ユニコーン企業誕生に必要な条件や視点とは——スタートアップワールドカップ主催VC創業者が語る“日本発イノベーション”の可能性

世界中のスタートアップと投資家をつなぐ——。今回は、この思想のもとスタートアップの成長に伴走するシリコンバレーのベンチャーキャピタル「ペガサス・テック・ベンチャーズ」の創業者 兼 CEOであるアニス・ウッザマン氏にインタビュー。
日本企業ではマネーフォワードやスカイドライブなどを支援したペガサス・テック・ベンチャーズが手がける「スタートアップワールドカップ」は、世界130以上の国と地域、3万社以上が参加する世界最大級のピッチコンテストに成長しています。
学生時代を東京工業大学で過ごした経験から日本にも深い理解を持つウッザマン氏。スタートアップワールドカップをスタートさせた目的やシリコンバレーから見た日本の強み、世界で戦うために必要な視点をお聞きしました。
「起業の地域格差」という課題から誕生したスタートアップワールドカップ

——まずは、スタートアップワールドカップをスタートした理由を教えてください。
ペガサス・テック・ベンチャーズがグローバルで投資を行うようになったのは、日本が最初です。当時、日本を含めてアメリカやヨーロッパなど国をまたいでスタートアップをシリコンバレーとつなぐさまざまなイベントが開催されていました。
一方、アフリカや東南アジア、南アメリカをシリコンバレーとつなぐイベントはほとんど存在していなかったのです。先進国以外の起業家の方々は、アイデアがあってもそれを形にするチャンスが少ないのですよね。
ペガサス・テック・ベンチャーズは、グローバルで投資家を育成しているので、「我々がそのチャンスをつくる場を提供すればよいのではないか」と2016年頃から構想し、2017年に15カ国が参加するスタートアップワールドカップを開催するに至りました。現在では130以上の国と地域が参加するイベントに成長しています。
スタートアップワールドカップというプラットフォームをつくったことで、多くの投資家やメディアが優れたスタートアップと出会えるようになったと感じています。
——投資家としては、これまで関わりがなかった国々のスタートアップを発掘する機会になり、そういった国の起業家からすると、有名な投資家から注目されるチャンスでもあるということですね。
そうですね。そしてこのスタートアップワールドカップにおいても重要なポイントは決勝戦をシリコンバレーで行っているという点です。
世界のスタートアップ企業の7割ほどがシリコンバレーで登記しており、投資家の数も圧倒的に多いため、シリコンバレーで自分の事業を見てもらうことはスタートアップにとって最強のチャンスになります。
たとえスタートアップワールドカップでチャンピオンになれなくとも、多くのスタートアップが投資家との出会いを果たして、資金調達につながるというケースもあります。
——実際に、シリコンバレーの決勝戦にはどのような国のスタートアップが参加したのでしょうか?
アフリカだとエジプトやエチオピア、南アメリカだとチリやアルゼンチン、メキシコなどからの参加がありました。
アジアだとインドネシアやマレーシアのスタートアップの参加もありましたね。
——参加しているスタートアップの国が幅広く、ユニークですね。
それぞれの国に起業家を応援している方々がいること、我々がそういった方々をワールドカップという場でつなぐ動きをできていることが、参加国が多岐に渡っている要因だと感じます。
やはりどこの国も自分たちのポテンシャルを世界の場で見せたいという要望があるのです。ゆえに、やや遠方の国であっても声をかければ「自国で予選を行いたい」と声を上げてくれます。
——世界の各エリアにいるアニスさんの知り合いの方々が、予選開催に手を挙げてくれる、というイメージなのでしょうか?
スタートアップワールドカップがスタートした2017年頃は知り合いのネットワークを活用していましたが、現在は政府がスポンサーとして動いてくれたり、最適な機関を紹介してくれたりということが多いです。
決勝戦がシリコンバレーで行われる世界最大のピッチコンテストであること、多くのグローバルスポンサーがついていることが影響しているのでしょう。
コンセプトがしっかりしており、社会的に評価されるようになると、イノベーションは多くの人々に支えられるのだと、我々もこのスタートアップワールドカップを通じて感じたことです。
大企業はスタートアップに投資したい!そのワケとは
——とくに、印象に残った国や事業領域などはありましたか?
ヨーロッパでスポーツテックの企業があったり、インドではライフテックやフィンテックの企業があったりと興味深い企業は多いですが、我々がとくに注目している領域はAIやスペーステック、ヘルスケアですね。
また、我々ペガサス・テック・ベンチャーズは、世界のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の投資を代行するという業務も行っています。
——これは、大企業のCVCと共同出資という形で出資先を探し、そのファンド運営自体もペガサス・テック・ベンチャーズが受託する、という動きですよね。CVC代行の場合は投資領域に変化はあるのでしょうか?
CVCの意向も関係してくるので、現在はテクノロジー領域への投資が多いですね。
日本の企業だと、カルビー株式会社と共同でフードテック領域に投資したり、トヨタグループの株式会社アイシンと共同で自動車関連の領域に投資したりしています。
——現在CVCのパートナー企業は何社ほどあるのでしょうか?
ファンド数でいうと42のファンドがあり、約3000億円の資金を運用しています。ファンド数も金額も多いので、1年で40社ほどの投資が最低ラインですね。
なぜ多くの企業がこれほどまでに投資を行いたがるのかというと、将来的な協業やM&Aの可能性を視野に入れているためです。
大企業の中では、フレッシュなアイデアが生まれづらい状況があります。スタートアップ企業と連携することで、そのウィークポイントをカバーして新たな事業に関わることができるのです。
中でも我々をパートナーとして選んでいる企業は、グローバルでの投資を考えている企業が多いですね。自社でグローバルの投資チームを結成するにはかなりのコストや労力がかかります。ペガサス・テック・ベンチャーズが代行することで、世界にいるチームメンバーのネットワークを使って、全世界のさまざまなスタートアップへの投資が可能になります。
イノベーションの中心であるシリコンバレーに我々が本社を置いていることで、各国の優秀なスタートアップが信頼性を感じて回答してくれることも、パートナーとして選んでもらえる要因のひとつだと考えています。
大規模調達と視点の広さがペガサス・テック・ベンチャーズの強み
——アニスさんは日本でエンジニアをしていたこともあり、日本語も堪能で日本への理解も深いと感じます。シリコンバレーに拠点を持ち、これだけ日本企業のパートナーとして動いてくれる、唯一無二の存在ではないでしょうか。
私と同じように、世界にいて日本の企業が大きく飛躍するために尽力している方は多くいます。
しかし我々の強みは、グローバルでの資金調達が可能なこと、日米両方のナレッジがあり、グローバル視点で日本企業を評価できることです。
ユニコーン、デカコーンといわれる企業をつくるためには、数兆ドルレベルの調達が必要になる場合があります。この規模の資金は、シリコンバレーやグローバルでなければ調達できません。日本国内だけではなかなか難しいのではと感じます。
たとえば、我々は株式会社Mujinという、産業をロボットなどの力で自動化するインダストリアルオートメーションの企業にSBIホールディングスと共同で、ペガサス・テック・ベンチャーズとしては30億円以上を投資しています。
日本の中でもかなりユニークなテクノロジーを持ち、多くの知的財産権を持つ企業なのですが、ネクストユニコーンといわれる非常に勢いがある企業です。
大きく資金調達し、大きく展開する。日本においてこれをやりたいと思っている企業に対して、我々がサポートできる部分は大きいと感じます。
日本が世界に誇れる“強い領域”とは
——株式会社Mujinのように、日本企業でグローバルに活躍できる可能性がある業界や業種はどういった領域だと思いますか?
日本はやはり、ディープテックが非常に得意な領域です。優秀なエンジニアも多くいます。AIに絡められるようなディープテックの企業が出てくれば、日本の強みを発揮しながらAIの軌道に乗っていけるのではないかと思います。
あとは、半導体も日本に頑張ってほしい領域です。
現在日本にTSMCが入ってきたり、ラピダスが北海道に製造拠点を建設したりと話題が豊富ですが、やはり日本には東芝やソニーが半導体で世界をリードしてきた歴史や基盤があるのです。基盤がすでに強いので、半導体に関わる企業が出てきてくれればと思っています。
3つ目はヒューマノイドロボットですね。
実は本田技研工業株式会社が、ずっとヒューマノイドロボットの領域に取り組んでいたのですが、なかなかAIのような仕組みがなかったことで大きく進歩しない領域でもありました。
しかし現在、生成AIなどの誕生により、これまでも優秀だった日本のロボット技術に勝機が出始めていると感じます。
4つ目は、日本のアニメーションやゲーム文化を活かした領域です。
やはり日本の中でも非常に強い領域ですし、優秀な人材も多くいます。この領域からも、より多くのスタートアップが登場してほしい[F3] ですね。
また、日本はライフサイエンス系の領域も得意です。デバイス系の治療装置などですね。京都大学や東北大学などから優秀なスタートアップが出ています。
いわゆる医療のディープテックの領域にはなるのですが、この領域でリーダーシップを取れる企業が出てくる可能性があるのではと感じています。
——アカデミックな領域で伸びそうな領域にいち早く着目し、CVCとの連携を含めて大きく投資していく、という動きもできそうですね。
そうですね。日本の得意分野をうまく活かせれば、可能性は大いにあります。
日本のエンジニアに対して上手に動力をかける、ということも必要だと感じていますね。日本のエンジニアは非常に優秀な一方、ビジネスの話に奥手な部分があります。エンジニアが積極的に起業や商業化に乗り出す動きをできるようになるため、国や教育機関ができることはまだまだあるのではないかと思いますね。
スタートアップに必要なのは“夢を見ること”
——それでは最後に、スタートアップで活躍したいと考えている方々に、アニスさんからメッセージをお願いします。
夢を大きく見ることを大切にしてください。起業の際、最初からグローバルで展開する意識を持ってスタートアップに臨んでもらいたいと思っています。
スタートアップワールドカップでは、国内予選で優勝したチームに、世界大会へ向けた研修プログラムやトレーニングの機会を提供しています。
我々は、有望なスタートアップを長期的に支援し、成長に伴走していきたいと考えています。投資規模は5000万円から、50億円、100億円、さらには200億円規模にまで及ぶケースまでさまざまです。
ぜひ、このスタートアップワールドカップというプラットフォームを活用し、世界に挑戦してほしいですね。
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ペガサス・テック・ベンチャーズが描くのは、国境を越えて才能と資本が手を取り合う未来。シリコンバレーで磨かれたペガサス・テック・ベンチャーズの視点と、日本の技術力が出会うとき、世界に新たな潮流が生まれるのではないでしょうか。
スタートアップワールドカップという舞台を通して、日本からもまた、新たな挑戦者が世界に羽ばたいていくかもしれません。












