米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G、本社:シンシナティ、オハイオ州)は、欧米では「日用品分野の behemoth(ビヒモス:聖書に出てくる巨獣)」と呼ばれる。「モンスター」を越える世界的巨大企業だ。
180カ国以上に展開し、2015年6月期の売上高は830億ドル(前年比0.6%増)もある。1ドル120円で換算すると約9兆9600億円にもなり、10兆円にも達するかという勢いだ。営業利益は153億ドル、経常利益は149億ドルで前年からは微増だが、対売上高でみると営業利益率が18.4%、経常利益率は18%と、類まれな高収益企業といえる。
大変革
そのP&Gに今、大きな動きが出ている。
A・G・ラフリーCEO(最高経営責任者)兼会長が実質引退し、社長兼CEOにグローバル・ビューティ・グルーミング&ヘルスケア部門長のデイビッド・テイラー氏が11月に就任する。ラフリー氏は00~09年にCEO職を務めて業績を大きく伸ばし、名経営者と謳われた。2度目のCEOとして復帰したのが13年のことだった。
しかし、残念ながら2回目のCEO登板では大きく業績を伸ばすことはなく、今回の交替となった。テイラー氏は80年にP&Gに入社し、ベビー・ケアやホーム・ケアなどの日用品を担当し、北米、ヨーロッパ、アジアで働いた経験を持つ。
トップ人事に伴い、大きな動きもあった。香水メジャーとして知られる米コティ(本社:ニューヨーク)に125億ドル(約1兆5250億円)で傘下の43ブランドを売却すると表明したのだ。売却されるブランドの中には、「ウエラ」(ヘア・ケア)、「カバーガール」「マックスファクター」(化粧品)、「ヒューゴ ボス」「グッチ」「Dolce & Gabbana」(香水)、その他ヘア・スタイリング関連のブランドが含まれる。
今回切り離されるブランドには有名なものも含まれ、また売却金額は巨額であり、両社にとっては重大な戦略的意思決定となった。P&G側では「選択と集中」を進め、「中期的にはベビー・ケア、ファミリー・ケア、フェミニン(女性)・ケア、ファブリック(衣類)・ケア、ホーム・ケアの分野に注力する」(7月16日付「Forbes Online」記事より)と見られている。
「企業マーケティング大学」
P&Gが手放した、輝くようなブランド群に圧倒される。同社の場合は、数百に上るブランド群を買ったり売ったり育てたりして、そのポートフォリオを柔軟に組み替えてきた。
強みの源泉として注目すべきは、P&Gの「ブランド・マネジャー」制である。他の企業では「プロダクト・マネジャー」と呼ばれることもあるが、その規範となっているのはP&Gだ。