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ヤマト、障害者施設にも委託契約の終了通知…2024年問題が福祉現場に影響

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ヤマト運輸の車両(「Wikipedia」より)

 ヤマト運輸がメール便「クロネコDM便」と薄型荷物「ネコポス」の配達員との業務委託契約を来年1月31日に一斉に打ち切ろうとしている問題で、同社は業務を委託している障害者施設にも契約終了の通知を行っていることがわかった。ヤマトホールディングス(HD)はグループ内に公益財団法人ヤマト福祉財団を有して障がい者福祉助成事業を手掛けており、「物流業界の2024年問題」を目前に控え厳しい経営環境に置かれるヤマトHDは、利益確保と福祉支援の両立という難題に直面している。

 全国に約2.5万人いる「クロネコDM便」と「ネコポス」の配達員は大半が個人事業主(クロネコメイト)であり、ヤマトは同業務の日本郵政への委託に伴い、配達員に来年1月末をもって契約を終了する旨を通知。これに反発する一部の配達員が労働組合を結成してヤマト運輸に団体交渉を求める動きも出ている。

 そんななか、ヤマト運輸からメール便の仕分け業務を請け負ってきた、精神障害者の就労支援団体・社会福祉法人結の会の「オフィス クローバー」も7月、ヤマトから来年1月末をもって契約を終了する旨を通知されたという。だが、ヤマトは一方的に契約を打ち切るということはせず、その後も時にはヤマト運輸、ヤマト福祉財団、日本郵便の担当者が一緒に、ヤマト内にある作業現場を訪問したり、ヤマトと日本郵便の両者が施設を訪問して、オフィス クローバーに委託できる業務内容を検討。現時点では、ヤマト運輸の都内の事業所でクールコンテナと冷凍冷蔵庫内の清掃と、連続伝票の印字や資材の納品および数量チェック作業などを組み合わせる形で、1月31日以降も業務委託を続ける方向になっているという。

ヤマト運輸の危機感

 オフィス クローバー施設長の松田暁子氏によれば、施設の利用者は56名で職員は9名、そのうちヤマト運輸の業務に従事している利用者は6名。施設全体の年間売上のうちヤマト運輸分が1割強を占めるという。

「ヤマトさんは一緒に事業所を回ってくださり、オーダーメイドのようなかたちで私たちへ委託可能な仕事をつくってくださいました。それによって契約が継続できそうになった点は感謝していますし、ホッとしていますが、ヤマトさんも企業である以上、存続のために利益を追求しなければならないのは当然であり、今後も契約期間は定められて行くので、いつ終了になってしまうのかという不安はついて回るのだと思います。また、新しい作業環境で夏の暑い時期に障害を持つ利用者の方々と職員が体力的に耐えられるのかという心配もあります。物流業界の『2024年問題』が私たちのような障害者福祉の現場にも及んでいるという現実を知っていただければと思います」(松田氏)

 ヤマト運輸にとって「クロネコDM便」「ネコポス」事業の売上は小さくない。「クロネコDM便」の取扱量は年間約8億冊、「ネコポス」は同約4億個で、あわせて年間売上高は約1200億円に上る。

「企業イメージへの影響も大きいことから、2.5万人もの配達員を一斉に切るという手荒いことは対個人向けビジネスが多い企業としては避けたかったはず。それでも他社への委託という決断に迫られるほど、ヤマト運輸の危機感は強いということ。来年4月からドライバーの時間外労働時間の年間上限が960時間に規制される「2024年問題」を目前に、早くも物流会社の倒産や廃業は増えている。ヤマト運輸としても限られた人的リソースを中核の荷物宅配に集中していかなければならない」(物流業界関係者)

 当サイトは10月13日付記事『ヤマト運輸、前代未聞の3万人一斉「解雇」…面談せず一方的に通知された配達員』でこの問題を取り上げていたが、今回、以下に再掲載する。

――以下、再掲載――

 ヤマト運輸がメール便「クロネコDM便」と薄型荷物「ネコポス」の配達員との業務委託契約を来年1月31日に一斉に打ち切ろうとしている。同社は来年2月からこのサービスを日本郵政に委託することになっており、日本郵便の配送網で届けることになるからだ。長年ライバルだった両社が協業する理由には、物流ドライバー不足が深刻化する「2024年問題」がある。

最大のポイントは「労働者性」の有無

 配達員は全国に約3万人おり、契約上は個人事業主(クロネコメイト)になっている。しかし、東京・国立営業所で業務を請け負う配達員は「実態は労働者」だとして労働組合を結成し、全国一般三多摩労働組合とともにヤマトに団体交渉を求めている。ヤマトは「事実上の労働者という実態はない」と反論し、団体交渉に応じていない。会社から「使用」されて「賃金」を支払われている「使用従属性」がどの程度あるのかを「労働者性」というが、配達員に労働者性があれば、会社は団体交渉に応じなければならない。全国一般三多摩労働組合の朝倉玲子書記長は、問題のポイントである労働者性について、次のように指摘する。

「厚生労働省は『労使関係法研究会報告書』で労働組合法上の労働者性の判断基準を提示しており、契約が画一的に結ばれていれば労働者性があるとしています。契約書がAさんもBさんもCさんもみな同じで、契約内容について個別交渉の余地がないものということです。ヤマトさんも20年前から一律に定型的な契約書で、名前だけ書けば済むフォーマットになっています」

 労働者性があると判断できる理由は他にもある。

「ヤマトの契約書にはユニフォームの着用義務規定があり、最高裁でユニフォームの着用義務には労働者性があると認定されています。それから、労働時間と勤務場所が指定されているというのも労働者性の裏付けになる。1つ配達すると委託料21円で、これは全員一律です。配達する日にちと時間、区域も全部決まっているので、この部分でも労働者性がはっきりしています。しかも、配達した荷物の数はヤマトのほうで集計しており、配達員はヤマトから連絡された数を請求書に写し書きするだけになっています」(朝倉さん)

 一方、ヤマトに今回の労働者性について取材したところ、次のように答えた。

「詳細については、個別の交渉に係る事案のため、この場での回答は差し控えさせていただきますが、全国一般三多摩労働組合に対しては、同組合の判例などにおいて労働組合法上の労働者性の有無を判断する際に用いられている枠組みを参考とする主張には理由がないことを丁寧にご説明しております」(ヤマト運輸コーポレートコミュニケーション部)

報道で契約終了を知った配達員ら、会社の対応に不満

 東京新聞(9月11日付)によれば、労働組合を立ち上げた配達員は、6月に報道で突然ヤマトと日本郵政の業務提携を知り、営業所で来年1月末の契約終了を告げられたという。

「報道があってから会社は個別面談を始めたらしいのですが、うちの組合員は個別面談に呼ばれませんでした。全員と面談する予定だったらしいのですが、呼ばれた人と呼ばれなかった人がいるみたいです」(朝倉さん)

 これに対し、ヤマトはこう説明する。

「8月から、今後の対応について具体的なご説明を順次進めているところです。ご指摘の点につきましては、詳細が確認できないため回答は差し控えさせていただきますが、当社としては、これまで業務を支えていただいてきたすべての方に心から感謝を申し上げるとともに、引き続き、対象者お一人おひとりに丁寧にご説明してまいります」

 そして、組合が団体交渉を申し入れた後、配達員らには仕事斡旋のサポートをする予定だとアナウンスがあったという。

「10月中を目途に転職支援サイトの立ち上げを準備しており、ヤマトで就業実績のある方の採用を検討いただいている企業(日本郵便を含む)の求人情報の紹介を予定しています。クロネコDM便・ネコポスに関連する業務に携わるすべての方々に対して、会社として可能な限りサポートを行っていきます」(同)

個人事業主契約の形式で労働者の権利を縛る

 このまま進めば、全国で約3万人の個人事業主が契約終了となりそうだが、数万人規模のケースは今回が初めてとなりそうだ。

「ヤマトさんが個人事業主契約を始めた20数年前は、労働者性ということについてあまり知らない中小企業がよくそういう契約を使っていました。テレフォンアポインターや出会い系サイトの電話担当者などがそうでした」(朝倉さん)

 2008年にはミシン最大手JUKIの子会社に特定商取引法違反で業務停止命令が下り、このときも正社員含めて大量の販売員が契約終了となったが、ヤマトのような規模ではなかった。本来は労働者性がある人たちを個人事業主扱いで契約し、労働者を安い金額で使い、使い捨てにする。朝倉さんはヤマトだけの問題ではないと考えている。

「労働者契約だということがはっきりした場合、労働組合法上の問題だけでなく、労働基準法上の問題にもなります。そちらに照らし合わせても労働者性があると私たちは考えており、そちらがはっきりすれば契約期間5年で無期労働契約に転換されなければなりません。労働契約法上の労働者だということになれば、契約終了(=解雇)できないことになります。個人事業主として契約する形を使い、そうした労働者の権利を行使できなくしていますので、ネックはそこにあります」

 朝倉さんらは都労働委員会へ救済の申し立てを準備している。

物流配達員の労働者性を肯定した画期的な判断

 10月4日、ネット通販大手「amazon.co.jp(アマゾン)」の配達を個人事業主(フリーランス)として請け負うドライバーが配達中にけがをしたことについて、労働基準監督署から労災として認定されたことがわかった。労災保険から50日分の休業補償が給付されることになったという。個人事業主は本来、労災の対象外だが、労基署は男性が指揮命令を受けて働く「労働者」に該当し、補償を受ける権利があると判断したわけである。記者会見でアマゾン労働者弁護団は、労働者性を肯定し画期的と評価し、「アマゾンが提供するアプリから配達に関する指示が出ていたことが重視された」とみている。この労基署判断はヤマトの件にも影響を与えそうだ。

(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=朝倉玲子/全国一般三多摩労働組合書記長)

BusinessJournal編集部

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