ロケーションクラウド事業の構成は、大きく3段階に分かれている。まず実走による高精度地図の製作だ。レーダーレーザーとカメラを車体の屋根に装着した車両を約150台導入し、世界中の道を実際に走行してデータを収集している。次に、各国の行政機関等から得た交通信号、標識、道路面の表示、道路面の傾き等の基本データを、自社で構築した高精度地図の上に加えていく。
そして最後に最も重要なのが、ヒアが「ライブロード」と呼ぶ車両の走行データ解析だ。これはGPS等の通信衛星を通じた位置情報だけでなく、アクセル開度、ブレーキによる減速度、ハンドルの切れ角等、ドライバーの運転データを指す。ヒアは旧ナブテック時代を含めて、ドイツ系自動車メーカーおよびドイツの大手自動車部品メーカー・コンチネンタル等を通じて、こうした車両走行データを収集する権利を得ている。
実際に筆者はヒア本社内でこうしたビッグデータの解析現場を見て、同部署の関係者から詳しい説明を受けている。
ロケーションクラウドについて、同社幹部は次のように語る。
「アマゾン、マイクロソフト、グーグルと同列のクラウドビジネスだ。その上で弊社は自動車産業とのつながりが強いことを最大限に生かし、今後は自動車関連のビッグデータ事業を拡大させていく」
なおノキアは13年、マイクロソフトに携帯電話事業を売却している。
自動車産業全体がIoTの一部に
巨大ビジネスへと成長を続けるヒア。それが今、売りに出されているのだ。そうなれば、IoT(Internet of Things/モノのインターネット)というくくりの中、自動車関連事業者だけでなく、大手IT企業や通信インフラ企業、さらには投資ファンドがヒアへ触手を伸ばすのは当然だ。
また、欧米経済メディアの報道では、BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンによる「ドイツ自動車連合」として、ヒア買収の動きもあるという。
株価総額で2000億円程度のヒアだが、14年売り上げは前年比6%増の約1200億円。「少なくとも株価総額の倍額での売却が妥当」(欧米経済メディア)と目されている。
今回のヒアの争奪戦は、自動車産業全体がIoTの一部へと転換する大きなキッカケになるだろう。
(文=桃田健史/ジャーナリスト)