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新冷戦の勝者になるのは日本

文=中島精也/福井県立大学客員教授
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「gettyimages」より
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 1990年の日本のバブル崩壊は奇しくもポスト冷戦の始まりと合致している。実はこの組み合わせが日本経済を「失われた10年(lost decades)」という未曾有のデフレに追い込んだのである。不動産価格と株価の暴落は企業のバランスシートの資産サイドを大いに傷つけた。資産価値の下落によって生じた評価損を埋めるために、企業は稼いだ利益を注ぎ込んだ結果、いつまで経っても経営悪化から脱することができなかった。企業は日本的雇用慣行で賃金よりも雇用確保を優先したので賃金は長期低下傾向を辿った。

 この苦しい経営状況の中で為替レートは経常黒字の増加基調を反映して、円高が進行していった。バランスシートの悪化で喘いでいるのに大幅な円高の追い打ちでは企業はたまらない。多くの企業は賃金の安い中国やASEANへの工場移転に踏み切るしかなかった。ちょうど、冷戦の終結で労働力、土地、資源、マネー、技術が開放されて、グローバル化が進展していったが、その恩恵を最大限に享受したのが新興国、とりわけ中国への冷戦終結に伴う平和の配当は大きかった。

 一方、日本企業は上記のようにバブル崩壊という国内要因に加えてグローバル化という世界経済の変革に直面し、海外に活路を見出すしか術がなかったのである。しかし、企業の海外進出は企業城下町として繁栄してきた日本の地方都市の存立基盤を壊してしまうことになる。工場が閉鎖された地方経済の衰退は目を覆うばかりであり、まさしく日本経済はバブル崩壊の後遺症であるバランシートの悪化、異常な円高、そして産業空洞化の三重苦に見舞われ、未曾有のデフレ経済が20年以上も続くことになったのである。

 ところが、2017年中国共産党大会で習近平総書記が建国100年にあたる2049年までに世界覇権を握ると米国に挑戦状を突きつけたことから新冷戦時代がスタートすることになった。ちょうどロシアのウクライナ侵攻もあり、バイデン米大統領が繰り返し述べているように専制国家と民主国家の対決の時代が始まった。新冷戦の経済的意味は再びブロック経済化が進むことである。もはやポスト冷戦時代のような労働力、土地、資源、マネー、技術を自由にグローバルに組み合わせることができる時代は去って、経済安全保障が重視され、グローバルサプライチェーンの再構築、フレンドショアリングが重要なテーマとなっている。

 実はここで「地球儀を俯瞰する」安倍外交が大きな成果を日本にもたらした。インド太平洋地域での民主国家連合のリーダーとして、日本が軍事外交も含めて責任を果たすと確約したのは安倍総理に他ならない。周辺国から信頼される民主国家としての地位を築いた日本はフレンドショアリングの重要な一角を占める国として認知されるようになった。その成果の1つが台湾大手半導体メーカーTSMCの熊本への工場進出である。フレンドショアリングの進展と共に海外資本の対日直接投資が一段と増加していくことが十分に期待されるのである。

 おまけにバブル崩壊以降、日本を苦しめたバランスシートは昨今の株高、地価の回復で様変わりに改善しているし、為替も円高が止まって円安に動いている。これに新冷戦のグローバルサプライチェーンの再構築で海外資本が日本に逆流していくことで、新冷戦はポスト冷戦時代とは様変わりに、日本大復活の条件が揃った。日本は万年悲観主義、敗北主義から脱して新たな成長の芽を伸ばすべく、前向きに投資を行うアニマルスピリッツを発揮するタイミングに来ていると思われる。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

(参考)中島精也「新冷戦の勝者になるのは日本」講談社+α新書、2023年6月

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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