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味は普通なのに1万円超、なぜ高級スイカは売れたのか…食用→観賞用に特化し成功

文=大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授
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善通寺産四角スイカ
善通寺産四角スイカ

 1万円を超えるスイカと聞いて、みなさんはどのようなスイカを想像されるだろうか。恐らく、多くの人は「今までに口にしたことのない、驚くほど美味しいスイカに違いない」と思われるのではないだろうか。結論を先に述べれば、味に関しては、なんら特徴のない普通のスイカである。

 新聞といえば、読売新聞や朝日新聞などが有名で一般に全国紙と呼ばれるものの、実際は東京や大阪など都市部に大きく依存しており、地方においては地元新聞が強い影響力を保持している。例えば、香川県では地元新聞である四国新聞のシェアが6割にも及んでいる。

 こうした地方紙には、全国的には大きく取り上げられないものの大変興味深い地方のネタが満載されている。7月6日付の四国新聞には、香川県善通寺市の「四角スイカ」の記事が掲載されていた。四角スイカとは文字通り、サイコロの形(18cm四方)をしたスイカである。驚くべきはその価格であり、卸売価格で1万円を超えている。

食用スイカ→観賞用に特化し成功

 善通寺市筆岡地区では、古くからスイカが盛んに生産されていた。しかしながら、50年ほど前から、さまざまな清涼飲料水やアイスクリームなどが広く普及するにつれ、それまで順調であったスイカの需要に陰りが見え始めた。現代の感覚からすると、清涼飲料水やアイスクリームがスイカの代替品や競合品になるとは考え難いが、当時を思い起こせば「確かにそうだったかもしれない」と頷ける。

 こうした状況のもと、スイカの需要を掘り起こすために開発されたのが四角スイカである。しかし、スイカを四角くするというコンセプトは固まったものの、実際に生産するには多くの苦労があったようで、例えば四角くするための枠に関しても、木、アルミニウム、ガラスなど、さまざまな素材を用い、試行錯誤の末、鉄枠と強化プラスチックにたどり着いている。

 筆者が、この記事でとりわけ興味を持った点は、当初、冷蔵庫に収まりやすいように四角くするというコンセプトが、大阪の市場関係者からのアドバイスにより食用ではなく、観賞用に特化したものに変更されている点だ。恐らく、食用では卸売価格で1万円を超えるような商品にはならなかったことだろう。

 観賞用とするために、きれいな縦じま模様となるような工夫、熟し始める前の収穫、収穫後1週間ほど変形の状態を確認してから出荷など、多くの手間がかかっているが、こうした手間に見合った価格での販売が実現していると考えられる。ちなみに、四角スイカは管理状態が良ければ1年近く鑑賞できるとのこと。

 製品の開発に際して、マーケティングリサーチをはじめ、市場の情報を集めることの重要性を否定する人はいないだろう。実際、どれほどの企業が手間暇かけてマーケティングリサーチを実施しているかは怪しいが、広く知れ渡ったセオリーとなっていることは間違いない。しかし、今回のケースは、発売後のマーケティングリサーチの重要性を教えてくれる。

 確かに、四角スイカの事例は、たまたま市場関係者からアドバイスを得ることができたという偶発的なものであったかもしれない。しかしながら、作り手の予期しない商品の価値に消費者が注目し、こうしたニーズを踏まえ、商品コンセプトを再定義し、成功しているケースは数多く存在している。

 通常、メーカーに消費者とダイレクトに接する機会はなく、一昔前ならばこうした情報の収集には多額のコストを要したが、ICTが広く普及した現代においては、低コストで効果的なマーケティングリサーチが実現する環境は整っており、多くの企業において挑戦する価値があるように思われる。

(文=大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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