受けられる、簡易課税制度を利用する方が多くなるでしょう。

 例えば、卸売業であれば90%をみなし仕入率とできるため、受け取った消費税10%のうちの10%、つまり1%分を納税すればOKということになります。小売業はみなし仕入率80%なので、消費税10%のうちの20%、つまり2%分の納税というかたちです。ただ運輸通信業にあたるウーバーイーツ配達員や個人タクシー運転手などは、みなし仕入率50%なので、実質的に5%分を納税しなくてはいけなくなります。ですからウーバーイーツの配達で月20万円の収入があったとすると、ざっくりいうと1万円弱を消費税として納税しなくてはいけないということですね。

 とはいえ、ウーバーイーツ配達員ならランニングコストはさほどかからないはず。実際は収入のうちの経費が占める割合が50%を超えるということはあまりないと思いますので、簡易課税制度を利用しなければ、もっと納税額が増えるし、手続きの手間も増えるということになるでしょう」(田淵氏)

 インボイス制度が始まり、消費税納税でさらに手取り額が減るとなると、ウーバーイーツ配達員を辞める人が増える可能性もある。

「ウーバーイーツ側はまだインボイス制度への対応を発表していませんが、仕入税額控除を受けられないと多大な損失となります。とはいえ、デリバリー業の生命線である配達員がどんどん辞めてしまうという事態も避けたいはず。多くの業界が人手不足で悩まされている時代ですから、今は人気のウーバーイーツも人材確保の重要性はわかっているでしょう。ですからあくまで個人的な予測ではありますが、ウーバーイーツが課税事業者となった配達員の報酬を上げるなど、配達員にとって前向きな改定をしてくれる可能性は充分あると思っています」(田淵氏)

 免税事業者の個人事業主や小規模企業にとって経済的致命傷を与えかねないインボイス制度。田淵氏の予測するように、ウーバーイーツなどの大手が働き手に寄り添う対応をしてくれるのだろうか。2023年10月からの制度開始まで注視していきたい。

(取材・文=A4studio)

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エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
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