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小林敦志「自動車大激変!」

日本でBEVが普及しない本当の理由…周回遅れ挽回の鍵は独自の「軽自動車」開発力

文=小林敦志/フリー編集記者
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トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)
トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)

 前回、欧州や中国に比べてBEV(バッテリー電気自動車)の普及が遅れがちな日本は軽規格BEVに活路を見出すべきではないか、という考えについて述べた。筆者個人としては、プロモーションも含めて、BEVやFCEV(燃料電池自動車)などはできるだけ“内燃機関車臭”を廃してこそ成功するものと考えている。

 デジタルカメラは一眼レフの世界ではいまだにフィルム時代からの形状を維持しているが、すでにスマホ(スマートフォン)の普及でコンパクトデジタルカメラはその勢いを失っている。しかも、若者はスマホで写真を撮り慣れているので、カメラ然とした形状での撮影方法(ファインダーをのぞいたり、シャッターを押すなど)を知らなかったり、不便さを感じる人も多いと聞く。

 BEVといったゼロエミッション車も、これからの100年もしくはそれ以上を担っていく乗り物。これから長い間BEVなどを運転していく(自動化で運転する必要がなくなる?)、今の若者の感性やデジタルライフをあますことなく反映させ、今までの自動車の既成概念にとらわれない発想の転換を行い、開発していくことが大切になってくるものと考えている。

 それなのに、今までの自動車どころか、“軽自動車”という規格まで強調されれば、新しい乗り物というイメージは大きく減退するし、「ガソリンの軽自動車より価格がかなり高い」など、ネガティブな声が目立ってきてしまうだろう。

軽自動車は日本の自動車メーカーの特産物

 車両電動化に熱心なタイでは、関税を下げるなどして、まずは富裕層を中心に輸入電動車に乗ってもらい、これを普及第一弾と考えている。アメリカでは富裕層を中心にテスラが売れているが、これもある意味「乗れる人から乗れ」的な発想で街なかを走ってもらい、まずは広く世間に電動車の存在を周知させているようにも見える。

 BEVの普及が世界一ともいわれる中国でも、当初外資の高級BEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)が新エネルギー車の販売ランキングでトップクラスを占めていたが、政府の方針もあり、ここにきて格安の“マイクロBEV”の普及などもあり、中国メーカーのBEVが販売ランキングトップに名を連ねるようになってきた。しかし、今後は電池交換式のBEVの普及を進めたいなど、中国政府ですら新エネルギー車の普及では苦労している。

 日本の軽自動車は、あの規格でオートマチック、オートエアコンなどの快適装備の充実のほか、登録車並みの安全運転支援デバイス等々、諸外国から見れば驚くようなスペックを持っている。東京モーターショーの会場では、欧米のメディア関係者が軽自動車のボンネットを開けたりして、その存在に驚く風景をしばしば見かける。

 しかも、海外メーカーではここまでのプロダクトはできないとも言われている。それは単に技術的なものだけではなく、格差社会が日本より拡大しており、価値観として「そこまでする必要がない」というのも邪魔しているようである。

 日本の軽自動車はまさに純然たる階級社会でもなく、フラットな目線がまだまだ残っている。その日本の自動車メーカーならではの“特産物”である。今まで培ってきた軽自動車づくりを継承しながら、次世代を担うべく発想の転換を行いながら開発していけば、軽規格BEVの可能性は広がりを見せるはずだ。

 もちろん航続可能距離はそれほど長くはならないだろうが、まずは街乗りメインのユーザーに使ってもらい、段階的に日本国内でも新エネルギー車の普及を図っていくというのはどうだろうか。とにかく街なかで新エネルギー車を目立たせていくというのは大切なことだと考える。

 前回触れた三菱自動車「i-MiEV」の輸出モデルは登録車サイズとなり、日本でも最終モデルの頃は登録車サイズとなっている。つまり、日本では軽規格としながら海外向けとして登録コンパクトカーサイズくらいのモデルも開発すれば、海外展開でも“日本ならではのBEV”として注目されるはずである。中国で人気の格安マイクロBEVは、エアコンすらつかないモデルもある。そこへ“なんでもござれ”となる日本の軽自動車の流れを汲むBEVの登場は、相当にインパクトが高いはずである。

日本の新エネルギー車普及のカギ

 そもそも日本車が世界市場へ進出したのも、“コンパクトで高性能、そして低燃費”だからこそであった。日本車として原点回帰しながら、発想を転換させれば、きっと素晴らしいものができるはずである。

 メーカーが一生懸命、優良な新エネルギー車を世に送り出しても、肝心の政府がどのような普及を図ろうとしているのか見えてこない。日本は、政府が新エネルギー車について単に既存の内燃機関車の延長線上としか考えていないように見えるところが、悲劇的な結果を生むような気がしてならない。出てくる話は購入補助金ばかりで、インフラ整備やどのように車両の普及を進めていくのか、現状では“行き当たりばったり”に進めているように見えてならない。「100%電動車になるのは遠い先の話」と考えているかのようにも見えてしまう。

 確かに、ロシアのウクライナ侵攻もあり、欧州の電動車普及も先行き不透明感が目立ってきているともいわれている。しかし、だからといって何もしなくていいというわけではないだろう。スピードは別として、新エネルギー車の普及という基本路線に変わりはない。

 日本の自動車メーカーは政府と一丸となり、国の重要基幹産業として自動車産業を成長させてきた。あえて、これとは別の産業を育て上げていくぐらいの取り組みを官民一体で進めていかなければ、今の世界というか、海外の自動車産業先進国からの周回遅れともいえる現状の払拭は、かなり厳しいものとなっていくだろう。もちろん、そんな気がないというのなら別の話になるが……。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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