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アニメファンの熱量低下?Netflixなどが批判覚悟で一挙全話配信をやる事情

文=A4studio
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サイト「Netflix」より
サイト「Netflix」より

 7月25日にあるTwitterユーザーが呟いた投稿が、1.8万以上の「いいね」を集め(8月19日時点)、話題を呼んでいた。その投稿では、動画配信サイトのNetflixなどによるアニメの一挙配信が、「次回はどうなるんだ?」と1週間待ちながら話題を形成していくファンの熱量を下げており、外資系の動画配信サイトはこうした構造を理解できていないのではと指摘されていた。

 そこで、この指摘に関して、ブシロードやバンダイナムコスタジオなどで10年以上もの間、海外向けにアニメやゲームの海外展開を担当してきたエンタメ社会学者の中山淳雄氏に話を聞いた。

手塚治虫が切り開いた「毎週1話30分」というテレビ地上波アニメの習慣

 まず、日本のアニメの放送スタイルはどのようなものだったのか。

「毎週1話30分放送のテレビアニメの原型を作ったのは、手塚治虫が率いる虫プロが1963年に制作した『鉄腕アトム』です。アニメ制作は膨大な時間と手間がかかるので、当時どのテレビ局も本格的なアニメ制作にはおよび腰でした。

 しかし虫プロがセル画の口部分だけを動かすなど、作画コストを下げるアイディアを多く導入したことで、毎週30分のアニメを制作して放送するというスタイルが確立したのです。以降これが主流となり、各テレビ局が毎週1話30分で続きもののアニメを放送するようになりました」(中山氏)

 こうした1週間に1話ずつの放送スタイルが、アニメの人気を盛り上げるファンコミュニティを形成していると、話題のツイートやそこへのリプライでは語られていた。

「これはおっしゃる通りですね。一体次の話はどうなってしまうのか? と続きを期待させる演出をクリフハンガーというのですが、こうした演出の効果もあり、ファンは1週間ああでもないこうでもないと次の展開を考察するわけです。2017年『けものフレンズ』や2021年『PUI PUI モルカー』などは、こうしたファンの反応によってコンテンツが後から大きく成長した事例でしょう」(同)

外資系動画配信サイトが理解したうえで選択しなかった日本的放送スタイル

 一方、近年は日本で主流の「毎週1話30分・地上波放送」というスタイルとは異なり、Netflixなどのようにアニメを一挙全話配信するスタイルも多くなってきたという。

「まず整理しておきたいのですが、日本では多くのアニメが毎週1話30分で地上波放送されています。ですからリアルタイムでアニメを楽しむことが可能なのです。ですがその後、外資系の動画配信サイトを介して地上波勢が体験した“待ち時間”を廃した、一挙配信が世界に向けてなされるわけです」(同)

 こうした一挙配信が、日本のファンの間で地上波の週次視聴派と一挙配信視聴派で分かれるといった分断も生んでいるという。

「近年テレビの視聴者数が激減しているとはいえ、まだまだ作品のお披露目はテレビ地上波からというケースは多いです。そのためリアルタイム視聴をするファンは根強いのですが、一方で、全話が一挙配信されてから観ればいいや、と判断をするファンも生まれています」

 なぜアニメの作り手は、外資系の動画配信サイトを介した一挙配信を受け入れているのだろうか。

「コンテンツを展開していくうえで世界に向けて発信するのは、今やアニメビジネスにおいて当たり前ですから、そうなったときに広く作品を届けられる、また『高く買ってくれる』外資系の動画配信サイトと手を結ぶというのは、時代の流れに即した当然の判断といえるでしょう」(同)

 外資系の動画配信サイトがアニメを一挙配信するということに関して、ネット上では「アニメにとって大事なシステムを理解していない」といった趣旨の批判も集まっているが、中山氏はこうした批判は事実を捉えきれていないと指摘する。

「外資系の動画配信サイトが、日本的なアニメ放送のスタイルを理解していないというのは、まずないと思います。そうではなく、知っていてあえて選ばなかったのでしょう。アニメを買い付けて放送する際に日本的なスタイルを導入して配信するというのは、コスト面であまり旨味を感じなかったのではないでしょうか。動画配信サイトの目的は、契約数を伸ばすことで、重要なのは最初に作品を見て、入ってくれる・継続してくれるかどうかです。その目的から考えると、コンテンツの熱量を維持し、無料視聴でもユーザーを成長させていく日本式スタイルはあまり必要ないという判断を下しているのだと思います」(同)

 一挙配信というスタイルがそもそも欧米のユーザーにとって慣れ親しんだものであることも、考慮する必要があるという。

「アメリカは国土が広いため、電波によるテレビの送受信文化があまり発達せず、代わりにケーブルテレビのスタイルが根付きましたが、ケーブルテレビは放送局の数がとにかく多いのです。そのため全国民が毎週決まった時間に同じ番組を観るという習慣があまり形作られませんでした。そういった背景もあり、続きもののストーリーが毎週展開していくアニメ作品はなかなか広まりづらく、『スポンジ・ボブ』のような基本的に1話完結で、どこから観ても楽しめるような作品が多くなっていった印象があります。

 ですから、動画配信サイトアニメ作品を一挙配信するというスタイルをとっても大きな反発が出なかったのでしょう。むしろ動画配信サイトが一挙配信を数多く行うようになったことで、休日などに話題作を一気に観るビンジウォッチングと呼ばれるスタイルが一般的になりましたし、一挙配信は欧米人と相性がいいのでしょう」(同)

国内外問わずアニメファンは「待つことの楽しみ」という価値を理解している

 だが、日本的なアニメ配信スタイルが欧米圏で受け入れられていないかというと、そうでもないそうだ。

「海外の熱心なアニメファンには、日本的な毎週1話放送のスタイルを望んでいる人も多い印象です。また、日本のアニメやドラマの配信を主軸に行なっているアメリカの動画配信サイト『Crunchyroll(クランチロール)』などは、日本の人気アニメをテレビ放送の数日後に毎週1話ずつ配信していくというスタイルを取っています。YouTubeでアニメ視聴のリアクション動画をあげている海外のアニメファンたちなどは、このCrunchyrollを多く利用して、毎週、次はどうなるんだ? と日本のアニメファンと同じようにコミュニティ内で盛り上がっていますね」(同)

 では、テレビ文化に根ざしていたアニメの放送形式が今後、動画配信サイトの隆盛でどう変化していくのか、そしてファンコミュニティのあり方も変わってゆく可能性があるのか。

「一挙配信というスタイルは、話題によって動く浮動層をユーザーとして育てる効果を無視してますし、毎週追ってストーリーを完結させていくここ半世紀の日本のアニメ文化とは異なるものです。ですが、いまだ大半のアニメ制作が週次視聴派を前提として作られていることを考えると、一挙配信だからこそできる新しいアニメ表現を生む可能性はあるとは思います。ただ個人的には、米国にはなかなか育たなかった週次ストーリー視聴型アニメと、それを無料視聴する視聴者たちの反応によってファンベースを育てていく、という文化自体はなくならないでほしいですね」(同)

 日本人が慣れ親しんできた毎週1話の放送を楽しむというスタイルの一体感は今後過去のものになり、アメリカ的なビンジウォッチングの習慣に日本人も徐々に慣れていかねばならないのだろうか。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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