アップルに「半導体の盟主」を奪われたインテルの致命的ミス ムーアの法則終焉説の嘘
インテルからアップルへ主役交代
微細化は、インテルが中心となって進めてきた。そのテクノロジ・ドライバとなってきたのは、パソコンである。パソコンを高性能化するために、プロセッサのトランジスタをきっちり2年ごとに90→65→45→32→22→14nmと微細化してきた(ただし、22→14nmへは3年かかった)。
ところが、07年に米アップルがiPhoneを発売した。そして、10年にはパソコンの出荷台数をスマホが上回った。それ以降、パソコンは年間出荷台数3億台強からジリ貧になりつつある。一方、スマホは急激な勢いで成長し、15年は同16億台を超える見通しである。つまり、コンピュータの世界ではパソコンからスマホへパラダイムがシフトした。
パソコンにもスマホにもプロセッサが必要であるが、それぞれの微細化の状況はどうなっているだろうか。
そこで、インテルのパソコン、およびアップルのiPhoneにおけるプロセッサの微細化トレンドを比較してみた(図4)。
前述の通り、インテルはITRS通りにきっちりと2年ごとに微細化を進めている。ところが、アップルはITRSをまるで無視して毎年微細化を進めている。11年時点では、インテルが22nmに対してアップルが45nmと大きな開きがあったが、その後、アップルはインテルを上回る速度で微細化を推し進め、今年はほぼ追い付いてしまった。そして、このペースで毎年微細化を続けていけば、17年にはインテルを追い越してしまうことになる。
つまり、コンピュータのパラダイムシフトとともに、微細化の牽引者もインテルからアップルへと主役が交代しそうなのだ。微細化のロードマップは、「Intel Technology Roadmap for Semiconductors」から「iPhone Technology Roadmap for Semiconductors」に代わるということである。現実には微細化はスローダウンするどころか、加速しているのである。
インテル、iPhoneのトラウマ
インテルは、プロセッサの設計も製造も自前で行う垂直統合型(Integrated Device Manufacturer、IDM)の半導体メーカーである。一方、アップルはファブレスであり、プロセッサの設計は行うが、製造はファンドリーなどに委託する。
実は、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は、初代iPhoneの製造委託をインテルに打診した。恐らく04年頃だと思われるが、当時インテルのCEOだったポール・オッテリーニ氏は、これを断ってしまったのである。これは「インテル史上最大のミスジャッジ」といわれ、そのせいでオッテリーニ氏はCEOの座を追われる羽目に陥った。
なぜ、オッテリーニ氏はiPhone用プロセッサの製造委託を断ってしまったのか。米雑誌社「The Atlantic」が行ったオッテリーニ氏へのインタビューによれば、アップルはプロセッサの製造委託を打診する際、「それに一定の金額(1個約10ドル)を払うが、その金額以上はびた一文も出す意思がない」と伝えたのだという。