東京・品川区の「危険すぎる」ビル解体作業現場が物議を醸している。解体中の建物全体を囲う堅牢な防音壁などはなく、ところどころ隙間の空いた貧相なビニールシートのようなものがかけられたのみ。正面部分はむき出しで、解体で生じたコンクリートの廃材が山盛りになり、現場前の歩道にあふれ出て、隣のマンションの一部を破損。通常のビル解体工事現場ではみられる、一般歩行者を誘導する警備員の姿もなく、廃材の山の上で作業するショベルカーは斜めに傾き、今にも横転しそうになっている。さらに作業中のショベルカーは堂々と車道に大きくはみ出し、現場周辺一帯には粉塵が漂い呼吸しづらくなっており、工事の発注主や元請け業者を示す看板などはなく、作業員は大半が外国人労働者とみられる。事態を重く見た品川区は対応に乗り出し、区民に対しX(旧Twitter)などを通じて情報を発信しているが、なぜこのような杜撰な解体現場が生じているのか。専門家の見解を交えて追ってみた。
今回問題となっているのは、マンションとビルに挟まれた横幅が非常に狭いビルで、現場はショベルカー1台がギリギリ入れるほどの横幅しかない。品川区役所によれば、今月4日に区民から情報提供を受け、同日中に職員が現場を訪問し、複数の問題点が確認されたため元請け業者を呼び出し、工事を一時中止することになったという。
「問題点としては、解体によって発生した廃材が公道にあふれ出て、道路が傷んでおり、また隣のマンションの壁を突き破るなどの物損が生じている点です。また、解体中の建物周囲の囲いがとても貧弱であり、強風で倒れる恐れもあるため、堅牢なものに替えるよう元請け業者に伝えました。
業者との話し合いで合意した点は次の2つです。まず、解体によって生じた廃材を至急、現場から排出すること。そして、工事の再開にあたっては、業者として安全面にどのように配慮するのか、対策について紙で提出してもらうことです」(品川区役所)
区民から情報提供を受けたという品川区議会議員の松本ときひろ氏はいう。
「廃材で隣のマンションのフェンスが倒れ掛かっていたり、廃材が道路にはみ出しているのでなんとかしてほしいという声を、複数の区民の方からいただき、工事を止める必要があると考え、区に連絡しました。この現場の工事はすでに一時中止となっていますが、品川区内には他にも同様の問題が確認される工事現場が複数あるという情報が寄せられており、すでに区には巡回の強化を要請しております」
解体業界の根深い問題
この工事現場、解体工事のプロの視点からみると具体的にどのような点が問題なのか。東京・大阪・兵庫で解体工事・原状回復工事を手掛けるクリーンアイランド代表取締役の谷池一真氏はいう。
「通常、建物を四方からぐるりと囲むかたちで、かつ十分な高さを持たせて足場とシートを設置し、その内部で解体工事をすることで粉塵や廃材が外に漏れ出ないようにします。この現場では足場もシートも『見せかけだけ』で設置されており、常識的にあり得ない作業環境です。また、特にこのような狭い敷地内での作業では、まず建物を上から手作業で解体していき、最後に重機を使用するかたちが一般的ですが、この現場ではいきなり上から重機で解体し、その廃材をスリープ代わりにして廃材の上に重機が乗っかり、その重さで廃材が敷地の外にまで漏れ出てしまっています。そして、最初から重機を使用してしまったために建物の上のほうが解体できなくなり、建物にワイヤーなどをかけて壊そうとしているようです」
こうした杜撰な工事現場が生じる背景について、谷池氏は次のように指摘する。
「解体を依頼する事業者さんのなかには『壊すだけなので、とにかく安い業者であればどこでもよい』と考える事業者さんも少なくない。その結果、まったくノウハウのない素人同然の解体業者が外国人労働者を低賃金で雇い、安全配慮を度外視して極端な短納期でめちゃくちゃな工事をするというケースが後を絶ちません。今回の事例の背景には、そうした解体業界の根深い問題があると思います」
(文=Business Journal編集部、協力=谷池一真/クリーンアイランド代表取締役)