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なぜ中国市場注力で成長遂げたコマツは今、急速に脱・中国を進めているのか?

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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コマツのHPより

 9月21日、コマツは中国にある坑内掘り石炭向け鉱山機械の生産拠点のうち4拠点を売却したと発表した。背景要因として、チャイナリスクの急速な高まりは大きい。現在、中国経済は不動産バブル崩壊など複合的な要因によって景気後退の懸念が一段と高まっている。それに伴い、建機の需要は低迷している。かなりの長い期間にわたって、その状況は続く恐れがある。コマツにとって中国ビジネスは、成長の源泉よりも、業績の足かせになりうる要素が増えている。

 コマツは中国に代わる市場にて事業運営基盤を整備し、国際競争力を高めなければならない。先行きは楽観できないが、同社の製造技術、電動化などの加速といった要素を総動員することによって、中国以外の市場における収益力を強化することは可能だろう。特に、世界で脱炭素は加速している。バッテリーの原材料であるレアメタルの採掘需要は増えている。そうした変化を反映して、世界全体での景気後退懸念が高まる状況下でさえ、インドネシアでは建機の需要が増えているようだ。コマツは中国から東南アジアなどの新興国に急速に経営資源を再配分すべき局面を迎えている。

コマツの成長を支えた中国経済の高成長

 コマツは事業運営戦略の大きな転換点を迎えている。過去30年ほどの間、同社は中国経済の成長を追い風にして高い成長を実現してきた。1995年にコマツは中国に事業運営拠点を設け、それまでにまして中国での事業運営体制を強化した。それは、中国における急速な建機需要の高まりを手に入れるためだった。

 まず、中国経済がどのように高成長を実現したかを確認する。1978年に中国共産党政権は改革・開放路線を推進した。しかし、1989年に天安門事件が発生すると、一時、経済成長率は急速に落ち込んだ。1992年に鄧小平の南巡講話によって改革・開放の経済運営方針は再度強化された。それ以降、党主導でインフラ開発や重厚長大分野の国有・国営企業に対する海外企業からの技術移転が強化された。金融分野などでの市場原理の導入も加速した。それによって、中国は高い経済成長率を実現した。

 リーマンショック後は共産党政権が4兆元(当時の邦貨換算額で約56兆円)の経済対策を実施した。特に大きかったのが、不動産投資の増加だ。それによって地方政府の土地利用権の譲渡益は増加し、インフラ投資の財源が確保された。共産党政権は、内陸部の生活環境向上のために住宅の増設も強化した。世界的に金融緩和が長期化するとの観測の高まりも加わり、中国の不動産価格は上昇し続けるという強い期待が高まった。中国の不動産バブルは膨張した。投資によってGDP成長率は押し上げられた。こうして2019年まで中国は前年比で6%を上回る高い経済成長率を維持した。

 その結果、中国の建機需要が急速に増加した。2010年度、コマツの建設機械・車両の売上高に占める中国の割合は21%に達した。その後、中国の三一重工による低価格攻勢、米国のキャタピラーとのシェア争奪など競争は激化した。2016年にコマツは米国のジョイ・グローバルを買収した。それによって、ダンプの大型化や坑内掘り機械の製造技術を強化し、コマツは中国市場における炭鉱開発向けの建機市場などでシェアを獲得しようとした。過去30年にわたって、中国におけるシェア拡大はコマツの成長に決定的インパクトを与えた。

過剰になり始めた中国におけるコマツの供給能力

 しかし、コマツの中国事業の成長期待は急速に低下している。特に、2020年8月に共産党政権が“3つのレッドライン”とよばれる不動産融資規制を導入したことは大きい。それによって不動産デベロッパーの資金繰りは急速に悪化し、経営体力は低下している。デベロッパー各社は資産の切り売りによって資金をねん出せざるを得なくなった。売るから下がる、下がるから売るという弱気心理が連鎖し、中国経済の成長を支えた不動産市況の悪化が止まらない。建設、生産、個人消費などの回復は鈍い。地方政府の財政内容も急速に悪化している。

 その結果、コマツは急激、かつ深刻な中国の建機需要減少に直面した。2021年4月から2022年6月まで建機などの需要(台数ベース)は前年同月比で2ケタ台の減少を記録した。6トン以上の油圧ショベルに関しては本年8月まで需要が減少している。「KOMTRAX(コムトラックス、コマツが開発した建機のIoTシステム)」が収集した建機の稼働時間を見ると、上海のロックダウンが解除された6月以降、落ち込み幅は幾分か緩和してはいるが、建機の利用は依然として停滞している。8月には共産党政権が2020年を上回る約1兆元(約20兆円)の景気対策を追加したが、中国経済が上向く兆しは見られない。中国の高度経済成長は終焉を迎え、建機の需要拡大ペースは拡大期から停滞期に移行し始めたと考えられる。

 そうした変化に対応するために、コマツは石炭向け鉱山機械事業の一部を中国企業に売却する。業績に与える影響は軽微との会社発表がなされたが、コマツにとって今回の資産売却の意味は相当に重いはずだ。中国は世界第2位の経済大国だ。コマツ社内には、市場シェアを維持するために事業運営体制を保つべきとの考えも強いだろう。また、中国は異常気象などによる国内の電力供給不安に対応するために、石炭を増産している。本来、それはコマツにとって、ジョイ・グローバル買収の成果をより大きく発揮するチャンスになるはずだ。しかし、そうしたベネフィットを上回るほどに、中国におけるコマツの供給能力は過剰になっていると考えられる。

徹底強化が求められるアセアン地域などでの事業運営体制

 コマツは、中国以外の市場における成長戦略を強化すべき局面を迎えた。例えば、インドネシアでは中国の寧徳時代新能源科技(CATL)、韓国のLG化学、現代自動車グループなどがリチウムやニッケルなどの採掘、加工、車載用のバッテリー生産、さらにはEV生産までを一貫で行う体制を整備している。

 中東、アジア、オーストラリアや米国などでは、欧州などへの天然ガス供給体制の強化が急がれている。ウクライナ危機以降、世界経済がブロック化した。新しいエネルギー資源などの供給体制の再構築は急務だ。アセアン諸国、米豪などにおけるエネルギー、鉱山資源の採掘や生成、それを支えるインフラ整備は増えるだろう。それは建機の需要を押し上げるだろう。

 コマツは、中国以外での国と地域での建機需要の獲得を、これまで以上に強化すべき時を迎えた。そのために、建機の電動化の推進は欠かせない。鉱山開発などから排出される二酸化炭素の回収・貯留(CCS)などの研究・開発の強化も競争優位性の向上につながる。それらは、今後のコマツの事業戦略のポイントといえる。

 一方、世界全体でコマツを取り巻く事業環境の厳しさは急速に増すだろう。世界の主要投資家は中国から海外に資金を逃避させている。米国や欧州などの中央銀行はインフレを鎮静化させるために、かなり急速に金融政策を引き締めなければならない。それによって、世界全体が深刻な景気後退に陥る恐れは高まっている。コマツは強まる逆風に対応すべく、コストの削減をさらに強化するだろう。

 その上で、中長期的に増加が期待されるリチウム鉱山開発などに必要な建機の供給能力を高めなければならない。今後の展開によっては、中国関連資産の追加売却など、リストラが一段と強化される展開も想定される。先行き懸念が高まる中、コマツが迅速に成長期待の高い市場、技術に経営資源を再配分し中長期的な収益力をこれまで以上に高めようとするか否かに注目が集まるだろう。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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