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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

抗がん剤、崩れ始めた効果の根拠…投与が「二次がん」誘発も

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
抗がん剤、崩れ始めた効果の根拠…投与が「二次がん」誘発もの画像1
「gettyimages」より

 誰もが避けて通れないのが、「がん」という病気です。そのがんをめぐる従来の常識が、根本からくつがえったという話題をお届けします。ひとつは、画像技術の多様化で小さな影まで見つかるようになり、がんの運命の多様性もわかったことです。がんのように見えていながら、実はいつまで経っても大きくならないもの、あるいは途中で消えてしまうものなどが多く、必ずしも「がん=死」ではなくなりました。

 もうひとつは、がんの新しい薬が続々と登場し、昔から使われてきた「がんの薬」の評価が極端に下がってしまったことです。どういうことか、最新のエビデンスを見ていきましょう。

使用機会減る化学療法剤

 がんの薬には、大きく分けて3つあります。昔から使われてきたのが「化学療法剤」です。吐き気、脱毛、下痢などの強い副作用は広く知られているところです。その後、登場したのがホルモン療法剤です。たとえば前立腺がんは男性ホルモンが、また乳がんは女性ホルモンが、がんの増殖をそれぞれ促進してしまうため、これらの働きを抑える物質が治療薬として使われています。そして最新の薬が、分子標的療法剤と呼ばれ、がん細胞だけに作用して増殖や転移を抑え込むものです。

 さて、やり玉にあげられたのは化学療法剤でした。たとえば代表的な薬のひとつシスプラチンは、がん細胞のDNAに入り込んで増殖を止めるという働きをします。がんと診断された多くの人が(本人は知らなくとも)使われていたはずです。がん細胞は分裂頻度が高いため、この薬が効きやすいはず、という理屈なのですが、容易に想像できるように健康な細胞をも傷害してしまいます。

 化学療法剤の副作用のなかでも最悪なのは「発がん」です。不適切な治療が原因で、がんが新たに発生することがあり、「二次がん」と呼ばれます。がんを患って、一度は回復したはずの人が、その後も次々に別のがんを発症することがありますが、その原因のひとつが化学療法剤だったというわけです。

 詳細は拙著『がん検診の大罪』(新潮選書)に譲りますが、化学療法剤で「明らかな延命効果」が証明されたものは、ひとつもありませんでした。専門家が化学療法剤を使う根拠とする学術文献はたくさんあるのですが、ずさんな研究が多く、仮にデータが正しかったとしても、寿命がせいぜい数カ月延びるだけ、というものばかりでした。それにもかかわらず、がんの専門医は抗がん剤に固執してきた、という歴史があります。

 乳がんを対象に、化学療法剤がどれくらい使われてきたのか、米国で調査が行われました。それによると、30年前はがん患者の95パーセントに使われていましたが、10年前に約35パーセント、3年前には19パーセントにまで減っていることがわかりました。

 米国のある大学教授は、「20年ほど前は、化学療法剤を2種類使うか、3種類にするかという議論が専門医たちの主な関心事だった。4種類が必要だとした研究も話題になっていた時代で、それから比べると隔世の感がある」と語っています。

分子標的療法剤に未知の作用

 現在、がん治療に携わる医師が関心を寄せているのが、前述した「分子標的療法剤」です。たとえば、乳がんや胃がん治療に使われているのがハーセプチンという薬です。使用は「がん関連蛋白」なるものを遺伝的に持っている人に限られるのですが、乳がん患者で延命効果があるとされ、注目されています。この新しい薬を、従来の化学療法剤と一緒に使った場合と、単独で使った場合を比べたという臨床試験が行われました。ところが両群の延命率には、違いがいっさい認められませんでした。

 つまり、化学療法剤はいらない薬だったのです。副作用に苦しめられてきた人にとっては、今さら言われても納得できない話かもしれません。

 さらに、新薬であるからといって優れているとも限りません。今、がん専門医の注目を集めている最新の分子標的療法剤でさえ、多数の臨床試験が行われてきたにもかかわらず、認可されるに至ったのは、わずか3パーセントしかありません。つまり、ほとんどの薬が開発に失敗していたのです。

 米国の研究者は、がん細胞を遺伝子操作で徹底的に調べ、失敗の理由を調べています。分子標的療法剤は、「がん細胞の分裂を促進させる物質」をピンポイントで抑え込むという薬です。したがって、その物質をもし取り除いてしまえば、薬は無意味になるはずでした。ところが、そのような処理を施した細胞に薬を与えたところ、処理前と変わらない効果が認められたのです。つまり、これらの薬には開発者の意図と異なる未知の作用があり、よくわからないまま使われてきたことになります。

 最近、がんについて、もうひとつ新発見がありました。休眠中のがん細胞があり、あとになって暴れ出すことがあるという事実です。「がんはなぜ再発するのか」という長年の疑問に対する答えとも考えられています。困ったことに休眠細胞には、これまでの薬が効きません。

 がんの実態も、薬の意義も、ますますわからなくなってきました。あなたが、もし抗がん剤治療を受ける状況になったら、まず自分でよく勉強する必要があります。その上で、複数の専門医から意見を聞き、どうするか決めたほうがよさそうです。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【1】   Goodwin PJ, Extended aromatase inhibitors in hormone-receptor-positive cancer. N Engl J Med, Jul 29, 2021.
【2】   Berger S, This breast cancer gene is less well known, but nearly as dangerous. New York Times, Aug 17, 2021.
【3】   Off-target toxicity is a common mechanism of action of cancer drugs undergoing clinical trials. Sci Transl Med, Sep 11, 2019.
【4】   Zimmer C, Why aren’t cancer drugs better? The targets might be wrong. New York Times, Sep 17, 2019.
【5】   Targeted therapy to treat cancer, what is targeted therapy? National Cancer Institute, Mar 11, 2020.
【6】   Kolata G, Cancer without chemotherapy: ‘a totally different world.’ New York Times, Sep 28, 2021.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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