ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 毎日『はらぺこあおむし』風刺画物議
NEW

毎日新聞の風刺漫画にモチーフ元の出版社が猛抗議…同業者「作品に込めた思いを侵害」

文=編集部
毎日新聞の風刺漫画にモチーフ元の出版社が猛抗議…同業者「作品に込めた思いを侵害」の画像1
偕成社公式サイトより

 風刺漫画のあり方に関して一石を投じる、出版社による異例の表明だ。風刺漫画のあり方について、絵本出版の偕成社が毎日新聞上に掲載された風刺漫画に関し、同社公式サイト上に社長名で「日本を代表する新聞の一つとしての猛省を求めたいと思います」との意見を公開した。

あおむしのIOCバッハ会長が「放映権」のリンゴを食い散らかす

 偕成社が指摘している風刺漫画は、6月5日付朝刊に掲載された一コマ風刺漫画コーナー「経世済民」の『はらぺこIOC(あいおーしー) 食べまくる物語 エリック・カールさんを偲んで…』。5月23日に亡くなった絵本作家エリック・カール氏が手掛けた世界的な名作絵本『はらぺこあおむし』(日本語版:偕成社)で描かれる「あおむし」をモチーフにしたものだった。

 風刺漫画では、国際オリンピック委員会(IOC)会長のトーマス・バッハ氏の似顔絵のついた「あおむし」が「東京であいましょう」とのコメント付きで中心に描かれ、菅義偉首相と思われるキャラクターが「放映権」と記載されたリンゴの実がなる木を育てる傍ら、あおむしのジョン・コーツIOC副会長、ディック・パウンド同委員がリンゴにかじりつき、食べ散らしているような表現がなされていた。

偕成社「金銭的な利権への欲望を風刺するにはまったく不適当」

 この風刺漫画に対し、『はらぺこあおむし』の版元である偕成社は7日、公式サイト上に今村正樹社長名で『風刺漫画のあり方について』と題する見解を表明した。以下、全文を引用する。

「6月5日毎日新聞朝刊の『経世済民術』という風刺漫画のコーナーに『エリック・カールさんを偲んで はらぺこIOC 食べまくる物語』と題してはらぺこあおむしに擬したバッハ会長以下IOCメンバーの似顔絵が掲げられました。『放映権』というリンゴをむさぼっている図です。

 風刺の意図は明らかで、その意見については表現の自由の点から異議を申し立てる筋合いではありませんが、多くの子どもたちに愛されている絵本『はらぺこあおむし』の出版元として強い違和感を感じざるを得ませんでした。

『はらぺこあおむし』の楽しさは、あおむしのどこまでも健康的な食欲と、それに共感する子どもたち自身の『食べたい、成長したい』という欲求にあると思っています。金銭的な利権への欲望を風刺するにはまったく不適当と言わざるを得ません。

 作者は多分ニュースでカールさん逝去の報を知り、『偲ぶ』という言い方をしていますが、おそらく絵本そのものを読んでいないのでしょう。もし読んだうえでこの風刺をあえて描こうとしたのだとしたら、満腹の末に美しい蝶に変身する結末をどのように考えられたのでしょうか。

 風刺は引用する作品全体の意味を理解したうえでこそ力をもつのだと思います。今回の風刺漫画は作者と紙面に載せた編集者双方の不勉強、センスの無さを露呈したものでした。繰り返しますが、出版に携わるものとして、表現の自由、風刺画の重要さを信じるがゆえにこうしたお粗末さを本当に残念に思います。日本を代表する新聞の一つとしての猛省を求めたいと思います」(原文ママ)

風刺漫画と2次創作

 ジャーナリズムにおける風刺漫画といえば、2015年1月、フランスの週刊風刺新聞「シャルリー・エブド」本社にイスラム過激派テロリストが乱入し、編集長や風刺漫画家ら12人が殺害された事件が記憶に新しい。襲撃事件を受け、フランスを中心とするヨーロッパ各地では表現の自由を訴えるデモが発生した。一方、一部の過激なイスラム教徒からは宗教観にもとづく反論も起こっており、表現の自由をめぐって今なお激しい議論が繰り広げられている。

 大手総合出版社の絵本担当編集者は次のように話す。

「シャルリーの件は、昔ながらのペンと剣の戦いというイメージが強いです。特定の表現に対して異議を唱えるのであれば、暴力ではなく言論や表現で対抗すべきという話だと思います。シャルリーの作品が特定の集団や民族、宗教に対して差別的かどうかは議論が必要だと思いますが、『作品が許せない』からといって政治的な圧力をかけたり、暴力を振るったり、脅迫したりするのはテロリズムです。

 しかし、今回の『はらぺこあおむし』と同じようなことが起きたら、うちも社としてアクションを起こすかもしれません。別に風刺画そのものを否定するわけではありません。

 それぞれの作家さんやイラストレーターさんが現実の事件や社会問題をオリジナルの絵で表現するのであれば、まさに『表現の自由』の範疇で、製作から掲載に至るまでそれぞれの媒体の責任で行えば良いとは思います。しかし、なにかの原作をモチーフとして引用するのであれば、やはりオリジナルへのリスペクトはあってしかるべきではないでしょうか。個人や友人間で作品を発表し合うフリーの同人コンテンツならまだしも、営利企業の全国紙がこれをするのはいかがなものかな、と。

 最近、人気スマートフォン用アプリゲーム『ウマ娘』(Cygames)の人気キャラクター、セイウンスカイとニシノフラワーの元ネタになった競走馬の馬主さんと、同人クリエイターの間で2次創作のあり方についてネット上で激しい議論も起りましたよね。元となったコンテンツをどう扱うのかは、社会的に大きなトピックになっていると感じます。

 例えば、絵本の登場人物やキャラクターが成人向け2次創作コンテンツなどで使用されることも稀にあり、原作絵本ファンから批判が寄せられることもあります。2次創作を含めて『表現の自由』は守るべきだと思いますが、だからと言ってオリジナルの作家さんが作品に込めた表現や思いを否定したり、侵害したりするのは、表現者としてどうなのかな、と思っています」

 当編集部は偕成社の意見表明と、表現の自由に関して毎日新聞社社長室広報担当に見解を聞いたところ、以下のような回答があった。

「掲載した風刺漫画は肥大化するIOCに対する皮肉を表現した作品です。今回のご指摘を真摯に受け止め、今後の紙面作りに生かしてまいります」

BusinessJournal編集部

Business Journal

企業・業界・経済・IT・社会・政治・マネー・ヘルスライフ・キャリア・エンタメなど、さまざまな情報を独自の切り口で発信するニュースサイト

Twitter: @biz_journal

Facebook: @biz.journal.cyzo

Instagram: @businessjournal3

ニュースサイト「Business Journal」

毎日新聞の風刺漫画にモチーフ元の出版社が猛抗議…同業者「作品に込めた思いを侵害」のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!