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小林敦志「自動車大激変!」

トヨタ、新型BEV「bZ4X」を販売なしで投入の衝撃…日産&三菱の軽BEVは諸刃の剣?

文=小林敦志/フリー編集記者
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トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)
トヨタの新型BEV「bZ4X」(「トヨタ自動車WEBサイト」より)

 トヨタ自動車の新型BEV(バッテリー電気自動車)となる「bZ4X」が話題となっている。モデルそのものへの注目もさることながら、販売ではなく、個人向けカーリースとなる「KINTO ONE」の利用のみで普及させていくとのことである。

 あえて“販売しない”ことについては、消費者の多くが抱える、BEVのリセールバリューの悪さへの不安を払拭させることが狙いにあるとのこと。また、トヨタでは初ともいえる本格量販を狙ったBEVであることから、メンテナンス管理をしっかり行いたいので、リースのみにして“販売”をあえて封印したのではないかとも考えられる。bZ4Xに限らずBEVはどうしても割高イメージも先行してしまうので、KINTOを全面に出し、それを払拭させたいのかもしれない。

 いずれにしろ、国内販売トップのトヨタが最新量販BEVを世に送り出すこととなり、BEVへの世間の注目がより高まってきたのは間違いないだろう。

中古のBEV需要が増加中?

 リセールバリューについては、「初代日産リーフは特にボロボロでした。日産系ディーラーでも『初代ではお客様にご迷惑をおかけすることも多々ありました』と自虐的にトークを展開し、現行型の販売促進をするのは半ば常道のように見えます。初代リーフのケースが、より“BEVはリセールバリューが悪い説”を増長させてしまっているのも否定できません」とは事情通。

「リーフ」とは異なる軽規格(多くの年式)BEVとなる三菱自動車「i-MiEV」では、たとえば2009年式のある物件では48万円の価格がついていた。13年落ちで新車時価格に対して約12%の価格をつけている。一方でガソリン仕様の三菱「i」の同年式で同程度の物件では、新車時価格に対して約20%となっている。ただ、2016年式で見ると、新車時価格の約57%となっている物件があり、6年落ちほどで50%前後まで価値が残っているので、それほどリセールバリューは悪くない印象がする。

 2016年式のリーフ(現行型)の中古車で試算してみると、約31%となっているが、こちらも声を大きくして好条件とはいえないものの、目立って悪いレベルでもない。

 ある日産ディーラーで聞くと、「初代リーフでは確かにボロボロと言われても否定はできない状況でした。ただ、最近では中古のBEVにも興味を示されるお客様も目立ってきております」とのこと。

 欧州や中国などに比べて日本国内や日系メーカーがBEVの普及に出遅れているのは否定できないが、それでもここへきて世間でも注目されるようになり、「中古車でも……」という人が増えてきているようである。

 欧州メーカーなどから見れば出遅れている状況が否めない中で、欧州メーカーなどが積極的にラインナップしているSUVスタイルやセダンスタイルのBEVのリリースを日系ブランドが行うことは、“ソニーのBEV”くらいのインパクトがない限りは、後追い感を持つ消費者もいるかもしれない。先行する欧州勢はすでに、初期モデルに比べれば進化が目覚ましいモデルも多い。後発ならではの“日本車ならではのBEV”というキャラクターがはっきりしないと、なかなかきつい勝負になりそうだ。

三菱と日産は軽規格BEVを市販へ

 また、SUVスタイルなどでは価格の高さも目立ってしまい、補助金が交付されたところで、多くの人がすぐに手を出せる価格にはならないだろう。そこで、日本全体のBEVラインナップや普及の出遅れイメージを払拭し、BEV普及に弾みをつけるためにも、日本は軽規格BEVに活路を見出すべきではないかと考えている。

 先行しているように見える欧州勢ではあるが、市場投入に熱心なのは価格転嫁が容易ともいえる、富裕層向けの上級ブランドBEVとなっている。軽規格とともに、いわゆる大衆車レベルでの新たなBEVのあり方を日系ブランドが構築できれば、逆転大ホームランも十分あり得る。

 すでに、三菱日産自動車が軽規格BEVの市販を予定している。三菱は2022年1月に開催された東京オートサロン2022において、軽規格BEVのコンセプトカー「K-EVコンセプトXスタイル」を初披露した。三菱の軽自動車であり、ダイナミックシールド フェイスを採用した「eKクロス」をベースにしたBEVコンセプトカーとなっている。

 三菱について、このコンセプトカーをベースに今後市販モデルとなっていくのならば、かなり現実的な“形”になっているのだが、日産の軽規格BEVはなかなかその形が見えてこない。

 日産系ディーラーで話を聞くと、「まだいつ頃デビュー予定といった、漠然とした話も聞いていない」とのこと。軽規格BEVというと、売れ筋軽自動車にBEV仕様を追加するだけといった連想をしがちだが、これでは価格がかなりアップしただけで、既存の内燃機関の軽自動車ユーザーはもちろん、消費者の多くがなかなか興味を示すわけがない。

 三菱は軽自動車の中でも付加価値の高いeKクロスベースをあえて選び、付加価値を高めて、今までの軽自動車ユーザーとは異なる層へアピールしていこうとしているようである。事実、三菱系ディーラーで話を聞くと、「軽自動車という規格にとらわれない新しい客層にアピールしていきたい」と語っていた。

 日産系ディーラーでは、開発が遅れているような状況について、「従来の軽自動車のイメージにとらわれない、新しい付加価値を持たせることに苦労しているのではないか」と話し、三菱系ディーラーと同じように「登録コンパクトカーにお乗りのお客様あたりをターゲットにしていきたい」としていた。

 つまり、“軽規格”というのは、あくまでもそのサイズイメージをわかりやすく説明している“例え”であり(もちろん軽自動車の恩典はあるが)、三菱日産はおそらく“軽自動車”といったキーワードは極力使わない方がいいだろう。また、マスコミがあまりにも“軽規格”に固執した報道を進めてしまえば、これもまた“軽自動車にしては割高”などと、ネガティブなイメージ先行となってしまい、軽規格BEVの成功は危ういものとなるかもしれない。軽規格BEVというのは、まさに“諸刃の剣”といってもいいかもしれない。

 筆者個人としては、BEVやFCEV(燃料電池自動車)などはできるだけ“内燃機関車臭”を廃してこそ成功するものと考えているのだが、そのあたりの事情については次回に詳述したい。

(文=小林敦志/フリー編集記者)

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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