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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

アップルに「半導体の盟主」を奪われたインテルの致命的ミス ムーアの法則終焉説の嘘

文=湯之上隆/微細加工研究所所長

 当時スマホ市場がまったくない状況下で、インテルアップルの要求に基づいて利益を出すにはどのくらい生産すればよいか、つまりiPhoneがどのくらい売れるかを予想した。インテルは、iPhoneがフィーバーを起こすほど売れるとは思わなかった。したがって、1個10ドルのプロセッサをつくっても利益は出ないと判断した。ちなみにインテルのPC用プロセッサは1個200~300ドルである。

 こうして、インテルはアップルの製造委託を断ったわけである。しかしふたを開けてみると、インテルの予測は間違っていた。なぜならば、iPhoneの生産量はインテルが想定した量の100倍以上だったからだ。

 スマホの時代が到来し、遅ればせながらインテルはスマホ用プロセッサに参入しようとしたが、いまだに1%のシェアも取れていない。逃した魚はあまりにも大きかった。インテルはスマホ用プロセッサの主役になり損ね、その上で微細化の盟主の座をも奪われ始めている。では、インテルに代わって、微細化を製造の面で加速しているのは誰か。

サムスンとTSMCの狂気に満ちた設備投資

 インテルに断られたiPhone用プロセッサを製造することになったのは、韓国サムスン電子である。サムスンは、13年の28nm世代までiPhone用プロセッサを製造した。これは、サムスンに大きな果実をもたらした。

 まず、それまで鳴かず飛ばずだったファンドリー部門で10位から3位に躍進した。また、プロセッサにはスマホの技術が濃縮されている。自他ともに認めるファストフォロワー(最も早く他社に追随する企業)であるサムスンが、その技術を自前のスマホGALAXYに使わないはずがない。こうしてサムスンは、スマホのシェアであっさりアップルを抜いて世界一となり、自社の営業利益の7割を稼ぎ出すまでになった。

 アップルとサムスンは、12年から世界各国でスマホに関する訴訟合戦を繰り広げているが、これについてはアップルが墓穴を掘ったとしかいいようがない。アップルは、「泥棒に追い銭を与えた」ようなものだろう。
 
 こうした影響もあってか、14年にはiPhone用プロセッサ(20nm世代)の製造は台湾のTSMCに委託された。TSMCは、iPhoneだけでなく世界中のスマホ用プロセッサの約5割を製造しており、スマホ特需に沸いている。iPhone用プロセッサの製造委託は、それに拍車をかけた。

 ところが、15年はiPhone用プロセッサ(16/14nm世代)を再びサムスンが奪い返したとか、いやそれをまたTSMCが奪還したなどと情報が錯綜している。正確なところはわからないが、アップルがサムスン電子とTSMCの尻を叩いて競わせているのかもしれない。

 その効果が、両社の狂気に満ちた設備投資額に表れている(図5)。サムスン電子は毎年、115億ドル以上を継続的に投資し続けている(ただし、この投資額にはDRAMやNANDなども含まれる)。TSMCは、毎年投資額を増大させ、今年は過去最高の117.5億ドルになる見込みである。毎年、ジリ貧で投資額を減らしているインテルとは対照的である。

アップルに「半導体の盟主」を奪われたインテルの致命的ミス ムーアの法則終焉説の嘘の画像5

 パソコンからスマホへパラダイムがシフトし、テクノロジ・ドライバがスマホ用プロセッサに移行しつつある。その結果、微細化の牽引者が交代する気配が濃厚である。新たな盟主は、アップル+(サムスン or TSMC)である。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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