3月に入り、進学や就職、職場の異動などで新たに住宅を探す人も増える季節となり、不動産仲介・紹介会社にとっても“かき入れ時”を迎える。賃貸住宅に住む場合、毎月の家賃以外にも管理会社や大家に支払わなければならないものがある。それは敷金と礼金だ。家賃の1~2カ月分が相場であるが、決して安くないそれらの契約金を払っていざ暮らしてみると、部屋の設備に問題があり、満足な生活を送れないというケースも少なくない。
ここに一例を挙げてみよう。
季節は冬。Aさんは敷金・礼金をそれぞれ「家賃1カ月分」支払って賃貸マンションに入居するも、初日にしてエアコンの異常音に気付く。製造からすでに10年以上経過していた代物らしいが、音はエアコンを稼働させただけで発生し、設定温度を高めたり風量を強めたりすると余計に異音は大きくなったという。寒い日が続いていたためエアコンを一応は稼働させていたが、周囲の部屋の住民に騒音で迷惑をかけてはいけないと、Aさんは低い設定温度で我慢する必要があった。
Aさんはその旨を管理会社へ早い段階で伝えていたのだが、新品のエアコンと交換してもらえたのは入居から20日後のこと。物品の手配や作業員の調整などに時間を要したためである。
つまりAさんは20日間、部屋の設備不良により、契約内容から想定される満足のいく暮らしができていなかったことになる。
敷金はあくまで“担保金”
こうした場合、入居者としては「支払った敷金・礼金の一部でもよいので返還してほしい」と思うのは当然だが、果たしてそれは可能なのだろうか。弁護士法人ALG&Associatesの渡部貴之弁護士は、次のように解説する。
「結論からいうと、管理会社から敷金・礼金の返還を受けることはできないと考えられます。敷金とは、一般的にいうと『賃貸借契約が終了した際、家賃の未払いがあったり賃借人が部屋を汚したりした場合に備え、賃貸人に差し入れられる担保金』です。そのため、家賃の滞納や部屋の汚損がない場合には、賃貸借契約の終了時に返還を求めることができます。しかし逆にいえば、賃貸借契約が終了するまでは原則として賃借人に返還されません。
また、礼金とは、一般的にいうと『賃借人が賃貸人に対し、謝礼の意味で支払うもので返金されないもの』です。そのため、礼金についても、原則として賃借人に返還されません。