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小林敦志「自動車大激変!」

中国BYDの乗用車参入で危惧される「日本のEV開発が家電の二の舞いに」問題

文=小林敦志/フリー編集記者
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BYDの「ATTO3」(「BYDジャパン公式サイト」より)
BYDの「ATTO3」(「BYDジャパン公式サイト」より)

 前回中国の比亜迪(BYD)ブランドが日本市場での乗用車販売参入を発表したことに関連して、日中のBEV(バッテリー電気自動車)事情などについて述べた。新車販売で気になるのは、販売およびサービス拠点。BYDは日本国内では乗用車販売サービス専業会社“BYDオート・ジャパン”を設立し、全国に販売代理店を設け、アフターサービスを提供するとしている。

「いわゆる街のモータースといった整備工場を中心に販売代理店化させていくのではないでしょうか。すでにそのような話がきているとも聞いています」(事情通)

 BYDが他のブランドと大きく異なるのは、親会社が電池製造をしており、駆動用バッテリーまでいわば“自前生産”となっているので、車両とともに一元管理することができるところにある。その点が、アフターメンテナンスでも強みになっていくとされている。

 すでに国内販売台数の少ない欧州系ブランドの一部では、地方都市でクルマについてオピニオンリーダー的存在(モータースや有力中古車販売店)に販売代理店になってもらい、広く製品アピールをしてもらうことにより「○○さん(オピニオンリーダー)が勧めるなら」といった感じで販売促進を進めているといった話も聞いている。

 BEV全体への不安が大きいのが、今の日本の消費者の大半。その不安を拭い、購入へ背中を押す役目を街のオピニオンリーダーに担ってもらうというやり方はBYDにとって有効ともいえるが、果たしてBYDはどのような販売手法を用いるのか。商才に長ける中国の企業なので、筆者は興味が尽きない。

 現状としては、BEVに興味があったとしても、日本車で選択できるのはトヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」、日産「アリア」、日産「サクラ」、日産「リーフ」、三菱「eKクロスEV」くらいしかない。サクラなど軽自動車規格のものを除けば車両価格の高さもネックになるし、くどいようだが日本車は選択肢が少なすぎる。テスラや欧州系も車両価格がネックになってくるので、販売およびアフターサービス拠点の整備と同じく、価格設定もおおいに興味があるところ。

「あまりにも割安にすると、メディアなどで“安かろう~”と大合唱になり、ネガティブに働いてしまうでしょう。個人的には、コンパクトハッチバックのドルフィンで日産サクラぐらいの予算で購入できれば、かなりインパクトは大きいと考えています」(同)

外資主導でEV化が進むバス&タクシー

 日本政府は“2050年カーボンニュートラル宣言”を行っている。また、クルマについては2030年代半ばまでに電動車以外の販売を禁止するとされている。しかし、この電動車にはHEV(ハイブリッド車)が含まれるともいわれている。2050年まで28年あるが、2035年(2030年代半ば)までは13年しかない。前述したように、現状では“指で数えられるぐらい”しか日本車のBEVは存在しない。

 BEV路線バスについては2024年には日系完成車メーカーよりデビュー予定となっているが、BEVタクシーは噂すらない。バスやタクシーなどで乗用車以上に気になるのが、車両価格だろう。BYDのBEV路線バスの価格は、日系同クラスのディーゼル路線バス並みともいわれている。ただ、充電設備などで、BEV路線バスはさらにイニシャルコストが必要となってくる。

 しかし、日系メーカーがBYDと同様のBEV路線バスを発売すると、価格はBYDの倍以上になるのではないかともいわれている。BEV路線バスではBYD以外の中華系メーカーもすでに国内に参入しており、さらに日本での販売を検討しているメーカーもあると聞く。また、近くイギリスメーカーのBEV路線バスが日本国内導入予定にもなっている。

 前回述べたように、タクシーはすでに韓国の現代自動車(ヒョンデ)が「アイオニック5」を販売しており、BYDもフリート販売向けのMPVタイプのBEVを試験販売として、タクシー事業者に納めている。公共交通機関では、すでに外資ブランド主導で車両電動化が進んでいるといっていいだろう。

 政府としても、国際公約したものの、日本メーカーでめぼしいものがなければ外資ブランドに頼らざるを得なくなるだろう。そもそも、2021年暦年締めの年間販売台数で見ても、中国国内で約2700万台の新車が販売されたが、その中で新エネルギー車(BEV、PHEV<プラグインハイブリッド車>、FCEV<燃料電池車>)の販売台数は約350万台で全体の13%強となっている。政府の力が強く、その政府が強く指導する中でも、車両電動化のスピードは意外なほどスローとなっている。

 中国ほど強い指導力があるわけでもなく、民間への丸投げ体質の目立つ今の日本政府で、果たして13年後あたりに電動車以外の販売を禁止できるのかは怪しく思えてくる。最後は“弱者救済”などを建て前に“軽自動車など一部車種に限りガソリン車を継続販売”といった事態も十分考えられる。

他の中国メーカーも日本市場に参入するのか?

 BYDは日本市場で乗用車販売へ参入するのと同時に、自前の充電施設も設置していくとしている。BYDのような中国系企業から見れば、日本政府の動きはスローすぎて見え、政府を頼るとあまりに面倒だと考えているのかもしれない。

 今後、BYDに続けとばかりに他の中国系メーカーも日本市場に参入してくるとは、単純に考えられない。中国国内のBEVの駆動用バッテリーは地産地消、つまり中国メーカー製となっており、品質面でそのまま海外展開をクリアできるメーカーはBYD以外ではほとんどないともいわれている。

 ただ、たとえばタイでは上海汽車と長城汽車がすでに中国からBEVを完成車輸入して販売しているのだが、2023年からはタイ国内で製造し販売する予定となっている。タイは日本同様左側通行なので右ハンドル仕様となる。日産「キックス」や三菱「ミラージュ」もタイから完成車輸入して販売しているので、タイ製の中国メーカーのBEVを完成車輸入し、日本国内で販売されるなんてことも現実化するかもしれない。

 すでに海外では、日本の完成車メーカーでの“日の丸BEV(つまり完全自前)”開発について、“人(エンジニア)、金(開発予算)、時間(開発期間)がない”状態になっていると言われていた。端から見れば難局を迎えているように見える日系完成車メーカーだが、腰が重い印象に映る中では、現状を切り抜けるのはまさに至難の業のように見えてしまう。このまま外資に市場が飲まれていくのか、それとも日系メーカーが外資モデルのOEMでしのぐことになるのか。国際競争力を失ったともいわれる家電の二の舞いだけはくれぐれも避けてもらいたいと、クルマ好きの筆者は考える。

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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