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自民比例トップ…初の漫画家国会議員赤松健氏に聞く参院選

構成=Business Journal編集部
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漫画家・参議院議員、赤松健氏(撮影=編集部)
漫画家・参議院議員、赤松健氏(撮影=編集部)

 憲政史上初となる“現役漫画家の国会議員”が誕生した。『ラブひな』『魔法先生ネギま!』『UQ HOLDER!』(いずれも講談社)などで知られる漫画家の赤松健氏が7月の参議院議員選挙で当選したのだ。赤松氏は自民党の全国比例代表に新人として立候補し、52 万 8053 票を獲得。同党全国比例候補者の中で、2位の候補者を大きく引き離し、最多得票者となった。

 赤松氏は日本漫画家協会常務理事。いわゆる「児童ポルノ禁止法改正案」や「TPPにおける著作権の非親告罪化」など表現の自由を規制する法整備に反対し、同党参議院議員の山田太郎氏らとともに廃案・空文化に追い込んできた。今回の選挙戦では、そうした過去の実績を強調。特定の団体に依らず、ファンを中心に浸透を図る戦略SNSなどを活用したネット中心の選挙戦を展開した。

 選挙期間中に送付した“公選ハガキ”はゼロ。紙のビラよりもネットの活用に力を入れた。選挙事務所の壁に隙間なく貼られる「選挙為書」もまた異色だった。

 一般的な「為書」は閣僚や党幹部、地方の大物議員や自治体首長、協力企業や集票組織の代表者が、毛筆で「必勝」などと記す。赤松氏の元にはファンや支援者から「2000 通を超える デジタルデータの電子為書」が送られた。投稿者が思い思いの応援の言葉を記し、赤松氏の作品のキャラクターのイラストも壁一面を埋め尽くした。選挙最終日には、日本国内のTwitter上では24時間で「赤松健」という名前が1万件ツイートされた。

 しかし全世界にファンを持つ人気漫画家であっても、簡単には当選できないのが国政選挙だ。立候補から選挙最終日まで気の抜けない戦いだったようだ。

 選挙終盤では安倍晋三元首相が凶弾に倒れるという痛ましい事件が起こった。カルト宗教と政治の距離感はどうあるべきか。そして、いわゆる“集票組織”に依存する政治家のあり方が問われている。

 選挙権を18歳以上に引き下げや選挙でのネット利用解禁で、選挙戦の様相もここ数年で大きく変わった。自民党比例トップの得票者は、“集票組織に寄らないネット選挙”をいかにして戦ったのか。今後は、政策立案者としてどのような活動をしていくのか。赤松氏に聞いた。(※インタビューは2022年8月15日、参議院議員会館で収録)

最後の一週間に怒涛のイラスト投稿

――表現の自由を守る活動などで、共に歩んできた参議院議員の山田太郎氏(今回の選挙では非改選)の“裏”の選挙ということで、「赤松候補は50万票を超えるだろう」というのが多くのメディアの見立てでした。しかし、山田氏の改選時と立候補者の顔ぶれも社会情勢も大きく変わっています。ましてや今回の全国比例候補は、与野党を問わず、著名人や有力者、話題の人物が勢ぞろいしていました。

 投開票日、秋葉原の開票中継会場で赤松さんは「山田さんの時には54万票ありました。単に山田さんの個人的な人気だったかもしれない。今回、私がもし相当数とれれば、漫画、アニメ、ゲームが好きな、ネットとの親和性の高い有権者層があるということになる。これが永田町に与える影響はものすごくあると思う。基礎票があるんだということになれば、守って発展していこうということになると思うんです」と述べられていました。

 漫画家・クリエイターの代表として、どのような独自性を出して選挙戦を戦われたのですか。

赤松健氏(以下、赤松) 最後の一週間にTwitter上で行った描きおろしのイラストや動画をとにかく投稿しました。すごいインプレッション数でした。議員が他の作家に描かせるのとはワケが違いますよね。

参院選公示日の決起集会で演説する赤松氏(撮影=編集部)
参院選公示日の決起集会で演説する赤松氏(撮影=編集部)

 “私が立候補していたことを知らなかったファン”が一連の投稿で気がついたようです。若い方々の中には政治ニュースに興味がなく、それまで気付かなかった方も多かったようです。イラストの投稿が拡散されていくにつれ、「あれ?赤松先生出ているんだ!」と初めて認知されるということもありました。

 漫画家ならではということであれば、街宣車も好評でしたね。私の漫画のキャラクターが描かれた“痛車”です。私の顔より、私の描いたキャラクターの顔のほうが有名ですから。それを見たファンが「赤松、選挙に出ているんだ」と気付き、そこで票の掘り起こしを図ることができたと思います。

 山田さんでさえ54万票に至る前にまず29万票を獲得し、少しずつ階段を上るように認知を固めていきました。いきなりのデビューで山田さんに匹敵する票数を獲得するためには、出馬に気がついてもらうという努力を、最後の最後まであきらめず行う必要がありました。

中盤戦で大きく落ち込む

――「支持団体、組織票に一切頼らない」ことを掲げて、選挙戦を戦われました。一方で、「序盤の盛り上がりに対し、中盤に落ち込んだ」というお話もありました。『ネギま!』『ラブひな』は全世界に作品のファンがいます。しかし、ファンたちは特定の集票組織に属している訳でも、政治団体を構成しているわけでもありません。ファンであっても、必ずしも政治に関心があるわけではなく、投票してくれるかはわからないというのが実態だと思います。

 一方で安倍元首相の訃報以降、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による選挙協力に関する話題が連日メディアに取り上げられています。同団体の他にも多くの議員が支持母体、集票組織のバックアップを受けています。

赤松 支持団体があるところは強いですよ。終盤戦になってぐいぐい上げてくるんです。

 私は昨年12月に自民党公認候補報道があった際、「ラブひな作者」「赤松健」などのワードがTwitterのトレンドのほとんどを占めるほど話題になりました。

 ところが、その後、(党公認報道時のインパクトを)抜けませんでした。知っている人は知っていて、いざ選挙が近づいてくると「みんな忘れかけている」という状況でした。いかにして、もう一回認知を上げるのか。できることなら自民党公認になった際のインパクトを超えたいと考え、ネットを活用しました。

――特に厳しかったのはいつごろだったでしょうか。

赤松 ゴールンデンウィークごろから47都道府県を回り始めました。ところが、私が北海道や沖縄を訪問すると、現地の有権者の皆さんが「なんでここにいるのかな?」と思ったみたいなんです。「(選挙に)出るらしい」という情報が先行していたのですが、どうやら「東京選挙区でしょう?」と思っていたようです。

 その後、「全国比例候補らしい」という情報が伝わりはじめて、「もしかして、俺らにも関係あるのかな」となっていきました。半年かけて、「全国比例候補であること」を浸透させていくしかありませんでした。

「漫画、アニメに救われた」ファンからの声援

開票中継会場には支持者手描きのイラスト入り”電子為書”が貼られていた(撮影=編集部)
開票中継会場には支持者手描きのイラスト入り”電子為書”が貼られていた(撮影=編集部)

――47都道府県すべて回ったのですか?

赤松 北海道、沖縄、四国も九州も行きました。

 ありがたいことに、聴衆がゼロだったことはありません。聴衆の皆さんにサインしたり、直接話を聞いたりして触れ合いました。

 皆さん、「『ラブひな』でオタクに目覚めました」とか、「『ネギま!』の声優さんがすごく好きで、『ハッピー☆マテリアル』(同アニメ版の主題歌)を今もカラオケで歌います!」とか言ってくれるわけですよ。

 また「『ラブひな』を読んで受験の時に救われました!」「孤独を感じていた時、『ネギま!』のクラスメート31人に本当に救われました」と応援してくれるんです。

 私自身もまた「漫画、アニメに救われた」立場の人間です。表現の自由を守るとか、著作物を守る規制を、「本当にやっていかなくてはいけないな」との思いがますます強くなっていきました。自分自身が「実感を持っていく過程」を認識しました。

 国会議員になるまで、日本漫画家協会の常任理事表現の自由も著作権も海賊版対策も、いつでも自分の判断でやめることができました。同人活動に似ています。

しかし、今回の選挙を通じて、皆さんからの信任をいただいた責任は大きいです。全力でやり抜こうと考えています。

――漫画、アニメ、ゲームに興味はあっても政治には興味がないという人はたくさんいると思います。

赤松 “18歳選挙”になりました。若い人にイラストや動画の力を使って訴求をしていく。気付いてもらう。選挙区の候補なら、「誰が立候補している」というのはわかっているとは思うんですが、全国比例って割と漠然としているじゃないですか。

 衆議院議員選挙の比例区と参議院議員選挙の比例区の制度の違いを、若い人たちにちゃんと周知できていないケースもあると思います。衆議院では比例区の各党リストの上から順に当選します。しかし、参議院では候補者名を書いてもらい、その得票数が一番の人が受かる仕組みです。選挙戦では、まず「選挙に関する基本的なこと」を皆さんに知ってもらうことにも尽力したつもりです。

専門家・ロビイストとしての実績の高さが裏目に……

――日本の憲政史上、現役の漫画家が国会議員になることは初めてのことです。一方、比較的に古い世代の言論関係者からは「メディアに属する者や表現者、クリエイターは政治から常に一歩身を引かなければならない!」などという意見も見られます。

赤松 児童ポルノ禁止法改正案論争や著作隣接権問題、TPP締結時に浮上した「著作権法の非親告罪化」で二次創作などを除外するよう働きかけを行ったこと、海外の漫画海賊版対策の立案など、日本漫画家協会を代表して対抗し、それぞれ目標を成し遂げてきた実績があります。

 10年に及ぶ私のそうした活動を、漫画家仲間と読者が見続けてきて、「赤松のやることなら大丈夫じゃないのか」という信頼と信用を得ることができたのではないかと思っています。褒めてくれるわけではないんですが、批判もありません。何も言わないけれど、支持はしてくれていたのだと思います。

 しかし、そうした“信頼”の弊害もあって「赤松、どうせ受かるでしょう!」と、みんな言い始めたんです(笑)業界内では「赤松圧勝」という予想が大勢を占めていて、「だから他の人に入れよう」という話すら出ていました。

 しかも、「赤松ずっとやってきたから信用あるし、これからもやるよね」「落ちてもやるだろうから、あえて受からなくてもいいよね。だって今まで、できていたじゃん」という声まであったんです(笑)そのため、すごく盛り下がりました。「よもや落ちないだろう」と、みんな思っていたのです。

――各大手メディアの政治部内でやり取りされている“下馬評”でも、当初「赤松圧勝」となっていました。

赤松 前回、山田先生が50万票を獲得し、その“裏”なので、みんな「同じくらい獲るだろう」と思っていました。なおかつ、私は「100万票獲るんだ」というタグをSNSにつけていたんです。その結果、多くの人々に「じゃあ、すごいんだね」「自信もあるんだろうし、根拠もあるんだろう」と思われてしまったようです。

 6月の調査で当落線上という結果が出て、真っ青になりました。

「100万票プロジェクト」というタグを、恥ずかしながら降ろしました。これは「夢みたいなことを言っている場合じゃない」と。そして選挙戦最終版の全力の選挙戦に至りました。

「海賊版サイトが運営されている国を訪問したい」

――表現の自由や長年のロビー活動の結果、漫画・アニメの海賊版サイト規制などが進み、『漫画村』などを閉鎖に追い込みました。日本がそれぞれの問題にどう対策をとればいいのかという、ひな型ができました。今後は、ロビイストではなく、政策立案者としてどのような活動をされてく予定ですか。

赤松 これまでの活動をさらにパワーアップしてやります。

 表現の自由に関していえば、現実問題として山田太郎議員が3年前にものすごい得票数で当選してから、自民党内で『漫画を規制しよう』という人はほぼいなくなりました。

 一方で国連からの勧告などには対抗していく必要はあります。ただ、自民党は「表現の自由を守っていこう」と言っているぐらいなので、今のところネガティブな議論はありません。

 海賊版については、リーチサイト(コンテンツが掲載されている海外の違法サイトへのURLリンクが貼られているサイト)規制が始まって、国内のリーチサイトはなくなりました。しかし、海外にはまだあります。ベトナムなどを中心とした海賊版サイトがちょこちょこ出現しては、つぶされている状況です。

 20年ぐらい海賊版サイトの情勢をチェックしていたのですが“漫画BANK”を倒したころから、半減しました。海賊版業者も疲れてきたんだと思います。おそらく、そうしたサイトの運営に従事する人も減っているのではないかと思われます。

 昔は「週刊少年ジャンプ」(集英社)や「週刊少年マガジン」(講談社)の単行本の発売当日に、内容がスキャンされ、海賊版サイトにアップされていました。今は数日かかります。おそらく人が少ないのだと思います。

 永遠にイタチごっこが続くかと思われたこの戦いですが、もしかしたら倒せるかもしれないと思っています。ここまできたら、議員になって、海賊版サイトが運営されている複数の国を訪問して息の根を止めたいと考えています。漫画家として、議員として訪問し、政府と交渉してきたいです。

 むこうの国民や業者にも、海賊版が運営されることによって何千億円、場合によっては1兆円を超える被害が出ていること、「このままでは新人の漫画家がみんな死んでしまう」という窮状を訴えたいと思います。新人の漫画家が潰れてしまうことは、そのまま漫画の未来が先細ってしまうことを意味しますから。

“漫画外交”としてフランスへの視察も計画

――漫画を通した文化外交も今回の選挙で訴えられていたと思います。

赤松 9月に、まずはフランスへの視察を計画しています。1年生議員がいきなり海外視察に行くのは、憚られるところもあったのですが、党内で調整し、行けるようであれば行きたいと考えています。

 7年前にジャパンエキスポにオフィシャルゲストでパリに行った時、20人くらい記者が並んでいる前で会見したことあったんです。

 その際に出た質問が、「『魔法先生ネギま!』はなぜ中途半端な終わり方をしたのですか?」でした(笑)

「なんだそれ!この人たち作品にやたらと詳しい!」とびっくりしました。

 本気で作品の内容に関して聞いてきてくれるんです。日本の漫画やアニメに対して造詣が深い人は多いです。

 また、平和じゃないと漫画は描けませんよね。(編集部注:ウクライナ戦争開戦後、日本国際漫画賞を受賞した)ウクライナの漫画家さんもそういっていました。漫画を通じた国際友好を即やります。クリエイターじゃないとできないし、クリエイターだけではできない。議員であってクリエイターであれば素晴らしく進みます。

 先日、ちばてつや先生、里中満智子先生、弘兼憲史先生と岸田(文雄)総理との漫画家座談会を組む機会がありました。岸田総理からは「『鬼滅の刃』を読んでいる。猗窩座(あかざ)が好きだ」などという話が出てきて、盛り上がりました。ちば先生の『ハリスの旋風』も読んだと言っていて、さすがのちば先生も喜んでいました。

 その際、岸田総理からは「漫画外交は素晴らしい。ぜひやってください」と声をかけられました。

――フランスのマクロン大統領も“日本漫画好き”を公言しています。

赤松 欧州で日本漫画が一番好きなのはフランスです。私の印税も多いです。文化大国で、国家政策としてクリエイターの保護にも力を入れるなど、国をあげて本気で文化を守っています。良い部分を日本にも取り入れていきたいです。

 日本は、国として文化を“守っていこう”という考えがあまりありません。「好きでやっているんでしょ」と思われてしまうところがあると思うんです。

政治の実態を漫画で解説

――そのほか、現役の漫画家議員として取り組んでいこうと考えていることはありますか。

赤松 公式Twitterで月、水、金に『赤松健の国会にっき』という漫画(下記参照)を掲載しています。

 まずは若い人たちに政治に興味を持ってもらいたい。入口になるよう、すごくわかりやすくて、やさしい内容にするよう心掛けています。SNSを使って、若い人に参加してもらって未来に夢を持ってもらいたいです。

――若年層のSNSでは、政治や将来に関する投稿内容も暗い話題が目立ちますよね。

赤松 諦めてしまっている若い人たちが多いということはあると思います。(若い人や漫画やアニメファンらが)団結したら、政権与党の自民党でトップ当選させることができる。それを示すことができたのなら、みんな、ちょっとやる気がでるんじゃないかと思うんです。

「どうせ俺らが投票しても変わらないだろう」ということではなく。

 また、子どもたちが私の漫画をきっかけに政治に興味を持って、「国会議員になって日本をよくしたいな」と思ったらすごいですよね。みんなが参加して、日本を良くしていくと良いと思います。

 そのためには文字や動画ではなく、漫画やイラストだと思うんですよね。動画はすごく人の時間を奪います。文字もぱっと見ではわかりません。

 イラストや漫画であれば、速く読みたい人はすぐ読めるし、ゆっくり読みたい人はじっくり読める。コレクションしたい人はコレクションできます。ネットとの親和性が高いと思っています。選挙期間中、投稿したイラストのインプレッション数が350万に達したこともありました。漫画・イラストを使って訴求し、政策や国会の状況を率先して伝えていきたいと考えています。

(構成=Business Journal編集部)

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