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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

首都圏マンション、なぜ売り出し価格より成約価格が高い逆転現象?価格で選ぶと失敗

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
首都圏マンション、なぜ売り出し価格より成約価格が高い逆転現象?価格で選ぶと失敗の画像1
「gettyimages」より

 最近の首都圏の中古マンション市場では、新規に売り出された物件の平均価格より、実際に成約した物件の平均価格のほうが高くなっています。売出し価格より成約価格のほうが高いという逆転現象が起こっているわけです。なぜ、そんなねじれ現象が発生しているのでしょうか。

仲介市場では新規登録価格からの値引きが常識

 住宅の仲介市場では、新規に売り出された物件の価格をもとに、仲介会社を通して売主と買主が交渉、一定の値引きなどを行った上で契約が成立し、引渡しが行われるのが普通です。その場合、仲介市場で売り物件が多く、買い手が少ないという買い手市場であれば、値引き幅が大きくなりますし、反対に買い手が多く、売り物件が少ないと値引きの余地は縮小し、売り手市場になります。

 図表1は、首都圏の中古マンションの1平方メートル当たりの新規登録時の単価(以下・新規登録単価)と、実際に契約が成立した成約価格の1平方メートル当たり単価(以下・成約単価)の推移を折れ線グラフにまとめたものです。基本的には成約単価は新規登録単価より若干低くなっており、一定の値引き交渉などが行われて契約が成立している物件が多いと推察されます。

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sf_2021.pdf (reins.or.jp)

買い手市場では1割以上の値引きも当たり前に

 その差は時期によって異なります。2011年の例をみると、新規登録単価が46.29万円で、成約単価は38.93万円です。成約単価のほうが15.9%低くなっています。新規の売出し価格から、1割以上値引きして成約した物件が多いのではないでしょうか。この時期は、2008年のリーマンショックの影響が長引いて、マンション市場も停滞していましたから、1割から2割程度の値引きが当たり前の時代だったといっていいでしょう。

 しかし、新築・中古マンションの値上がりが始まった2013年、2014年になると様相が違ってきます。2013年の新規登録単価は43.55万円に対して、成約単価は39.96万円で、両者の差は8.2%。2014年は新規登録単価44.82万円で、成約単価は42.50万円ですから、その差は5.2%です。値引き幅は大幅に縮小し、なかには、売出し価格のまま、値引きなしで売れる物件も多かったのではないでしょうか。

首都圏ではまだまだ売り手市場が続いている

 それが、2015年から2017年にかけていったんその差が拡大したものの、2019年から2020年にかけて再び縮小し、2021年はやや拡大しました。それでも、2021年は新規登録単価が64.48万円で、成約単価は59.81万円ですから、新規登録と成約の差は7.2%と1割を切っています。一時ほどではないにしても、まだまだ売り手優位の売り手市場が続いているといっていいでしょう。

 マンションの仲介市場の動向を判断するためには、この1平方メートル当たりの単価をキチンと判断することが重要になります。単価ではなく総額で判断すると、失敗することになりかねません。たとえば、総額3000万円前後の中古マンションが多いエリアで、2500万円の物件が出ていると、その安さについ飛びつきたくなりますが、重要なのはその中身です。中古マンションといっても、築年数や専有面積に大きな違いがありますから、総額での比較はあまり意味がないのです。

 実は、単価ではなく、総額で比較すると成約価格と新規登録価格の関係が逆転することがあるのです。図表2をご覧ください。これは、首都圏中古マンションの成約価格と新規登録価格の推移を折れ線グラフにしたものです。2011年から2013年までは新規登録価格が成約価格を上回っていますが、その後は逆転、新規登録価格より成約価格のほうが高くなっています。

 2021年の実績をみると、新規登録価格が3554万円で、成約価格は3869万円ですから、成約価格のほうが8.9%も高くなっています。単純に考えると、3554万円で売り出されたものを、3869万円で買っていることになりますが、両者の中身には大きな差があります。つまり、同じ物件の比較ではないので、こんな現象が起こっているわけです。では、どこに原因があるのでしょうか。

 結論からいえば、新規登録物件のほうが築年数が長く、専有面積が狭く、成約物件は築年数が短く、専有面積が広めになっているのです。それを念頭において高い、安いといった価格の比較をしないと判断を誤ってしまいます。

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成約物件と新規登録物件には10平方メートル近い差がある

 そこで、まずは新規登録物件と成約物件の専有面積の違いをみてみましょう。図表3は首都圏中古マンションの成約物件と新規登録物件の専有面積の推移を示しています。10年前の2011年は、新規登録物件の平均が59.82平方メートルで、成約物件の平均が65.00平方メートルでした。この時点で両者の差は5.18平方メートルあります。平方メートル単価が50万円とすれば、50万円×5.18で259万円の差になります。それだけ成約物件のほうが高くなってしまいます。

 しかも、この10年の間に、新規登録物件と成約物件の専有面積の差は大幅に拡大しています。2021年の実績をみると、新規登録物件の平均は55.11平方メートルに対して、成約物件の平均は64.68平方メートルで、成約物件のほうが9.57平方メートル広くなっています。やはり、平方メートル当たりの単価を50万円とすれば、成約物件の価格を478.5万円押し上げる要因になります。この違いをみれば、新規登録価格より、成約価格のほうが高くなっているのも納得がいきます。

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築年数5年の差が成約価格1000万円以上の違いに

 いまひとつ築年数による違いをみてみましょう。図表4をご覧ください。10年前の2011年には新規登録物件の平均築年数は19.65年に対して、成約物件の平均は18.27年でした。両者には1.38年の差しかありませんでした。中古マンションは築年数が長くなるほど成約価格が下がりますが、この程度の差であればそんなに大きな差にはなりません。

 しかし、2021年はどうかといえば、新規登録物件の平均が27.23年で、成約物件の平均が22.67年です。10年の間に両者の差は1.38年から4.56年に拡大しています。築年数が5年違ってくると、成約価格への影響が大きくなってきます。

 やはり東日本不動産流通機構の調査によると、「築21年~築25年」の中古マンションの平均成約価格は4008万円に対して、「築26年~築30年」の平均は2702万円です。築年数5年の差が、成約価格では1306万円もの差になっています。

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十分な下調べの上で仲介会社とコンタクトをとる

 新規登録物件と成約物件には以上のような大きな差があります。ですから、単に価格が安いからといって飛びついて、その内容をチェックしてみると、広さが足りない、古すぎるということなって、振り出しに戻ってしまうことになりかねません。手間ヒマのロスだけではありません。その段階で仲介会社とコンタクトをとると、概要を聞いただけで「いらない」と思っても、その後、しつこく営業をかけられて辟易するといった事態もあり得ます。

 物件情報をチェックするときには、価格だけではなく、広さや築年数などの違いも確認した上で詳細な情報を取得したり、実際に見学するようにしたいものです。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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