これに対して部下が取ったアプローチでは、自社と他社の分析から始まりました。この考察の過程では、顧客の視点が後回しにされていました。それでは、せっかくソリューションがつくり出されたとしても、それは顧客のニーズに合致するのか疑問です。自社の強みを生かし、競合他社に差別化できているソリューションであっても、必ずしも顧客の要望に合っているという確約はないのです。
ここで冒頭の資料の左側のチャートをご覧ください。これは「ニーズ×シーズ」の比率を描いたマトリックスです。自社の解決策(シーズ)の有無と、顧客の要望(ニーズ)への適不適を表現しています。
このマトリックスの中の数値は、それぞれの象限の大きさのおおよその比率です。ここでは、自社の解決策がお客様の要望に合致するケースを比率「1」と設定しています。
自社が持っているさまざまな解決策を、ある特定の顧客に提案したとします。その際、その顧客の要望に合致して、提案が受け入れられる割合はどの程度でしょうか。おそらく、10のソリューションを提案して、1つぐらいは受けてもらえるでしょうか。ですから、自社が持っている解決策がお客様の要望に合う比率が「1」で、残念ながら顧客の要望に合わない比率を「9」としています。
同様に、ある顧客の要望が明確に提示されているときに、自社の解決策を使ってその顧客に提案したとします。ここでは、他社も同じように提案してくるとします。おそらく他社の提案は、自社の解決策では持ち合わせていない要素を含んでおり、差別化されていることが多いでしょう。この際、自社の解決策がその顧客に選ばれる確率はどの程度でしょうか?
ここでは、5回に1回ぐらいは自社の解決策がお客様の要望にうまく合致し、自社が選ばれると想定してみました。平たくいえば、コンペで勝てる確率が20%くらいということです。そう仮定すると、自社の解決策がお客様の要望に合致する比率が「1」であれば、それが顧客の要望に合わずに、他社の解決策が勝っている比率は「4」ということになります。
このように考えてみると、自社が現在持っている解決策が顧客の要望に合致して、しかも他社に優越して選ばれる可能性はかなり小さいのです。ちなみに今回の設定では、そもそも顧客のニーズに合わないシーズを除外したとしても、計算上7%強です。
仮に10のソリューションを持っていたとしても、お客様のニーズに合うソリューションはせいぜい1つ。あるソリューションを提案して、他社に勝てるのは5回に1回。ですから、いま自社が持っている既存のソリューションが、競合他社に差別化できているとしても、それが顧客の要望に刺さる確率は小さいのです。