制御機器大手のオムロンは医療データ分析のJMDC(プライム市場)を傘下に組み入れた。筆頭株主のノーリツ鋼機(48.88%を保有。21年9月末)から市場外相対取引(1株6000円)で発行済み株式の33%を1118億円で取得した。オムロンのM&A案件では過去最大だ。役員を派遣し、持ち分法適用会社に組み入れる。
ヘルスケア事業に注力しているオムロンは血圧計で世界シェア5割以上を握るほか、血圧計や心電図計から得たデータをスマートフォンなどで管理するアプリを提供している。対するJMDCは健康保険組合の医療データを匿名加工し、製薬・保険会社等へ提供する事業が主力で、受診歴や定期健康診断のデータの累積は1400万人分に上る。
オムロンは自社で保有する日常生活における血圧や活動データなどと、JMDCグループが保有する診療報酬や健康診断などの医療データを組み合わせて解析することで、病気の重症化を防ぐ製品や、生活習慣の改善の支援などに役立てたいとしている。
オムロンは血圧計で世界首位であり、各国の薬局などに販路を持つ。JMDCはオムロンのネットワークを生かし、薬局向けのシステム事業を海外でも展開する。オンラインで記者会見したオムロンの山田義仁社長は「新たな社会価値の創造に取り組む、ベストな組み合わせだ」と述べた。
親会社はオリンパス、ノーリツ鋼機、オムロンと転々
JMDCは2002年、レセプト(診療報酬明細書)分析の日本医療データセンターとして発足。08年、オリンパスが買収して子会社とした。オリンパスは粉飾決算発覚以降、内視鏡など医療機器を中心とした主力事業へ回帰。200社以上あったグループ会社を30社程度に減らした。
写真処理機大手のノーリツ鋼機が多角化の一環として、13年3月、日本医療データセンターなどオリンパスの医療関連子会社4社を買収した。ノーリツ鋼機は10年、遠隔画像診断事業のドクターネットを手に入れており、オリンパスの子会社4社を加えて医療関連分野へ本格進出した。
18年、社名をJMDCに変更したのを機に株式上場を目指す。19年12月、東証マザーズに新規上場した。公募・売り出し価格(公開価格2950円)を960円(32.5%)上回る3910円の初値をつけた。21年11月、東証1部に昇格した。11月25日に株式分割を考慮した株価で上場来高値の9470円をつけた。初値を株式分割後で計算すると1955円になるから、初値の4.8倍になった勘定だ。22年4月4日の東証の市場再編でプライム市場の所属となった。
JMDCの22年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益は前期比28%増の215億円、当期利益は31%増の32億円の見込み。業績は好調だ。ノーリツ鋼機はJMDCの株価が高値圏で推移している絶好のタイミングで、オムロンに持ち株を売却した。オムロンは製品を生産・販売する単品売りから、課題解決型のシステムなどを販売する事業への転換を急いでいる。JMDCへの出資は、この戦略に沿ったものだ。
高齢化社会の到来によって、医療費が急増しているが、オムロンやJMDCが蓄積している健康データは、医療費を抑制する切り札として注目されている。医療機関や自治体が匿名化されたデータを活用することで、医療の質向上や病院経営の効率化の一助になるといわれている。
JMDC株は買われ、オムロン株は売られる
2月24日の東京株式市場。オムロンのJMDC株取得の評価は分かれた。ノーリツ鋼機株は制限値幅の上限(ストップ高水準)に当たる23%高の2140円まで買われる場面があった。ノーリツ鋼機の株式売却後の保有比率は15.68%になる。同社は22年12月期の連結純利益予想を前期比18倍の977億円に上方修正した。従来予想は8%増の57億円だった。JMDC株の売却益940億円を計上するためである。
JMDC株はオムロンとの資本・業務提携が業績拡大につながるとの期待から買いが集まり、2月24日は値上がりし、25日も720円(12%)高の6490円まで上昇した。25日の終値は6460円。オムロンによる取得価格(6000円)を上回った。4月8日の終値は420円高の7280円。高値は7370円だった。
一方、オムロン株は下落した。「投資効果を見極めたい」と考える投資家の売りが先行した。4月8日の終値は38円高の7810円。高値は7910円。3月11日に7306円の年初来安値をつけている。
(文=Business Journal編集部)