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北海道のヒグマ、「駆除が許されない」状況を生む行政の怠慢…ヒト襲撃が相次ぐ

文=小林英介
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「gettyimages」より

 今、北海道内ではヒグマの目撃情報が相次いでいる。ゴールデンウィークが明けてから札幌市や室蘭市などでヒグマが多く目撃されるようになっている。上川管内の幌加内(ほろかない)町にある朱鞠内(しゅまりない)湖では、釣りをしていたとみられる男性がヒグマに襲われており、近くでは人体の一部とみられるものが見つかっている。

 北海道警察によると例年、ヒグマは3~4月ごろから活動を始め、8~11月ごろには活動が落ち着く傾向にあるという。今年に至っては、5月20日までのヒグマの目撃通報件数が487件となり、ここ数年では最多ペースだとしている。

ヒグマの食料は不作、数年前は市街地で人を襲撃

 ヒグマは山菜や果実、木の実などを好物としており、3~5月の冬眠明けから秋・冬の時期かけて活発に動き回り、12月ごろから始まる冬眠へ向けて食料を求める習性がある。北海道が昨年10月に公表した「令和4年秋の山の実なり調査結果」によると、日高地方を除く広い範囲でドングリが不作となっているほか、札幌を含む石狩管内では山ぶどうなどが凶作となっており、ヒグマが人里へ降りてくる可能性は高い。

 21年6月には、札幌市東区の市街地にヒグマが現れて人間を襲撃した。20年秋の「山の実なり調査結果」では「広範囲でドングリが不作~凶作」となっており、道は「地域によっては市街地や農地へのヒグマの出没が例年より多くなる可能性がある」として注意を呼びかけていた。ただ、さすがに札幌という北海道の中では大都会の「市街地」にヒグマが現れ、人を襲うという事態は想定されていなかったに違いないだろう。

行政の「緩すぎる」対応、ハンター銃所持取消事件が関係か

 また一部では、ヒグマに対する行政側の対応が「緩すぎる」という批判がある。実際、今回相次いでいるヒグマの情報に際しては、関係者が「自ら考えて身を守って」などとコメントを残した。しかし、ヒグマは人を恐れることなく行動する傾向が増えてきている。ヒグマと人の距離はどんどん近づいているのだ。そのため、さすがに私たちが自ら考えていてもヒグマはそんなことお構いなしである。人を襲う可能性も否定できず、「自ら考える」という次元ではないと指摘しておきたい。

 さらにヒグマと行政をめぐっては、とある事件があり訴訟沙汰になっている。事情を知る地元紙記者は話す。

「ヒグマと行政をめぐっては18年、北海道砂川(すながわ)市のハンターが市側から要請されてクマを駆除した。それにもかかわらず、北海道警察砂川(現・滝川)警察署はハンターのライフル銃等を押収し、北海道公安委員会は当該ハンターの銃所持許可を取り消す事件があり問題化した」

 取り消し処分の後、当該ハンターは処分を不服として提訴。21年の第1審(札幌地裁)では取り消し処分について「著しく妥当性を欠く」等として公安委員会の処分を取り消したが、被告の道側はそれを不服として控訴している。前出の記者は続ける。

「この事件を受けて、ハンターたちは『なかなかクマを駆除できない』と苦しんでいる様子だった。数年前には札幌市東区の市街地にクマが現れ、人を襲撃。当時の札幌のテレビではほとんどがヒグマ情報を流していたほどだ。タラレバかもしれないが、砂川市のような事例がなければ本来はもっと早くヒグマを駆除でき、人的被害を減らすことができた可能性はある」(同)

道は方針転換でヒグマ駆除を解禁、人的被害あれば駆除すべき

 しかし、あまりにもヒグマの目撃情報が相次いだためか、道は今年4月から「春期管理捕獲」(人里への出没を抑制する等の要項)に基づいて、4年間のヒグマ駆除を解禁。道の鈴木直道知事も今年5月17日の会見でヒグマ生息数が増加していることを受け、それに対応するため「今年に入って新たな取組で20頭をすでに捕獲している」と明かした。

 人とヒグマの共生は必要だが、人に危険が及ぶのであれば駆除しなければならない。前述の札幌でのヒグマ被害の際にはSNS上で「ヒグマを駆除するのはかわいそう」といった意見がみられたが、人が被害を受けている現状がある。人に対する被害がなければ駆除する必要はないと考えるが、人的被害があればこれ以上被害が広がらないように先手を打つことは重要であり、綺麗ごとは通用しないのだ。

(文=小林英介)

小林英介/ライター

小林英介/ライター

ライター。1996年北海道滝川市生まれ。業界紙記者として働きつつ、様々な媒体でも活動している。

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