住宅金融支援機構と民間機関提携の住宅ローン、フラット35。完済まで金利が確定している全期間固定金利型で、比較的金利水準も低いところから、年間10万人前後が利用する人気を誇っています。毎年4月、10月に制度改正が行われますが、2023年4月からも重要な変更があります。
新築住宅では省エネ基準適合が必須条件に
2022年6月に公布された「建築物省エネ法」の改正により、2025年4月から、わが国ではすべての新築住宅に省エネ基準適合が義務化されることになっています。省エネ基準というのは、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のため、必要な建築物の構造や設備に関する基準であり、一次エネルギー消費量基準と外皮基準からなり、改正のポイントは、以下の3点です。
(1)原則すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務づけられる
(2)建築確認の手続きのなかで省エネ基準への適合性審査を行う
(3)2025年4月に施行
25年4月以降に工事に着手する建築物が対象となります。基準をクリアできない住宅は今後新築することができなくなるわけです。
どんな住宅なら省エネ基準をクリアできるのか
すべての新築住宅に義務化される厳しい制度ですから、公布から施行まで3年の猶予期間が設けられているのですが、フラット35では、それを先取りして23年4月から省エネ基準適合が義務化されます。2050年カーボンニュートラルに向けて、住宅分野のCO2排出量削減が大きな社会的課題になっていますから、良質な住宅の建設を促進するという役割を担う住宅金融支援機構としては、義務化を一足早く実施することで、社会的な省エネ機運を高めていこうということではないでしょうか。
では、実際のところ、どんな住宅なら省エネ基準適合をクリアできるのでしょうか。第一には、ZEH(ゼッチ)と呼ばれるネット・ゼロ・エネルギー・ハウスです。住宅本体の省エネ向上と太陽光発電などの創エネによって年間の一次エネルギー消費量を実質ゼロ以下にします。大手住宅メーカーを中心に標準化が進んでおり、最近では中堅メーカーでも対応できるようになりつつあります。
住宅金融支援機構が作成した制度改正のリーフレット(表面)
国の認定制度をクリアできる住宅ならOK
ZEHをさらに進めた住宅がLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)と呼ばれる住宅です。ZEHは住んでいる間のエネルギー消費量をゼロ以下にするのに対して、LCCMでは住んでいるときを含めて、住宅の建築から解体までの住宅のライフサイクルすべてを通してCO2排出量をゼロ以下にします。
国の認定制度として実施されているのが長期優良住宅制度です。長く、安心、快適に過ごせる住宅を認定する制度で、省エネ性能だけではなく、耐震性、可変性、バリアフリー性などの項目で基準が設けられています。さらに、認定低炭素住宅や性能向上認定住宅などの認定制度もあります。こうした制度をクリアできる住宅であれは、省エネ基準適合住宅ですから、自動的にフラット35を利用できることになります。
地域連携型の金利引下げ制度を拡充
23年4月からのフラット35の制度改正として、もうひとつ、地域連携型の金利引下げ制度の拡充が実施されます。住宅金融支援機構には、都道府県、市区町村などの地方公共団体と連携、地方公共団体の補助金などを利用しながら、フラット35の金利が引き下げられる「フラット35地域連携型」があります。フラット35地域連携型の金利引下げは当初5年間、0.25%の引下げですが、空き家を取得する場合、子育て世帯が住宅金融を取得する場合には、金利引下げ期間が10年間に拡充されます。
また、またグリーン化(断熱性能等級6、7相当の高断熱住宅を取得)する場合も金利引下げの対象に追加され、引下げ期間は5年で、引下げ幅は0.25%です。
住宅金融支援機構が作成した制度改正のリーフレット(裏面)
フラット35には各種の金利引下げ制度がある
住宅金融支援機構には、そのほかにも各種の金利引下げ制度があり、23年4月から実施される省エネ基準適合住宅なら、その金利引下げ制度の対象になる可能性が高まります。22年10月に制度改正が実施され、金利引下げ期間と金利引下げ幅が、取得する住宅が取得できるポイントによって決まるようになりました。
合計のポイントが1の場合には、金利引下げ期間が5年で、金利引下げ幅は0.25%です。それが、2ポイントになると、金利引下げ期間が10年になり、引下げ幅は0.25%です。さらに、ポイントが3になると、当初5年間の引下げ幅が0.50%になり、6年目から10年目が0.25%です。ポイントが4が最高で、金利引下げ期間は10年間、引下げ幅はずっと0.50%になります。
省エネ基準適合なら最大の金利引下げになる可能性
省エネ基準適合なら最大の金利引下げになる可能性が高まります。ZEHならそれだけで3ポイントですし、それにフラット35地域連携型の地域活性化型、管理計画認定マンションなどの1ポイントを加えることができれば、合計4ポイントになって、10年間金利が0.50%引下げられるのです。
フラット35というのは、全期間固定金利型ですから完済までの金利が確定しているので、借入後に市中の金利が上がっても、適用金利が上がることはなく、返済額も変わりません。22年からジワジワと金利が上がり始めていますから、変動金利型の住宅ローン利用には注意が必要ですが、全期間固定金利型なら安心して利用できます。
ただし、その分、金利が高めに設定されています。民間金融機関の変動金利型の住宅ローンは、0.3%台、0.4%台で利用できるのに対して、全期間固定金利型は1%台以上が中心で、フラット35も23年1月の金利は返済期間15年~20年が1.52%で、21年~35年が1.68%です。
フラット35は変動金利型に比べ金利が高い
たとえば、三菱UFJ銀行の23年1月の変動金利型の最優遇金利は0.345%で、メガバンクのなかでも最も低くなっています。借入額4000万円、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は10万1117円です。それに対して、フラット35の35年返済の金利は1.68%で、同じ条件で毎月返済額を試算すると12万6031円になります。月額では2万4914円、年間だと29万8968円もの差になります。
これだけの差があるのですから、多少のリスクがあっても変動金利型を利用したくなる理由も分かります。実際、各種調査でも住宅ローン利用者の7割から8割は変動金利型を利用しています。しかし、金利引下げ制度を利用できれば、この差はかなり小さくなります。フラット35では23年4月から省エネ基準適合が義務化されますが、先に触れたようにその条件をクリアできるZEHなら当初10年間、金利が0.50%引き下げられる可能性が高いのです。
金利引下げで負担差は半分に縮小される
当初10年間金利が0.50%引き下げられると、返済期間35年の金利は1.68%-0.50%で1.18%になります。返済期間20年以下なら1.52%-0.50%で1.02%です。1.18%の場合、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は11万6300円になります。変動金利型の10万1117円よりは多いのですが、それでもその差は月額1万5183円、年間18万2196円に縮まります。さらに、返済期間20年の1.02%なら毎月返済額は11万3287円で、変動金利型との差は毎月1万2170円で、年間では14万6040円です。
まだまだ変動金利型よりは多いのですが、それでも借入後の変動金利型の金利上昇のリスクを考えれば、この程度の差であれば容認できるのではないでしょうか。23年4月からのフラット35の制度改正で省エネ基準適合が義務化されるのをキッカケに、フラット35と金利引下げ制度を見直してみてはどうでしょうか。