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森秀明「『itte』の経営学」(7月28日)

セブン鈴木会長は、なぜ他社店舗には行かない?SWOT分析は無意味?

文=森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント

 もちろん、自社の強みが生きて他社に差別化できて、お客様のニーズに合致するソリューションを持っているに越したことはありません。そんなソリューションはキラー・ソリューションといえる代物です。

 この場合、そのキラー・ソリューションを買ってくれる顧客の広がり(規模)がどの程度あるのかが重要になります。十分な収益を生み出せるほどの規模があるでしょうか。また、そのキラー・ソリューションが他社に模倣されるまでの期間はどの程度あるでしょうか。その間に先行者利益を得て、投下資本を回収してしまうことが求められます。

 このような観点も含めて、会社の経営会議では延々と議論が続くのかもしれません。

 ただし、自社の強みを生かした既存のソリューションが、他社と差別化できていたとしても、それが顧客の要望に合致する確率は高くないのです。ですから、自社の強みを生かして競合他社との差別化を図るという戦略立案のアプローチは正しくないのです。

 それでは、どうすればよいのでしょうか?

顧客のニーズから出発すると、戦略の質が変わってくる

 そもそも、自社の強みから出発して、競合他社に差別化できるかどうかを検討して、最後に顧客の審判を仰ぐというアプローチの順番がよくないのです。

 何ごとも顧客の要望から出発します。極端にいえば、競合他社に対する強みは二の次でよいのです。自社の既存の強みに拘泥する考え方もよくありません。言い方を換えれば、顧客の要望に刺さるようなソリューションを探り、それをつくり上げていく中で、自社の強みが醸成され、結果として競合他社が真似できないソリューションが生まれてくるのです。

 米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)では、顧客(消費者)のことを彼女と呼んでいます。その彼女が誰なのかを理解し、彼女に敬意を表し、彼女のニーズとウォンツ(欲求)に応えることを経営の骨幹に置いています。

 米アマゾンの創設者で社長兼CEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾス氏は、「顧客を出発点にして、そこから遡る」と言っています。競合他社や投資家を見るのではなく、顧客を見る。そして顧客にとって最高の体験を提供することに注力しています。

 また、セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOの鈴木敏文氏は、ファミリーマートやローソンなど他社の店舗には行ったことすらないと語っています。要するに、他社の動向を気にし、他社との差別化を図るのではなく、顧客に意を注ぐことを最も大事にしているのです。

 今度は、冒頭の資料の右側のチャートをご覧ください。これは、「ニーズ×シーズ」のマネジメントを表現したチャートです。

 右上の象限にあるように、顧客のニーズに合った自社のシーズを大きく育てることができれば、事業の戦略としては申し分ありません。これまでは「1」の比率しかなかった顧客のニーズに合致するソリューションを増やしていくことです。

 そのためには、今は顧客のニーズに合っていない既存ソリューションを改善することが一つの方策です。ただしこの方策は、そのソリューションを作り上げてきた部門のこだわりが強ければ強いほど容易ではありません。組織における戦略の軌道修正には、覚悟を決めたリーダーの指導力が必要なのです。

 もう一つの方策は、いまは自社が持っていない他社のソリューションから学び、それを取り入れていくことです。すなわち、顧客のニーズに合致した他社のシーズを吸収していくのです。このためには、自社内にこだわらずに、他社を含めて「知を探索」するという姿勢が求められます(「知の探索」については、本連載第2回『P&Gと3M、ヒット商品を生み出し続ける秘密 「闇研」のルール化で開発を活性化』において詳しく述べています)。

 もちろん、ソリューションを育て、改善や学ぶための経営資源(人や資金)を捻出するには、既存のソリューションを捨てるという意思決定も必要になります。

 事業の戦略を練る会議の場で、SWOT分析が出てきたら注意する必要があります。自社の強みから議論が始まったり、競合他社との差別化をしきりに気にしている場合は危険です。

 今の時代、事業の戦略は、顧客のニーズから議論を始める考え方やアプローチが望ましいといえます。
(文=森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント)

森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント

森秀明/itte design group Inc.社長兼CEO、経営コンサルタント

一橋大学経済学部卒、慶應義塾大学大学院修了。ボストン コンサルティング グループ、ブーズ・アレン・ハミルトンなどの外資系コンサルティング会社を経て現職。企業や組織への経営コンサルティング活動とともに、経営者へのアドバイザリー業務を行っている。WE HELP COMPANIES CREATE THEIR FUTURE STORIES. がミッション。著書に『外資系コンサルの資料作成術』『外資系コンサルの3ステップ思考術』(ダイヤモンド社)がある。
株式会社 itte design group

Twitter:@ittedesigngroup

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