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千葉哲幸「フードサービス最前線」

「鳥どり」も業態転換…ダイナック、脱チェーンへ大改革断行、店舗数3割削減

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
「焼鳥 ハレツバメ」の「おまかせ冷菜5種盛り」1380円(税込)。すべて野菜、彩りのよさでミレニアル世代の女性に人気
「焼鳥 ハレツバメ」の「おまかせ冷菜5種盛り」1380円(税込)。すべて野菜、彩りのよさでミレニアル世代の女性に人気

 サントリーホールディングス(HD)の完全子会社にダイナックという外食企業がある。同社は1958年3月に新宿東京会館として設立され、のちサントリーのグループ会社となり、1988年9月にダイナックに社名変更。2000年10月ナスダック・ジャパンに上場、2006年11月東京二部上場。しかしながら、コロナ禍にあって業績を落とし昨年6月に上場廃止し、サントリーHDの完全子会社となった。

 この新生ダイナックの代表に就任したのは秋山武史氏。秋山氏はサントリーのなかで飲食店の盛業支援を行う「グルメ開発部」に20年弱在籍していた。この間、秋山氏は「角ハイボール」の普及に努めサントリーの業績に大きく貢献したとともに、新しい飲酒のスタイルをつくり上げた。その秋山氏が外食企業の社長に就任したということで、いま飲食業界から大きく注目されている。

ミレニアル世代を取り込むメニュー

 ダイナックはコロナ禍前まで「オフィス街立地、ビジネスパーソン、宴会・社用使い」ということを強みとして160店舗展開していた。それがコロナ禍でこれらの需要がなくなり30店舗閉店した(現在は110店舗の体制)。

 秋山氏が同社の代表となったのは昨年9月。ここから新生ダイナックの再構築が動き出した。秋山氏はグルメ開発部在籍当時から、これからの外食の存在意義が「繁華街、ミレニアル世代(1980年~1990年代半ばごろまでに生まれた世代)、日常使い」「郊外・住宅地、ファミリー、食事使い」というものに変化していくのではと考え、2020年4月ごろから未来予測を立ててメンバーと話し合っていたという。

 今年に入って、同社では続々と新業態をオープンしている。これらの新業態に秋山氏が考えてきた「これからの外食の存在意義」がどのように表現されているか見てみよう。

 この第一弾は「焼鳥 ハレツバメ」。これは同社の鶏料理業態「鳥どり」から業態転換することを想定して開発されたもの。1号店として「鳥どり 横浜鶴屋町店」が「焼鳥 ハレツバメ 横浜鶴屋町店」となって3月30日にオープンした。個室とカウンター席で構成された平面プランはそのままにして、50代が主要顧客であった「鳥どり」からミレニアル世代も取り込めるメニュー構成が考えられた。

 同店のフードは「鴨串焼き」「季節のおばんざい料理」「鴨出汁せいろ」とおおまかに3本で構成されている。鴨串焼きの名物は鴨肉100%のつくねを生から焼き上げる「鴨生つくね」と、鴨肉ロースで焼きネギを巻いた「鴨ねぎま」。串焼きのタレは数種類のしょう油をブレンドして有馬山椒を利かせている。ちなみに「鴨鳥5本盛り」は1280円。季節のおばんざい料理は、単品以外にもそれぞれを少しずつ豆皿にのせた「おまかせ冷菜5種盛り」1380円(以上、税込)もラインアップされている。すべてが野菜で彩りもよい。

 ドリンクは有馬山椒をトニックウォーターに漬け込んだシロップとジンを合わせた「ハレツバメサワー」、店舗でヒノキに漬け込んだ特製ウイスキーの「檜香るハイボール」、そば焼酎に濃厚なそば湯でつくった丸氷を入れて独特の甘みと味わいの変化を楽しむ「蕎麦湯氷ロック」などをラインアップしている。

「自分たちが行きたい店」を考えてもらう

 第二弾は「釣宿酒場 マヅメ」。これは同社の魚業態「魚盛」から業態転換することを想定して開発されたもの。1号店として「魚盛 日本橋店」が「釣宿酒場 マヅメ 日本橋店」となってオープンした。

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「釣宿酒場 マヅメ 日本橋店」の海辺の釣宿を思わせる外観

 同業態のコンセプトは「都会にいながら“釣り魚”をリーズナブルに楽しめるお店」。釣り魚は網で獲られる魚よりもストレスが少なく旨味が強いとされ,血抜き等の適切な処置を施すことによって鮮度を保つことができる。しかしながら、釣り魚は釣り人自身や地元で消費されることが多く、都心に住む人が食べる機会はほとんどない。それが都内近郊の釣宿や一部漁港と提携したことで、安定的な仕入れを実現して店舗展開が可能になった。

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「釣宿酒場 マヅメ 日本橋店」は基本的に個人や小グループ客に対応

 看板のフードメニューは「おまかせ刺身 7種盛り」1590 円(5種盛は990円/税抜)。釣宿から仕入れる鮮魚を「本日の釣果」として提供する。ランチメニューでは「土鍋鯛めしと白海老かき揚げ定食」1280円を推している。鯛めしが食べ放題となっていて、まずはそのまま特製ごまダレに和えた鯛刺身をのせたお茶漬け、おこげも楽しむことができる。

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「釣宿酒場」のランチタイムの看板メニュー「土鍋めしと白海老かき揚げ定食」1280円(税別)

 ドリンクではハイボールやレモンサワーが1杯目390円、2杯目290円、3杯目以降190円(税抜)と注文するごとにどんどん安くなるシステムを導入、燗酒を鯛出汁で割った「鯛出汁割り」などもラインアップした。

 第三弾は「北国とミルク」。これは同社のカジュアルイタリアン業態「パパミラノ」から業態転換することを想定して開発されたもの。1号店として「パパミラノ ココリア多摩センター店」が「北国とミルク ココリア多摩センター店」となって5月26日オープンした。

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「北国とミルク」の「海の幸と濃厚クリームソースのぐらたんパスタ」1680円(税込)

 同業態のコンセプトは、北海道の根釧地区の酪農が盛んな浜中町でつくられる濃厚で高い乳質のミルクと自家製のバタークリームをたっぷり使った北海道イタリアンを、北海道の農家をイメージした素朴でレトロな空間でカジュアルに楽しむということ。パスタは北海道産小麦を100%使用した全粒粉の生パスタを使用している。開発に際して同社のミレニアル世代の女性社員を起用して「自分たちが行きたい店、食べたい料理、着用したいユニフォームを考えてもらった」(秋山代表)という。

 おすすめのフードメニューを3つ挙げると次のようになる。まず「海の幸と濃厚クリームソースのぐらたんパスタ」1680円。これは香ばしく焼き上げたパンの中に魚介の旨味が溶け込んだクリームパスタを入れてある。次に「ハンバーグ パスタロッソ~北海道チーズと濃厚トマトソース~」1480円。パスタの上に乗せられたハンバーグをほぐしながら絡めて食べる。そして「自家製バタークリームの白いミートソース」1380円(以上、税込)。もちもち生パスタとミートソースにホイップ状にした自家製バタークリームをたっぷりトッピングし、お客の前でバーナーであぶって提供する。

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「北国とミルク」の「昔ながらのカステラパンケーキ」1180円(税込)

チェーン店ではなく“個店”の時代

 第四弾は「鮨ト酒 日々晴々」。小さな飲食店が立ち並ぶ東京・新宿三丁目に7月21日にオープンした。最近、すしをつまみながら酒を飲むといった「すし酒場」がトレンドとなっているが、同業態もそれと同様。ダイナックがこれまで多彩な業態で培ってきた仕入れルートや市場の関係者とのパートナーシップによって上質で鮮度のよい食材を取り寄せることを実現した。

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オープンキッチンで職人の仕事ぶりが店の雰囲気を高める「鮨ト酒 日々晴々」の店内

 この店、トレンドの業態のなかでもフードメニューのアイデアに力強さがある。握りずしは、生本マグロの漬け、あじの塩すだち、甲イカにカラスミなど職人技による「晴々盛り5貫」790円。肉厚の中トロの切り身を芯にして鉄火巻から豪快にはみ出した「はみだしとろ鉄火巻き」890円。

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「鮨ト酒 日々晴々」の「うにプリン」390円(税込)。うにをふんだんに使ってお手軽な価格

 おつまみも振るっている。出汁の中でしゃぶしゃぶにしたとろける和牛を味が染み込んだ豆腐の上にのせた「レア肉豆腐」590円。すし店では珍しいが「ラムカツ~香草パン粉~」690円(以上、税込)。こちらは「ナチュラルワインと合う」ことをアピールしている。

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「鮨ト酒 日々晴々」の「レア肉豆腐」590円(税込)。1枚250円で牛肉を追加できる

 さらに「特別裏メニュー」というものがある。これはモバイルオーダーを活用し、2回目以降来店の人が注文することができるというもの。まず、フードでは「フォアグラ削り3貫」690円。ローストビーフや希少鮮魚などの握りずしの上に、目の前でフォアグラを削って散らしたもの。ドリンクでは「きゅうり香るジンバック」650円、「大葉のギムレット」650円と和食に合うカクテルをラインアップしている。

 最近の「すし酒場」人気のなかでも、外食ファンからの同店に対する期待の高さはクラウドファンディング「Makuake」での実績に表れている。出資者への特典は、出資金額を上回る食事チケット(出資金額7500円の場合、1万円)とワンドリンクサービスというもの。6月30日にプロジェクトが公開され、目標金額50万円に対しこの当日に520%の260万円を達成、この記事を書いている8月10日の段階(残り5日)で1517%の758万6500円となっている。

 さらに、これもまた現在トレンドの業態であるネオ大衆居酒屋「純けい焼鳥 ニドサンド」を8月22日に大阪・天満にオープン。9月12日、シュラスコ「& BEEF」を新宿東口にオープンする。

 これらダイナックの新業態を見ていくと、一つ一つのつくり込みが細かいこと、ストーリー性が豊かであることが挙げられる。

 振り返ってみると、コロナ禍前まで同社が得意だった分野は“大量生産の産物”であったと言えないか。新業態はそれぞれチェーン展開は難しいだろうが、個店としての魅力を掘り下げることで強いグループになっていくのではないか。これからの飲食業はチェーンではなく個店の時代になっていくことを、新生ダイナックの新業態は物語っている。
(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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