住宅価格、特に中古マンション、中古一戸建ての価格が上がり続けています。このまま上がり続けるのでしょうか、そろそろ頭打ちになるのでしょうか。急激に下落することは考えにくいのですが、頭打ちから横ばいに転じる可能性はありそうです。いま買うべきか、少し待つべきか、売りは控えたほうがいいのか、早く売ったほうがいいのか――。
中古マンションは10年間で5割以上のアップ
住宅価格の上昇といえば、新築マンションや建売住宅が注目されることが多いのですが、実は、近年の値上がり率をみる中古マンションや中古一戸建てのほうが上がっているのです。たとえば、首都圏のマンション価格の過去10年間の推移は図表1にある通りです。
不動産経済研究所によると、2012年の新築マンションは平均4540万円だったのが、2021年には6260万円になりました。10年間の上昇率は実は37.9%です。最近でこそ物価上昇率が高くなっていますが、この10年間でみると物価や賃金は横ばいかむしろ低下してきましたから、新築マンション価格の上昇ぶりがひときわ目立っています。
しかし、実は中古マンションはそれ以上に上がっているのです。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)による首都圏中古マンションの成約価格は2012年には2500万円だったものが、2021年には3869万円ですから、この間の上昇率は54.8%に達します。10年間で5割以上高くなっており、新築マンションの上昇率37.9%を大きく上回っています。
Microsoft Word – 全国発表資料2021年.docx (fudousankeizai.co.jp)
首都圏中古マンションは22カ月連続の上昇
マンション価格上昇を表現する場合、しばしば「新築マンションの価格アップに釣られて中古マンションも上昇」などといわれるますが、実は新築マンションより中古マンションのほうが上昇率が大きく、価格面では中古マンションが新築を大きくリードしています。
物件数をみても、首都圏の新築マンションの年間販売戸数は3万戸前後ですが、中古マンション成約件数は4万戸近くに達しています。しかも、中古マンションの年間登録件数、つまり年間の売出し件数は16万戸に及びます。物件数においても中古マンションがマンション市場をリードしているのは間違いありません。
その中古マンションの直近の動きを示すのが図表2です。首都圏の月間成約件数は2000戸台後半から3000戸台前半で推移しているのが、成約価格は上がり続けています。2022年4月の平均は4158万円で前年同月比8.4%のアップです。調査に当たっている東日本レインズによると、首都圏中古マンションの成約価格の前年同月比での上昇はこれで22カ月連続になるそうです。かれこれ、2年近くもひたすら上がり続けています。
MW_202203data.pdf (reins.or.jp)
中古一戸建ての売出し、在庫件数が減少
上がり続けているのは、中古マンションだけではありません。中古一戸建ても同様です。やはりこのところは急激な上昇が続いています。特に首都圏の場合、都心やその近くでの新築一戸建ての立地が極めて難しくなっているため、中古一戸建てへのニーズが高まっていますが、中古一戸建ても新規売出しが減少、在庫も減る一方です。
2022年3月の首都圏中古一戸建ての在庫件数は1万3342件で、前年同月比14.4%の減少でした。2020年4月から22カ月連続の減少であり、2022年1月までは長く20%台、30%台の大幅な減少が続き、2022年2月に19.4%の減少とようやく10%台まで減少率が低下したものの、減少トレンドに変わりはありません。
仲介大手の営業担当者の間からは、「比較的徒歩時間が短い物件なら、すぐに買い手がつくのに、なかなか出てきません」「先高感もあって、もう少し待てばまだ上がると様子見する売主が増えています」と嘆き節が聞かれます。
中古一戸建ても17カ月連続で上がっている
そんな物件不足のなかだけに、売主優位の売り手市場が形成され、強気の値付けによって、中古一戸建て価格は上がるばかりです。図表3にあるように、2022年3月の首都圏の中古一戸建て成約件数の平均は3741万円で、2021年3月の3466万円に対して、前年同月比7.9%のアップです。首都圏中古一戸建ての成約価格上昇はこれで2020年11月から17カ月連続しての上昇になります。中古マンションの22カ月連続上昇には及びませんが、中古一戸建ても中古マンションを追うように上がり続けているわけです。
このままひたすら上がり続けていくのか、そろそろ頭打ち、横ばいなどの曲がり角に差しかかるのでしょうか。あまり上がり過ぎると、年収がさほど上がらないなかだけに、買い手がついていけなくなります。この先いったいどうなるのでしょうか。
MW_202203data.pdf (reins.or.jp)
在庫価格と成約価格の差が拡大傾向に
最近の市場の動きをみると、変化の兆しが見られなくもありません。中古マンションについては、先高感による売り惜しみが続き、新規登録が減り続けてきたのが、減少に歯止めがかかり、前月比では2022年2月が2.6%、3月が7.2%と増加に転じています。
その結果、在庫件数も前年同月比での減少率が縮小し、前月比ではプラスになる月も出てきました。2022年に入ってからは、1月が前月比1.9%の増加、2月が0.4%の増加で、3月は0.9%の減少だったものの、減少率は低い水準です。前年同月比での在庫件数もそろそろ増加する可能性があります。
その兆しを示すのが、図表3です。これは、首都圏の成約価格、新規登録価格、在庫価格の1平方メートル単価の推移を折れ線グラフにしものですが、成約価格と新規登録・在庫価格との格差がこのところはかなり大きくなっています。1年前の2021年3月には市場で売りに出されている在庫物件の平均価格と、実際に契約が成立した成約価格の格差は7.2%だったのが、2022年3月には10.1%に拡大しています。
MW_202203data.pdf (reins.or.jp)
中古一戸建ても格差が縮小する傾向に
これは、2021年3月段階では、平均すると在庫価格から7%程度の値引きで契約が成立していたのが、2022年3月現在では10%以上値引きしないと契約が成立しなくなっていることを意味します。わずか3%程度の差といっても、成約価格を4000万円とすれば120万円の違いですから、決して小さな差ではありません。
つまり、これまではわずかな値引きで契約が成立する、売り手優位の売り手市場だったのが、最近はジワジワとですが買い手優位の買い手市場に移行しつつあるのかもしれないということです。まだまだその気配を感じられるというレベルですが、このまま本格的に売り手市場に移行していけば、かなりの値引きをしないと買い手がつかなくなり、結果的に成約価格は頭打ちになります。急激な下落は考えにくいのですが、それでもピークを打って横ばいになり、ジワジワと下落に向かう可能性はあります。
中古一戸建てについてもほぼ同様のことがあてはまります。2021年3月の在庫価格の平均は4165万円で、成約価格の平均は3466万円でしたから、両者の差、つまり値引き幅は699万円です。それが、2022年3月になると、在庫価格は4449万円で、成約価格が3741万円ですから、両者の差は708万円に若干ですが拡大しています。
売り買いのタイミングの見極めが大切に
もちろん、こうした変化はまだまだわずかかもしれませんが、本格的な変化が起こるとそれはあっという間に広がります。その段階で動いても手遅れということが少なくありません。たとえば購入に関しては、もう下がるだろから、様子見してからでも遅くないと待っていたら上がる一方で、購入タイミングを失ってしまったということになりかねません。逆に、いま買っておかないとさらに上がって買えなくなるとあわてて買ったものの、買ったとたん市場では下落が始まり、後悔することになったということもあります。
売却についても、そろそろ頭打ちになるだろうから、いまが売り時と思って売ったら、その後も上がり続けて後悔することになった。反対に、まだまだ上がるだろうと売り時を待っていたら、いつの間にか下落していて、損することになった――そんな事態もあり得ます。
しかも、エリアによって動きは異なりますから、売り買いともに、希望エリアの市場動向をリアルタイムにキャッチして、迅速に行動できるようにしておきたいところです。ピンポイントでの見極めが大切になります。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)
●山下和之/住宅ジャーナリスト
住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。近著に日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド2021-2022』があり、2022年4月に「2022-2023」の改訂版が発行された。