ハンバーガーチェーン・マクドナルドの冬の風物詩「グラコロ」が29日から期間限定で販売中だが、ある店舗で提供された「グラコロ」内に虫が混入するという事例が発生した。マクドナルドでは昨年12月と今年2月にも商品内に異物が混入する事例が発生しているが、大手外食チェーンであるマクドナルドで、なぜ同様の事案が繰り返されるのか。業界関係者の見解も交え検証してみたい。
毎年12月頃に期間限定で販売される人気メニュー「グラコロ」。今年はレギュラーメニューの「グラコロ」(420円~)に加え、ビーフハヤシフィリングと3種のチーズを使用したチーズソースを合わせた新作メニュー「濃厚ビーフハヤシグラコロ」(480円~)も登場。店舗では発売を待ちわびていたファンたちが買い求める光景が見られる。「グラコロ」とは、ホワイトソースにエビとマカロニを加えたグラタンコロッケにキャベツとタマゴソース、特製コロッケソースを合わせ、バンズで挟んだ一品。毎年冬の季節に期間限定で販売され、多くのファンを持つマクドナルドの看板メニューとして知られている。
「一見、クリームコロッケをパンで挟んだだけのようだが、自宅で再現しようとすると、まったくの別物になってしまう。マックのオリジナルのタマゴソースとコロッケソースは絶妙で、なんといってもフワフワに蒸したバンズの味と食感を再現するのは難しい。バンズにはバターが入っているとのことだが、商品全体として非常に高いクオリティとなっており、400円台という価格でこれだけパフォーマンスの高い商品を提供できるところに、マックの強さを感じる」(外食業界関係者)
そんな「グラコロ」が今年も発売されたのだが、発売当日の29日に「グラコロ」を購入した一般客が、SNS・X(旧Twitter)上に商品内に虫が混入していたという報告を写真付きで投稿。<グラコロ食べてたら出てきた。もうガン萎え>と書かれた投稿には具体的な店舗名のハッシュタグも付けられているが、当該Xユーザは
<生きてて.1/4食べた時ぐらいに出てきました>
<先ほど電話をもらって、昨日の代金分のセット無料券と、今後こういうことがないようにするという対応で話し合いましたので、このツイートはもう削除させてもらいます>
とも投稿している。
そこでマクドナルドに事実確認の問い合わせを行ったところ、以下の回答が寄せられた。
「お客様よりそのようなお申し出を頂いたのは事実でございます。お客様へは、店舗より、お詫びとともに商品の無料券をお渡しさせていただき、ご納得いただいております。ご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます」
一定の確率でアクシデントが起きるのは不可避
マクドナルドといえば、2014年に「チキンマックナゲット」の材料の仕入れ先だった中国の工場で期限切れ鶏肉を使用していたことが発覚し、一時は販売を停止するという事案が発覚。さらに翌15年には商品に破損した調理機器の部品が混入するなどの異物混入がたて続けに起こり、深刻な客離れが発生。日本マクドナルドホールディングスの14~15年12月期連結決算の最終損益は2期連続の赤字、15年12月期は上場来最大の赤字を記録するなど業績悪化に見舞われた。
この事件を受け、マクドナルドは製造工程や品質管理への取り組みを強化し、業績も回復したが、昨年12月には「マックフライポテト」の箱のなかに人の爪が混入するという事案が、今年2月にはハンバーガーにゴキブリが混入し、店側が当該客に謝罪と返金を行い保健所に届け出を行うという事案が発生。同社の衛生管理体制を不安視する声もあがっていた。
「数年前に世間を騒がせた品質問題で一時は経営が危ういとまでいわれたマクドナルドだけに、現在では大手外食チェーンのなかで1、2を争うほど品質管理・衛生管理を徹底している。だが、どれだけ徹底していても、全国に3000店舗近くあれば、どうしても一定の確率で異物混入などのアクシデントが起きてしまうのは避けられない。特に忙しい店舗では厨房スタッフがものすごいスピードで次々と商品をつくってラッピングしていくため、その過程で何かが混入しても気が付かないという事態も起こり得る。マックの店舗は、客の出入り口とレジカウンター、厨房が空間的につながっている構造のところが多く、出入り口から虫が店内に入り、それが厨房まで入ってきてしまうというのは防ぎようがない。むしろマクドナルドほどの規模のチェーンで、この1年で発生した異物混入などの事故が3件というのは、非常に少なくて優秀という印象すら受ける」(外食チェーン関係者)
当サイトは2月18日付記事『マクドナルド、商品にゴキブリや人の爪が混入…8年前の悪夢再来か、事故再発の理由』で、飲食店の異物混入防止への取り組みや、どのような事案がなくならない背景について報じていたが、以下に改めて再掲載する。
――以下、再掲載――
過去の不祥事を教訓に万全の品質管理体制を維持しているようにみえたマクドナルドで、なぜ再び問題が続いているのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。
混入を100%防ぐのは困難
なぜゴキブリの混入が起きるのか。厨房(キッチン)と販売カウンター、客席、屋外は、仕切られていたり扉があったとしても、空間としてはつながっており、扉の開け閉めによって接触が避けられない造りとなっています。つまり、どんなに注意を払っていても、外部からの虫などの侵入を100%遮断することは困難であり、調理の途中でふと目を離した隙に虫が異物として混入してしまう可能性が残されてしまいます。毎日長時間調理をしている店舗では、どれほど管理を徹底しても100%大丈夫とは言い切れません。
飲食店で大きなゴキブリを見かけることがありますが、これは店舗が不衛生というよりも、多くは店外のゴミ捨て場や公園の草むらなどに生息する外部のゴキブリが、飲食店の食べ物の匂いにひかれて迷いこんでしまったケースが多いと思います。路面1階の店舗だと、扉の開け閉めのタイミングで隙間から侵入してくるので、店側からすると本当に迷惑なことです。
ただ、小さな茶色いゴキブリ、通称チャバネは、お店に住み着いていることが多く、これを何回か見かけたら、お店の責任だと思ってもいいでしょう。チャバネは、製氷機、洗浄機、冷蔵庫などのモーター付近の温かいところを中心に生息していて、放っておいても減ることはまずありません。駆除業者に依頼して退治するのが通常で、マクドナルドのような大手チェーンは定期的に駆除業者を入れているので、今回の事件は「外部から侵入した虫」だと考えられます。
さらに通常の飲食店よりも保健所の許可が厳しくなる「食品の製造販売」では、製造場所は作業区分に応じて区画されたり、作業場外に原料倉庫を設けたり、極力外部と遮断された空間を求められます(取り扱う食品の種類や保健所によって判断基準は若干異なります)。床から天井まで壁を設置して外部と遮断された空間で調理していれば虫の侵入はなさそうですが、人の出入りがある扉の開閉がある以上、100%の遮断・隔離は困難で、外部から材料(段ボールや容器関連)を運び込む際に虫がついている可能性も0%ではありません。
マクドナルドのような大手チェーンは、虫の混入は企業イメージのダウンとなり痛手になることは十分に認識しており、相当な注意を払って対策をしているはずですが、確率的に100%大丈夫とはいえないため、今後もこのようなことは起こり得ると考えられます。もちろん、衛生管理や定期的な害虫駆除、外部空間との接触面の最小化(極力隙間をつくらない)、扉の開閉時間の短縮、調理空間までの間に距離を置くなど、可能な限りの対策は必要となりますが、店舗の造りや広さによっても限界があるのが実情です。
(文=Business Journal編集部)