面接や採用試験で「優秀」だと判断された人材が、入社してみると頭角をあらわすことなく部署のお荷物になってしまったり、採用時にはさして有望と思えなかった人材が大化けして会社のエースになったり、あるいは若手時代はうだつの上がらなかった人が、管理職になったとたんに力を発揮するようになったり。
人の能力を見抜くのは難しい。そう嘆くのは簡単だが、採用がうまくいかないのは採用時に志望者を判断する「ものさし」がまちがっているといえるのではないか?
採用ミスにつながる「まちがったものさし」とは
『採るべき人 採ってはいけない人 第2版 採用に悩む小さな会社のための応募者を見抜く技術』(奥山典昭著、秀和システム刊)では、「採用面接では印象が良かったのに、入社したらがっかり」といった採用時のミスマッチが起きる原因を探り、人材確保に苦しむ中小企業が自社で活躍してくれる人材を採用する道を示す。
そこで指摘されているのは「会社が学生を見て、ありがたがっているものの多くが、仕事場での生産性にはつながらない」という点だ。会社側は「まちがったものさし」を使って学生を判断している一方で、高い生産性に直結する能力の方はあまりチェックされていない現実があるのである。
「一見賢そうだが深く考える能力に欠ける学生」を採用しないためのヒント
「まちがったものさし」の一例として、本書では「スピード」をあげている。何を質問しても打てば響くような反応が返ってくる、というようなコミュニケーション上の「反射神経」もスピードの一つだし、決まった時間内に他の学生よりたくさん話したり書いたりできるのもスピードだ。このスピードを見せられると、採用関係者は優秀な学生だと判断しやすい。
ただ、「物事を深く考える」という能力はこうしたスピード重視の風潮のなかで置き去りになりやすい。スピードはあるに越したことはないが、ビジネスで必要な複数の能力の一つにすぎない。そしてスピードを武器にする人ほど、誰でも時間を必要とする「考える」ということと縁遠くなりやすく、問題解決やマネジメントの適性が低くなりがちな点も本書では指摘されている。
本当に必要な能力は面接ではわからない
そもそも、採用面接で見えた長所の多くは、入社後に色あせる。「この学生はまちがいなく優秀」と思って採用したのに、入社してしばらくすると現場からは酷評され、期待していたほどの能力がなかったことが露見することは決して珍しくない。
それは、採用面接で把握できる能力情報の多くは、定型作業などの比較的楽な仕事をこなす力や、仕事を覚える力に関係する。しかし、「未知の場面で動く力」や「ゼロからイチを産む力」などレベルの高い仕事をこなすために必要な能力を採用面接で使う場面はほとんどない。そのため、仕事に慣れてきて裁量が増えるにしたがって「本当に必要な能力」の欠如が露呈することになるのだ。
「見えやすい方に目を奪われて採用し、入社後に、見えにくい方の欠如が露呈する」、これが極めて一般的な採用ミスのメカニズムです。(P42より)
まして、仕事自体の能力以前に大事な「やる気」もまた面接で判断することができない。一見、高い意識を持っていたとしても、持続性を伴う本物の意欲を持っている学生は、やはりごく一握りなのだ。
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どんな人材を採用し、どんな人は採用してはいけないか。本書では、こんな難しい問いに対して、どの企業も参考にできうる指針が示されている。採用に悩む企業は、一読して損はない一冊だ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。