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賃貸物件の退去時、原状回復費20万円請求される→逆に敷金返還…損しない交渉術

文=A4studio
賃貸物件の退去時、損しない交渉術
「gettyimages」より

 2021年6月にあるTwitterユーザーが投稿したつぶやきが話題を集めていた。その内容をまとめると、コロナ禍で不要となった事務所を引き払う際、不動産会社からトイレなどの原状回復費として約20万円、敷金を差し引いても約11万円請求されたが、消費者生活センターなどに相談して対応したところ、敷金内で済み、逆に敷金の一部7500円が返還されたというものだ。

 そこで今回は住宅ローンアドバイザー・コンサルタントとして、数多くの個人向け賃貸物件トラブルに対応してきた新井智美氏に、マンションや事務所といった賃貸物件の退去時トラブルの実態や、心がけておくべきことについて話を聞いた。

トラブル時のプール費用である敷金と原状回復費の関係をおさらい

 そもそも敷金制度と原状回復費はどんな関係にあるのか。

「敷金制度というのは、物件を借りている契約期間のなかで家賃の滞納があったり、借りている人の故意・過失で部屋を傷つけてしまったりした場合に備えて、先に貸主側にお金を預けておく制度のことです。退去時にチェックをし、問題なければその額は返金されますが、契約時の条件に反するような損失が物件にあればそこから差し引かれます。

 次に原状回復費ですが、借主が部屋を汚したり傷つけたりした場合の修理費にあたるものです。これは基本的に敷金から差し引かれるものですが、敷金の金額に収まらない場合は別途費用を請求されることもあります」(新井氏)

原状回復費を減額できる可能性がある「減価償却」という考え方

 件のツイート主は、トイレ修理などの原状回復に20万円かかるとされていたトラブルだったようだが、その際に減価償却を軸に相談し、大幅に請求額が減ったのだという。この減価償却とはどのようなものなのか。

「建物自体、そして建物に付属する畳や壁紙など、いわゆる固定資産については、それぞれ法律で決まった耐用年数があり、その年数を重ねるごとに価値が下がっていき、耐用年数を過ぎると価値が1円になる――このように長期に渡って使用する固定資産について、時間の経過に応じて計算した額を費用として計上することを減価償却といいます。ですので、貸主のオーナーたちは、その耐用年数から算出される減価償却率に合わせて計算した額を減価償却費として計上し、税務署に申告する収支を計算していくわけです。

 とはいえ、耐用年数が過ぎても丁寧に使っていればその設備(固定資産)は使えるわけですから、賃貸物件の場面でも耐用年数が過ぎた設備が利用されることは少なくありません。そして、そのような場面であれば、万が一原状回復費の請求が発生しても、借主側は全額を負担しないで済むのです。

 例えば壁紙の耐用年数は6年と定められているので、新築で住み始めて7年後に退去するなら、過失で壁紙が破れていたとしても、壁紙の原状回復費は請求されない、もしくは、されたとしても残っている価値(1円)の請求ということになります。ですからもし、そのようなケースで壁紙の張り替えに8万円かかるとして原状回復費を請求されたとしても、支払わなくて済む可能性が高いということです」(同)

 トイレの耐用年数は約15年といわれており、ツイート主の物件は築40年でそれまでトイレは一度も新調されていなかったそうなので、突っぱねることができたようだ。

国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で規定などがわかる

 では耐用年数が過ぎていれば、借主は故意に壊すなどしても請求されないのだろうか。

「いえ、そんなことはありません。悪意を持って内装に落書きしていたり損壊させていたりした場合などは、賃借人としての善管注意義務違反ということで、裁判所に支払いを命じられた事例もあります。当然ですが、常識の範囲内で利用する姿勢が求められることを忘れてはいけません。」(同)

 新井氏によると、こうしたトラブルについて国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を定めており、賃貸退去時における原状回復費や、契約時の規定などについて詳細に記されているという。

 今回のツイート主の事例は、減価償却の仕組みを借主が知らないだろうと踏んで、貸主側が足下を見ようとしたのではないかと考えられるが、こうしたトラブルの法整備はどうなっているのだろう。

「民法には、公の秩序に関するルールで当事者の意思により変更が許されていない『強行規定』と、当事者の意思による変更が認められている『任意規定』があります。任意規定は法の定めはあるものの、当事者間でそれと異なる合意や定めがなされている場合は、その合意や定めが優先されるというもので、賃貸物件の原状回復費などは『任意規定』とされているケースが多く見られます。

 つまり足下を見られるような請求だったとしても、悪意があって騙し取ろうとしたという証明ができず、すでに貸主と借主が契約をしてしまっていた場合は、基本的には法律よりその契約が優先されてしまうのです」(同)

わからないけど面倒だから払っちゃおう…はNG、賃貸契約の心構えとは?

 最後に、こうしたトラブルに対して借主側が知っておくべき心構えなどについて聞いた。

「多くの人が貸主側に言われた通りに払ってしまいがちなのが、この問題の本質の気がしています。なんだか納得できないし、よくわからないけど払っておいたほうが後腐れないし……と、ある種泣き寝入り的に怖気付いてしまう人は多いでしょうが、それは危険です。

 また、そういったトラブルを未然に防ぐために、入居時の状態を把握できる写真を撮っておくことや、退去時に不動産会社や大家が部屋をチェックする場面に立ち会うといった対策も、覚えておくといいでしょう。そして請求書を出された際などに、違和感や不信感を抱いた場合は怖気づかずに証拠写真を示したり自身の主張を述べ、冷静に対応していくことが大切です」(同)

 ツイート主のようなトラブルに直面した際は、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参照したり、消費生活センターに相談したりするなど、適切な対処をすれば解決できることも多いようだ。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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