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赤石晋一郎「ペンは書くほどに磨かれる」

毎日新聞、オフレコ破り「釈明記事」が不可解…政治部記者とマスコミの癒着の異常性

文=赤石晋一郎/ジャーナリスト
毎日新聞、オフレコ破り「釈明記事」が不可解…政治部記者とマスコミの癒着の異常性の画像1
荒井勝喜秘書官(当時)の発言について会見を行う岸田首相(首相官邸HPより)

 毎日新聞オフレコ破りが、賛否を呼んでいる。きっかけは2月3日のオフレコ懇談会での荒井勝喜秘書官(当時)の発言だった。荒井氏は記者団に同性婚について見解を問われ、「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら、やっぱり嫌だ」などと発言し、毎日新聞はその発言を記事にした。いわゆるオフレコ破りをしたのだ。荒井氏は、記事が出るとわかった後、「誤解を与える表現で大変申し訳ない」と記者会見して発言を撤回した。しかし世論の批判はやまず、岸田首相は荒井秘書官を更迭した。

 荒井氏の発言は、岸田首相自身が参院代表質問で同性婚制度に関し「わが国の家族のあり方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と述べたことへの背景説明のなかでの私見として発せられたという。自民党や首相官邸スタッフのなかにそのような時代遅れの考えがあることを明らかにした、意味ある記事だと筆者は考える。

 一方で、オフレコ懇談の内容を書くべきなのかという議論も一部で起きている。例えば元東京都知事の舛添要一氏はSNSで「オフレコの約束も守れない。この記者たちが日本を劣化させている」と厳しい批判を繰り広げた。

 毎日新聞は2月4日に『オフレコ取材報道の経緯 性的少数者傷つける発言「重大な問題」』との記事を掲載し、オフレコ破りの経緯についても次のように説明をしている。

<荒井勝喜首相秘書官に対する3日夜の首相官邸での取材は、録音や録画をせず、発言内容を実名で報じないオフレコ(オフ・ザ・レコード)を前提に行われ、毎日新聞を含む報道各社の記者約10人が参加した。首相秘書官へのオフレコ取材は平日はほぼ定例化している。

 本社編集編成局で協議した結果、荒井氏の発言は同性婚制度の賛否にとどまらず、性的少数者を傷つける差別的な内容であり、岸田政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だと判断した。ただし、荒井氏を実名で報じることは、オフレコという取材対象と記者の約束を破ることになるため、毎日新聞は荒井氏に実名で報道する旨を事前に伝えたうえで、3日午後11時前に記事をニュースサイトに掲載した。これを受けて、荒井氏は3日深夜、再度、記者団の取材に応じ、発言を謝罪、撤回した。2回目の取材はオンレコで行われた>

 だが、この記事について「必要だったのか?」という意見が噴出しているのだ。つまり誰に向かっての説明記事なのかという点が問われているのだ。ある政治部記者はこう語る。

「記事は、オフレコ懇談会に参加していますが今回は特別に書きました、という経緯を説明しているものですが、つまりは官邸側への言い訳記事です。闇討ちをしておいて、これからも政治家や秘書官から情報を取りたいなんて、図々しいにもほどがあると思います」

 別の政治部記者はこう言う。

「荒井さんの発言はもちろん酷い。そこを認めたうえでも政治部記者としては違和感を覚える。もし、それを毎日が書きたいのなら、そのオフコンの場で荒井秘書官に『何言ってるんですか!』と抗議をすべきだったと思いますが、各社のメモにはそんな件はない。オフコンでは同調しながら聞いておきながら、あとで書く。毎日の釈明記事では、記事を出すと事前通告していると書いていますが、荒井秘書官としては反論や言い分を聞いてもらえないなかで記事が出ることを意味する。これまでは散々癒着をしておきながら背中から矢を放つというかたちであり、同じ政治部記者としては筋が通らないと思う」

 オフレコ懇談会という馴れ合いのなかで、毎日新聞は裏切り者として記事を書いたと見る政治部記者もいるのだ。

「政治家にはオフレコなし」

 そもそも毎日新聞は言い訳記事を書く必要があったのか? というのが筆者の考えである。権力から情報を取るのが政治部記者だと定義されるなかで、毎日はそうした癒着とは一線を画す覚悟を持って記事を出したはずだ。本来的には「書いた記事がすべて」でいいはずで、余計な経緯説明をするという行為自体が、政権と政治部記者の異常な関係性を改めて浮き彫りにしてしまっているのではないのか。

 筆者の週刊誌時代は「政治家にはオフレコなし」と先輩から教わってきた。政治家はその全人格が評価されるべき公人であり、あらゆる発言を書かれる可能性があるとともに、自らの発言の意味を理解し責任を持つというのも政治家の重要な資質の一つである、という考え方だ。この場合は、官邸の秘書官も「準公人」と考える。荒井氏は秘書官であり、政治家ではないが、影響力を持ちうる立場にあるということで公人的な扱いをして良いだろう。

 週刊誌では長らくオフレコ記事をメイン記事の一つにしてきた。有名なのは2003年に「週刊文春」(文藝春秋)が報じた『太田誠一より悪質! 福田官房長官「レイプ擁護」スッパ抜く 「僕だって誘惑されちゃうぞ」 オフレコ会見、女性記者猛反発「全録音」』という記事だ。早大生集団暴行事件(スーフリ事件)についての福田康夫官房長官(当時)の仰天発言をスッパ抜いたもの。同年には同じく「文春」で『舛添厚労相「3年で年金記録照合」はいつもの大言壮語 オフレコメモ「成蹊とか学習院出身者に国のトップは無理」』という記事も発表されている。これは当時、厚労相として人気急上昇中だった舛添要一氏が、安倍氏や麻生氏の学歴を揶揄した記事として話題を呼んだ。

 オフレコ記事の醍醐味は、その政治家や官僚の本性が垣間見られるところにある。週刊誌はオフレコなし、新聞記者はオン・オフを使い分けるというなかで、果敢にオフレコ破りに踏み切った毎日新聞が今後どのような報道を展開していくのかには注目が集まるところだろう。筆者としては、毎日新聞が記者クラブ的な不自由な報道の枠組みから抜け出す大きなチャンスではないか、と期待をしたいところだが、現実には何も変わらないというところに落ち着くのではないかという想像もできる。

岸田政権、「多様性」への無理解

 一方で、今回の毎日新聞報道の価値を改めて検証すると、記事によって岸田政権および官僚サイドには「多様性」というものへの理解がない、ということを改めて浮き彫りにしたということであろう。

 木原誠二官房副長官は、荒井氏の発言について「あってはならない発言だと思う。きわめて深刻に受け止めている」と述べたうえで、多様性を尊重することによって包摂的な社会をつくることに一貫して取り組んできた岸田政権の方針と「まったく相容れない」と語った。しかし、同性婚制度に関し岸田首相は「わが国の家族のあり方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と述べたように、岸田政権が多様性を尊重する方針だとは認めがたいというのは衆目の一致するところ。

 さらにいうと、首相秘書官に長男を縁故採用するという人事も、一般的には「縁故採用は同質な人間が増えやすく、多様性という価値観に逆行するもの」と見られる。実際に荒井秘書官は即座に更迭されたが、外遊期間中にパリで公用車を使って観光した問題などが指摘された岸田翔太郎氏についてはお咎めなしのまま、となっている。

 つまり、岸田首相自身は首相という立場と長男を守ることしか考えていない、ということが今回のオフレコ騒動からも浮き彫りになったのだ。トカゲの尻尾切りを続けているようでは多様性ある社会の構築などは土台無理ということが明らかになった騒動だった、ともいえるだろう。

(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)

赤石晋一郎/ジャーナリスト

赤石晋一郎/ジャーナリスト

 南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。講談社「FRIDAY」、文藝春秋「週刊文春」記者を経て、ジャーナリストとして独立。
 日韓関係、人物ルポ、政治・事件など幅広い分野の記事執筆を行う。著書に「韓国人韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち」(小学館新書)、「完落ち 警視庁捜査一課『取調室』秘録」(文藝春秋)など。スクープの裏側を明かす「元文春記者チャンネル」YouTubeにて配信中

Note:赤石晋一郎

Twitter:@red0101a

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