マック、世界的没落を招いた「誇り」と「自己満足」 有効な危機回避策を自ら捨てた愚行
本連載前回記事『マック、世界的“客離れ”深刻化は、もはや歴史的必然で不可避である 間違い続ける戦略』において、米国の象徴的ブランドであるマクドナルドが直面する問題を追った。同社がなぜ時代に逆行するような戦略を取ったのかについて考察する前に、まずは同じく米国を代表するブランドであるザ コカ・コーラ カンパニー(以下、コカ・コーラ社)の場合を考えてみよう。
コカ・コーラ社もマクドナルドと同様に、世界の先進国における「ヘルシーであること、オーガニック(ナチュラル)であること」に重きを置く価値観の変化によって、打撃を受けている。昨今は、コーラのような炭酸飲料水に代わって、スポーツドリンク、レッドブルに代表されるエナジードリンク、そしてミネラルウォーターが人気となっている。米国に限っていえば、2009年には米国民1人当たり92.5リットルのコーラ類ドリンクを購買したが、15年には72.5リットル、19年までには64.7リットル、つまり10年間で30%減少すると予測されている(Euromonitor調査)。コカ・コーラ社の営業利益の半分は米国市場で生まれているわけだから、その影響は大きい。
しかも、人工甘味料の健康への悪影響を訴える報告が相次ぎ、カロリーを気にするセグメントのために開発したゼロカロリーやシュガーフリーのダイエット・コーラに対する消費者の不安が増大している。その結果、ヘルシー志向の消費者に応えるためのダイエット商品の将来性に期待が持てなくなってしまった。
飲み物の甘さへの価値観は、肉と同様に経済レベルで変わる。筆者が子供のころ、田舎にいくとジュースに砂糖を入れて出され、甘すぎて飲めなかった覚えがある。今でも開発途上国や新興国に行くと、コーヒーやお茶にとてつもなく多くの砂糖を入れて飲む地域がある。砂糖は貴重なエネルギー源であり、しかも体への吸収が早い。経済レベルが低い時には、ケーキやチョコレートといったスイーツは普及しておらず、農作業のような過酷な肉体労働に従事した後、甘い飲み物を摂取する必要があった。だが、さまざまなスイーツがあふれる今となっては、むしろ飲み物は甘くないほうがよいのだ。
多ブランドを展開するも、変化の遅いコカ・コーラ社
コカ・コーラ社の場合、海外市場では、すでに対策を取っている。ジュースやコーヒー、お茶を販売すればいいのだ。日本市場全体として、どのブランドが売れているかという情報を手に入れることはできなかったが、西日本で販売を担当するコカ・コーラウエストの投資家向け広報(IR)資料によれば、13年の同社販売数量実績トップは缶コーヒーのジョージアで約4400万ケース、次いでスポーツドリンクのアクエリアスで2200万ケース、3番目がコカ・コーラで1500万ケース、これに肉薄しているのが緑茶の綾鷹で1400万ケースだった。ちなみにコカ・コーラ ゼロは700万ケースで、コカ・コーラは合計2200万ケースともいえる。