ヒット中のダイハツ新型タント、拭えない違和感の“正体”…車に個性は不要なのか?
7月9日、ダイハツの軽乗用車タントが約6年ぶりにフルモデルチェンジした。人気タレントを起用した楽しげなテレビCMも手伝ってか、発売直後の受注状況は好調みたいだ。
けれども、4代目の新型は先代までに比べてどこか印象が薄い。発表後間もないとはいえ、一風変わったカスタムの顔以外はスタイルもほとんど思い出せない。もちろん、ホンダのN-BOXをはじめとしたライバルたちの登場もあるけれど、それに埋もれたというよりは、そもそも印象が薄いんである。
その理由はいくつかあるのかもしれないが、ほぼパーフェクトな「マーケット・イン商品」であることが大きな原因じゃないかと僕は思っている。
新型の開発キーワードは「新時代のライフパートナー」だ。ダイハツは2016年にトヨタの完全子会社となったのを機に「ダイハツらしさとは何か」をあらためて見直し、「自分らしさ」「ライフスタイル」「軽やか」といった言葉を集め、これを「Light you up」という企業スローガンに込めた。
「新時代のライフパートナー」という生命保険会社のコピーみたいなキーワードはまさにこれに沿ったもので、新型は徹底してユーザーの声に耳を傾けることとした。実際、プレス資料を見ると「お客様の潜在的ニーズ」「お客様の笑顔」「お客様の多様化」「お客様に寄り添った」、そして「すべてのお客様に向けた」と、冗談ではなくお客様で埋もれているのである。
もちろん、それによって使い勝手や安全装備、走りなどの性能が底上げされたことは望ましいことだけれど、それでクルマとしての個性が置き去りにされるとしたら、いささか疑問だ。
だいたい「ダイハツらしさ」の設定がいまひとつピンとこない。たとえば、かつて同社の代名詞となったシャレードは、5平米カーとしてファミリーに向けた企画だったけれど、クルマそのものは革新的な提案だったのである。以降、ざっと振り返ってもアプローズ、リーザ、MAX、ネイキッド、ストーリア、YRV、エッセ、そしてコペンとかなりの個性派揃いだ。
そもそもタントだって、シャレード同様ファミリー向けでありながら、その発想自体は極めて革新的で、だからこそスーパー・ハイトワゴンというひとつのジャンルを築いたわけだ。
いや、「マーケット・イン」自体が悪いわけじゃなく、マーケティングによる意見や数字をどう扱うかが重要ということ。そこで単なる受け身になってしまうと、最大公約数的な没個性の商品を生んでしまう。往々にしてマーケティングの結果をズラリと並べると「それなり」のコンセプトに見えてしまい、企画会議にもパスしやすいが、そこに落とし穴が隠れている。先のプレス資料がまさにそれなのである。
“優しさで包まれる”ダイハツ
これは僕の勝手な妄想だけど、先のような個性派ラインナップでは販売的に失敗作も少なくなかったし、2代目のコペンでは着せ替えという斬新なアイデアが空振りだったなどで、ダイハツは従来の「プロダクト・アウト」の姿勢を反省してしまったんじゃないかと。
結果、トコットに代表される「自分らしい」雑貨のような商品や、販売店での「ダイハツカフェ」といった企画、さらに「LOVE LOCAL」なんていうスローライフな提案など、とにかく優しさで包まれるような世界をダイハツらしさにしてしまったんじゃ?
僕はカフェ的な世界観は決して嫌いじゃないけれど、しかしそれが本質的な「新しさ」と真逆を意味するなら、それはちょっと違うと思う。新型を機に同社が打ち出した「良品廉価」というキーワードも、だからどこか腰砕けのイメージしか残らない。
新型タントには、自動車メディアでも「期待していたわりには……」という声が見られる。僕もそのひとりだけど、それは「スーパー・ハイトワゴンの元祖」として、驚くような飛び道具を見せろということじゃない。元祖の色眼鏡を嫌うなら、別の面で「本質的な新しさ」を見せてほしかったということなのである。
(文=すぎもと たかよし/サラリーマン自動車ライター)