世論と公明党への配慮からトップの首をすげ替えて仕切り直しとなった自民党税制調査会で、先週から軽減税率の導入論議が活発化している。
安倍晋三首相が「国民の皆様との約束だ」と述べて、2017年4月に予定されている消費増税(税率を現行の8%から10%へ引き上げ)と同時に実施する方針を改めて確認したことを受けて、税調の新会長となった宮沢洋一参議院議員が「11月半ば過ぎには自公両党で大筋合意する必要がある」と精力的な調整を始めたからだ。
だが、その中身となると、「安定的な財源の確保が最優先だ」「17年4月に事業者に大きな混乱をさせてはいけない」と筋論を前面に押し出して、本来ならば軽減税率の適用に不可欠なはずのインボイスの導入を先送りし、財源が4000億円程度しかないという理由で軽減税率の適用品目を「酒類を除く飲食料品」から「生鮮食品」に絞り込む構えをみせている。これでは、国民の痛税感の解消には力不足の小型軽減税率制度にならないか懸念せざるを得ない。
軽減税率とは、通常の税率のほかに、特定の品目に低い税率を設けることだ。所得の多い人に高い税率を適用する累進性のある所得税と違い、消費税は対象の商品が同じならば所得に関係なく同じ税率を適用するので、低所得者に厳しい税金だ。このため、日本の消費税に相当する付加価値税が早くから普及し、その税率が20%前後に達している欧州諸国では、軽減税率も幅広く適用されている。こうした例を参考に、自公連立与党は17年4月の消費税率引き上げを機に、日本でも軽減税率を導入することを先の選挙で公約していた。
ところが、9月初旬に明らかになった財務省案は、国民の手元に届いてもいないマイナンバーカードを買い物のたびに提示させ、店頭ではすべての商品に10%の消費税を支払わせて、後で軽減税率分を還付するというものだった。この煩雑な仕組みに加えて、所得制限を設けて、軽減される税額をあまりにも小さく抑え込む腹案もあったことから、世論と公明党が一斉に反発した。
宮沢氏の起用
そこで今月10日、安倍首相は、財務省OBで同省べったりといわれていた野田毅前自民党税調会長を事実上更迭し、今月初めの内閣改造で経済産業大臣の任を解いたばかりの宮沢氏の起用に踏み切った。