「1本5400円の水」は最強の消耗品?ReFaとGENDAが仕掛ける高級水ビジネスの正体

●この記事のポイント
・1本5400円の水や数万円の高級水は非合理に見えるが、ReFaやGENDAは「水」を通じてLTV最大化とブランド体験の常時化を狙っている。
・MTGは水を消耗品として組み込み顧客を“毎月の習慣客”に転換。GENDAはフィリコで推し活・祝い需要を高単価で収益化する。
・高級水は喉を潤す商品ではなく、生活に入り込む関係性ビジネス。成熟市場でブランド忠誠を育てる合理的な経営戦略だ。
蛇口をひねれば、安全で安価な水が手に入る──。そんな“水の豊かな国”日本で、1本5,000円を超えるミネラルウォーターや、数万円で取引される「ジュエリーウォーター」が、じわじわと存在感を増している。
美容ブランド「ReFa」を展開するMTGによる高価格帯ウォーターの投入。エンタメ企業GENDAが買収した、スワロフスキー装飾の高級水ブランド「フィリコ」。
直感的には「割高」「贅沢すぎる」と映るこれらの取り組みだが、経営戦略の文脈で読み解くと、そこには成熟市場を生き抜くための、極めて合理的な意思決定が見えてくる。
彼らが売っているのは、水そのものではない。売っているのは、顧客との関係性を長期化させる仕組みであり、ブランド体験そのものだ。
●目次
MTG(ReFa)が水に託した「LTV最大化」という明確な意図
MTGが展開する「ReFa WATER」は、富士山の永久凍土で長い時間をかけて濾過された水だと説明されている。表向きには、その希少性やストーリーが強調されるが、経営の視点から見ると、注目すべきはプロダクトではなく、ポートフォリオの組み替えだ。
ReFaの主力商品は、美顔ローラーやドライヤーといった耐久消費財である。一度購入すれば、顧客との接点は数年単位で途切れる。
そこに水という「毎日消費される商材」を組み込むことで、MTGは顧客との関係性を“イベント型”から“習慣型”へと変えようとしている。
「ReFa WATERを“水”として見ると高すぎます。でも、彼らは最初から飲料市場を見ていない。見ているのはLTVです。美容機器はどうしても買い替え頻度が低い。その弱点を、消耗品で補完しにきた。かなり教科書的ですが、実行できる企業は多くない」(戦略コンサルタントの高野輝氏)
5,400円という価格設定もミネラルウォーターとしては異例だが、「1カ月分の美容液」「インナーケア商品」と並べれば、違和感は薄れる。
価格の比較対象をずらすことで、MTGは顧客の“支払い理由”を再定義している。
もう一つ見逃せないのが、水の置き場所だ。化粧品は洗面所、ドライヤーは棚の中にある。一方、水は冷蔵庫に入る。冷蔵庫は、家庭内で最も頻繁に開閉される場所の一つだ。
「冷蔵庫に入るというのは、マーケティング的には非常に強い。毎日、無意識にブランドロゴを見る。広告を打たなくても、生活導線そのものがメディアになる。これはD2C企業がずっと狙ってきた理想形です」(同)
ReFa WATERは単なる商品追加ではなく、ブランドを生活の深部に“常駐”させる試みといえる。
GENDA×フィリコが示す「承認欲求のマネタイズ」
GENDAが買収した「フィリコ」は、さらに振り切った存在だ。1本数万円。スワロフスキーで装飾されたボトルは、飲料というよりもアートピースに近い。
しかし、このビジネスも衝動的なものではない。
GENDAは、アニメやゲームなどIPビジネスを中核に据える企業だ。その文脈で見ると、フィリコはIPの出口を一段引き上げるための“器”として機能する。
「キャラグッズはどうしても単価に限界がある。Tシャツやアクスタで1万円を超えるのは難しい。でも“祝いの場”に使われる商品なら、話は別です。フィリコは、推し活とナイトマーケットの文脈を非常にうまく捉えています」(同)
ホストクラブ、誕生日イベント、記念日──そこでは価格よりも「見栄え」「象徴性」が重視される。フィリコは、その需要をピンポイントで刈り取る構造を持つ。
さらに見逃せないのが、在庫特性だ。フィリコは中身の水がほぼ共通で、差別化は外装のみ。
「フィギュアや立体物と比べると、在庫リスクは驚くほど低い。金型も不要で、劣化もしにくい。IPビジネスにとって、これほど“扱いやすい高単価商材”は珍しい」(同)
感情に訴求しながら、オペレーションは極めて合理的。そこに、このビジネスの強さがある。
なぜ各社は「水」を選んだのか
ReFaとフィリコ。アプローチは違えど、両者が水に行き着いた理由は共通している。
(1)最もハードルの低い「高級ブランド体験」
10万円の商品は躊躇されても、5,000円の水なら試せる。これは「マステージ(Mass+Prestige)」戦略の典型だ。
「水は“高級ブランドの入門編”として非常に優秀です。失敗してもダメージが小さい。企業側からすると、新規顧客との最初の接点をつくるには理想的な商材です」(同)
(2)広告費を「体験」に置き換える発想
水は毎日消費される。つまり、毎日ブランド体験が発生する。15秒CMを何度も見るより、1カ月間、毎日そのブランドの水を飲むほうが記憶には残る。
(3)パーソナライズの余地が大きい
水は無色透明で、成分設計やストーリー付加が容易だ。将来的には、肌質・体調・ライフスタイルに合わせた展開も可能だろう。
水ビジネスは「関係性を透明化する装置」である
1本5,000円の水を買う人は、喉の渇きを潤しているのではない。そのブランドが提示する「こうありたい自分」「この世界観に属していたい」という物語を、日常の中に取り込んでいる。
企業にとって水は、
・原価が低く
・毎日消費され
・生活の深部に入り込み
・感情と結びつきやすい
という、極めて優秀な“関係性構築ツール”だ。
高級水ビジネスとは、非合理な贅沢ではなく、成熟市場におけるブランド経営の一つの到達点なのかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











