日産自動車がカルロス・ゴーン元CEO(最高経営責任者)によって牛耳られていた時代、魅力的な新車といえるモデルを発表してこなかった。現存するモデルの多くは、デビュー10年前後が経過している。およそ4~6年周期でフルモデルチェンジしなければ新鮮味が薄れるといわれるなか、10年前後という期間は、あまりに長すぎる。日産は、「つくらないから、買えない、売れない」という負のスパイラルに陥っている。
ただ、内田誠社長兼CEOがトップになってから、矢継ぎ早に復活プランを発表し、5月には「今後18カ月に12の新型車を投入」すると宣言。将来に明るい光明が差し始めた。その先陣を飾る1台が、「フェアレディZ」である。それが証拠に、発表されたプロトタイプは巷の話題を独占している。
ステージ上でスポットライトを浴びるフェアレディZは、50年に及ぶ歴史を彷彿させ、伝統を感じさせるものだった。現代風にアレンジされているとはいえ、まるで歴代モデルの復刻版かと目を疑うほどオマージュに溢れている。いわば、レトロモダンである。
たとえば、スタイリッシュなサイドビューは、ロングノーズとショートデッキという、いわば“フェアレディZ流黄金比”で構成されており、歴代のS30、Z31、Z32、Z33、Z34のどのモデルにも似ている。
へッドライトは、1970年代に発売された伝説の「240ZG」をイメージしている。現代風LEDライトで構成されるが、ここにもレトロモダンの息吹を感じるのだ。大きく口を開けたフロントグリルも、長くフェアレディZが受け継いできたスクエアな開口部だ。現代のモデルの多くが、複雑な線や隆起を多用して印象に残るデザインとしているなか、驚くほどシンプルである。
インテリアも同様で、鋭く断ち落としたインパネは、やはりフェアレディZの伝統であり、エンジンのコンディションをつぶさに伝える丸型の計器類がドライバーを睨みつける。情報のすべてをモニターに集約する現代の手法とは、明らかに異なる。
搭載するパワーユニットも、フェアレディZのDNAを強く感じるものだ。V型6気筒ツインターボは最新のエンジンだが、マルチシリンダーはフェアレディZの伝統でもある。さすがに直列6気筒ではないものの、パワーは十分であるに違いない。
6速マニュアルミッション(MT)との組み合わせというのも、感涙ものである。公表された資料にはオートマ(AT)の設定はない。だが、実際の市販化では、おそらくATのラインナップだろう。それでも、6速MTありきの発表は、回帰への狼煙のように思えた。
これほどレトロモダンを強調した最新モデルが、これまでにあっただろうか。これをもってして、かつて隆盛を極めた日産への回帰でありオマージュが、昭和世代のクルマ好きをターゲットにしているとするのは簡単である。だが、むしろ華やかだったクルマ社会を知らぬ若い世代の琴線に響く可能性を秘めている。それこそ日産復活の狼煙なのだ。
あえて過去を振り返ることで、“新生日産”のフラッグシップであることが興味深い。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)