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舘内端「クルマの危機と未来」

日本の自動車メーカーが直面する「深刻な危機」

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表

 独フォルクスワーゲン(VW)のプラグインハイブリッド車(PHV)、「ゴルフ GTE」が日本市場に投入された。同車の発表会が開催されたのは9月8日午後だが、その日の午前中には、独BMWもPHVの「X5 xDrive40e」を発表した。

 BMWは、午後にゴルフ GTEが発表されると聞いて、あわてて発表会を設定したのではないだろうか。もし、そうだとすれば、PHVの日本展開におけるヨーロッパの自動車メーカーの意気込みを感じる。

 独ダイムラーが展開するメルセデス・ベンツは、昨年すでに「S550」でPHVを導入している。次はCクラスのPHV「C350e」、さらに2017年までに10種類のPHVを導入すると息巻く。

 VWグループでは、独アウディがA3シリーズのPHV「A3 Sportback e-tron」で初めてPHVを導入した。そのほか、独ポルシェも13年に「918スパイダー」を発売(15年に予定通り生産終了)、続いて「パナメーラS E-ハイブリッド」「カイエンS E-ハイブリッド」を発売している。

 VWグループは「20年までに、20種類のPHVを市場に投入する」といっているが、どうやら本気のようだ。PHVなくして、20年代に生き残ることはできないと考えているのだろう。

 それは、BMWもメルセデスも同じである。環境問題もエネルギー問題も、国境はないのだから。

脆弱な日本のPHV

 しかし、迎え撃つ日本勢は脆弱である。

 現在、国産PHVには三菱自動車工業の「アウトランダーPHEV」、本田技研工業の「アコード プラグイン ハイブリッド」、トヨタ自動車の「プリウスPHV」の3つがある。しかし、アウトランダー以外は、とてもヨーロッパ勢の性能には太刀打ちできない。

 ホンダ、トヨタ、そして日産自動車も本気でPHVを開発しなければならないわけで、しばらくはヨーロッパ勢の後塵を拝することになりそうだ。

 トヨタの新型プリウスに期待が集まるが、搭載される電池は旧態依然としたニッケル水素電池である。これは、コストと寿命、生産体制については一利あるものの、テスラモーターズの電気自動車(EV)に搭載されているパナソニックのリチウムイオン電池に比べて、約4倍も重い。

 では、現行のプリウスPHVはどうか。リチウムイオン電池は使われているが、現在の性能レベルに比べると重くて大きい。その結果、電気のみのEV走行距離は26.4キロで、これも短いといわざるを得ない。

 だが、トヨタが世界のPHV化の波を見逃すわけがない。今後、高品質なPHVを登場させることは確実だ。そして、搭載される電池はリチウムイオン電池だろう。

 鍵は、それをトヨタが内製するのか、それともパナソニックなどのメーカー製なのか、というところだ。もし、社内生産するとなればPHVの成功はもとより、将来的にEVを本格生産した際には大いに利益を上げるはずで、「さすがトヨタ」ということになるのだが……。

 もし、トヨタのこの流れに、ホンダがアコード プラグイン ハイブリッドの大幅な改良で追随し、日産も「リーフ」の電池技術を生かしてPHVを開発することができれば、世界のPHV化はすごい勢いで進むことになる。

 では、そこまでしてPHVを開発、生産、販売する理由はなんだろうか。

 PHVが続々と日本に上陸する中で、アメリカから衝撃的なニュースが飛び込んできた。VWのディーゼル車の一部に排出ガス規制に関する違反が見つかり、2兆円を超える罰金が科せられるという。

 ディーゼル車の市場に暗雲が立ち込めていることも、PHV競争が過熱する一因といえるだろう。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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