旭川いじめ自殺:教頭が被害者生徒の母親の主張に反論…加害者に優しい学校の実態
昨年2月に北海道・旭川市の中学校で「いじめ」を受けていた廣瀬爽彩さんが凍死した状態で見つかった事件をめぐり、先月18日に中学校と旭川市教育委員会は保護者説明会を開き、爽彩さんの両親への対応を行った当時の教頭が出席。爽彩さんの母親は手記で、教頭から
「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。10人ですよ」
と言われたと綴っていたが、保護者説明会でこれについて質問された教頭は「そのような発言はしておりません」と否定するなどして、波紋を呼んでいる。
この問題をめぐっては、学校と市教委の対応の遅さが指摘されている。爽彩さんは3年前の2019年に「いじめ」を受け自殺未遂を起こしたものの、事態を把握した学校側は「いじめはなかった」として必要な対応を取らなかったことが判明している。昨年2月に爽彩さんは凍死した状態で発見されたが、学校と市教委は目立った対応を取らず静観を貫いていた。そこに「文春オンライン」の特集記事が掲載され、事件の存在が明るみに。旭川市長の指示を受けるかたちで市教委が調査のための第三者委員会を設置したのは、昨年4月に入ってのことだった。
そして今年9月に第三者委員会が再調査の最終報告書をまとめたが、爽彩さんが「いじめ」を受けていたことを認定する一方、「いじめ」と自殺の因果関係については認めず、これを不服とする爽彩さんの親族の意向を受け、11月には旭川市長直属で再調査を行う第三者委員会が設置。委員会メンバーに教育評論家の尾木直樹氏が起用されることが注目される一方、爽彩さんの死亡から1年10カ月が経過しても、いまだに調査が続くという異常な事態となっている。
名古屋大学大学院教授(教育社会学)の内田良氏はいう。
「今回のケースから見えてくるのは、当該中学校において加害者への対応が非常にゆるかったということだ。一般論としてこれまで学校は、いじめの加害者に対する厳しい対応を欠いてきた。加害者を学校が丸抱えして指導することで、生徒を立ち直らせていくことに重きが置かれ、一方で警察の協力をあおいだり、また加害者を出席停止にしたりすることは『教育の放棄』とみなされる傾向にあった。
その結果、加害者は学校に来つづけて、被害者側が学校から離脱していくことになる。重大な加害/被害の事実が確認された時点で、ただちに警察や弁護士、心理カウンセラーなど学校外の機関や専門家の協力を得て、加害者への専門的な対応をゆだねるべきだ。加害者に対して毅然とした対応が可能となるよう、加害者の処遇について積極的な議論が不可欠である」
当サイトは21年8月19日付記事『旭川・中学生イジメ自殺、教頭が親に「加害者10人と被害者1人の未来どっちが大切か」市教委も揉み消しか』で、学校と市教委の杜撰な対応について報じていたが、改めて再掲載する。
※以下、肩書・数字・時間表記等は掲載当時のまま
――以下、再掲載――
北海道・旭川市の女子中学生、廣瀬爽彩さんがイジメを苦に今年2月に命を絶った事件。今月18日には爽彩さんの母親が綴った手記が公開され、学校と旭川市教育委員会のあまりに杜撰な対応が波紋を呼んでいる。
手記によれば、2019年、当時中学1年生だった爽彩さんがイジメを受けている様子を感じた母親は、複数回にわたり学校の担任に相談したが、
「いじめるような子たちではありません」
「思春期ですからよくあること」
「いじめなんてわけがない。いじめていたら、じゃあなんでリュックなんて届けてくれるんですか」
などと否定された。そして、「子どもたちに囲まれ、ウッペツ川に飛び込んだ事件の後、爽彩の携帯電話に、いじめを受けていることを示す履歴があることを学校に知らせ」(手記より)たものの、学校の教頭から次のような言葉を浴びせられたという。
「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。10人ですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみてください」
また、相談をした学校と市教委の対応について、
「いじめの認知には至らなかった、などと繰り返し主張しています。教育委員会の態度は、『いじめ』をもみ消そうとしているようにさえ見えます」
としてる。
爽彩さんは2年前、転校前に通っていた中学校で上級生グループから不適切な動画の撮影を強要され、その画像をSNSで拡散させるというイジメを受け、自殺未遂を起こしていた。しかし、同年発売の地元誌「メディアあさひかわ」(月刊メディアあさひかわ)の報道によれば、事態を把握した学校側は「いじめはなかった」として、必要な対応を取らなかったという。
ちなみにこの中学の当時の校長は「文春オンライン」の取材に対し、「(イジメに)至ってないって言ってるじゃないですか」と発言。爽彩さんが同校生徒から不適切な動画の撮影を強要されていたことについては「今回、爽彩さんが亡くなった事と関連があると言いたいんですか? それはないんじゃないですか」などと話している。
地方の教育界、お互いに知った顔同士の狭い世界
事態を重く見た旭川市の西川将人市長は今年4月になってようやく、市教委に調査を指示。市教委は第三者委員会を立ち上げ検証を行っているが、調査結果のとりまとめ時期について、地元メディアの取材に対して「今のところ、めどは立っていない。具体的な時期は申し上げられない」としている。
母親は手記のなかで第三者委員会の調査について、
「今も違和感と疑問をぬぐい去れません。公平で中立な調査が行われているのか、誰が、どんな調査をして、本当に真実に迫ろうとしているのか。調査の進捗に関する情報が極端に少なく、調査委員会の動きを、どう評価すれば良いのか、いまだ戸惑っています」
と不信感を示しているが、市関係者はいう。
「ウチのような地方では、現場の学校の教師から校長、教育委員会からなる教育界は、お互いに知った顔同士の狭い世界。教師も教育委員会の事務局もみんな地方公務員で、“誰々は昔どこそこでお世話になった”“同じ職場だった”“以前あそこの学校で上司と部下の関係だった”みたいな感じで、ズブズブの“しがらみ”のなかで生きている。
イジメを揉み消して母親に暴言を吐いたとされる校長はすでに昨年退職していますが、たとえ退職しているとしても、教育界の有力OBである彼の責任を厳しく追及するような調査など期待できない。彼にシンパシーを抱く校長や、懇意にしている人間も多いでしょうから、教育界内部からの反発も怖いでしょうしね。この校長も2000万円近くの退職金をもらって、あとはのんびり静かに暮らしたいでしょうから、マスコミの取材などで語ってる言葉から察するに、“今さら過去をほじくり返されて、いい迷惑”くらいにしか思っていないんじゃないですかね」
イジメ、教師によって対応はまちまち
また、40代の公立中学校教師はいう。
「自分が担任を受け持つクラスでイジメの疑いを感じた際、物怖じせず徹底的に当事者の子どもたちと向き合うのか、逆にできるだけ“気づかないふり”をするのかというのは、教師によってまったくまちまち。学校単位でいえば、トップである校長や教頭によって全然対応が違ってくるのが実情です。
学校の現場では、新卒の新人教師がなんの準備もマニュアルもなく、いきなり担任を任されて現場に放り込まれる。教師たちはそのなかで試行錯誤しながらノウハウを身につけていくわけなので、結果としてイジメへの対応方法や考え方も教師によってバラバラになる。“そんなのは、教師の仕事じゃない”“すぐ警察に通報すべき”と考える教師もいるくらい。加えて、今の学校教師は、朝のホームルームに始まり日中の授業、部活動の指導、生徒の生活指導や保護者対応、さらには内申書や教育委員会などへの報告書の作成など書類仕事も重なり、朝7時から夜10時過ぎまで働きづめになることも珍しくないほどの激務。部活動で休日がつぶれることだって多い。
まったく言い訳にはなりませんが、そういう勤務環境のなかで、学校や教師が、できるだけイジメなどの面倒な問題を“なかったこと”にしようという方向に傾く面はあるでしょう。
また、あくまで私見ですが、特に50代以上の教頭や校長などの管理クラス、いわゆる“古いタイプの先生”のなかには、“学校にイジメなどあってはならない”“あるはずがない”という固定観念に縛られ、イジメの存在を認めようとすらしない人が多いような気がします」
(文=Business Journal編集部、協力=内田良/名古屋大学大学院教授)