ブランド・マネジャーは担当したブランドについて、世界中でのビジネス展開に責任と権限を持つ。R&D(研究・開発)から生産計画、マーケティング、そしてもちろん売上高と利益責任にも同様である。よって、P&G社内にはブランドの数だけ企業家がいるという状況だ。
そのため、「企業マーケティング大学」との異名を持つP&G出身者は、世界中のパッケージ・グッズあるいは消費物企業から引っ張りだことなっている。BtoCの分野では世界中で尊敬されている企業だ。
類まれな経営技能
引退することになったラフリー氏は、『P&G式「勝つために戦う」戦略』(朝日新聞出版、13年刊)を著している。共著者が同社の戦略コンサルタントとして、ラフリー氏を支えたロジャー・L・マーティン氏だ。マーティン氏は米トロント大学の経営学部長で、同書は主としてマーティン氏の筆によると思われるが、学者がまとめてくれたお陰で逆に「ラフリー経営」がとてもわかりやすく描き出されている好著だ。
本書で、P&Gには長きにわたって米ハーバード大学教授のマイケル・ポーター氏がコンサルタントとして関与していたことを知った。ラフリー経営は、ポーター氏の掲げる特に次の2つのセオリーに立脚している。
・ポジショニング
・「コスト・リーダーシップ戦略」か「差異化戦略」の選択
そして、P&G流の競争戦略として、次の「5つのステップの戦略カスケード(滝)の統合」というセオリーに行き着いた。
・勝利のアスピレーションは何か
・戦場はどこか
・どうやって勝つか
・どんな能力が必要か
・どんな経営システムが必要か
セオリーの詳細については同書を参照していただきたいが、通読して私が強く感じたことが2つある。
まず会社全体で採択する競争戦略がしっかりセオリー立てされ、それを全組織が世界中で徹底的に共有している。方法論が同じなのだ。単一企業でこれだけしっかり自社の戦略をセオリーとしてまとめ、実践しているケースは稀である。
そしてP&Gでは、世界中で多数のブランド展開における新しい経験や消費者知見を限りなく積み上げ共有している。これだけ優れた理論体系を持った巨大企業が「ラーニング・オーガニゼーション」として、さらにその経営技能に磨きをかけ続けているのである。