
――2021年2月28日、日曜だというのに緊急連絡用の携帯電話が鳴った。
「大きなシステム障害が起きていてATMが使えず、お客さんが大騒ぎしているらしいんですよ。今から支店に来られます?」
妻と娘との3人で中華街に食事にきていた、M銀行みなとみらい支店の目黒冬弥課長は、副支店長からのSOSを受け、ひとり勤務先へ急行する。ATMにカードが飲み込まれて、そのまま出てこないと困惑する客に平謝りしては、各店舗のATMに「お詫びポスター」を貼って回りながら、20年前の“あの日”を思い出していた――。
そんなシーンから始まるのは、この10月に刊行された『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ発行/フォレスト出版発売)である。

M銀行でシステム障害とくれば、誰もが「みずほ銀行のことか?」と思うが、本書のなかでは銀行名をはじめ登場人物や支店名はすべて仮名、著者もペンネームだ。話題性抜群のためか、版元によれば9月に発売後、たちまちに重版となり、まもなく4万部を突破する勢いだという。
みずほ銀行広報部に聞いてみたところ「当該書籍については、認識しておりますが、当行が取材協力した事実はございません。当該書籍に関するコメントは差し控えさせていただきます」と、否定も肯定もしない歯切れの悪い反応。
暴露本かと思って読み始めたところ、すぐにシステム障害のことなどほんのサシミのつまにすぎないことに気づく。
上司に罵倒されて塗炭の苦しみを味わいながらも、やがては支店のエースと呼ばれるまでに成長。職種転換によって支店長への途が完全に断たれたことに涙し、嘱託社員の突然の死後に見つけた詳細なメモに思いを馳せたかと思えば、振り込め詐欺撃退やFX詐欺犯人との直接対決という血沸肉躍る活劇も随所に交えた読み物になっている。
これは、バブル末期にキャリアをスタートした世代がたどってきた、「人生ゲーム」ではないか。行内で不正と立ち向かう派手な立ち回りこそないけれど、客や上司、部下に対して「信頼を勝ち取る」ことと「信頼に応える」ことによってのみ自らのキャリアを積んできた、等身大の“半沢直樹”がそこにいる。本書の名場面をダイジェストにして、上司キャラ別にいくつかご紹介しよう。