医師は誰もが、内視鏡検査を選択します。それにもかかわらず日本では胃がん検診としてバリウム検査が広く行われてきましたが、厚労省は、2016年4月から内視鏡検査を導入し、さらに検診対象年齢も50歳以上に引き上げるとの新しい方針を打ち出しました。これは韓国で行われた20万人規模の調査で、「内視鏡検査の実施により胃がん死亡率が57%も減った」という結果を、国立がん研究センターが評価したからです。
しかし、この対応はあまりに遅すぎます。新潟市などは03年から検診に内視鏡検査を導入し、バリウム検査時よりも3倍もの胃がんを発見できているのです。
胃の内視鏡検査の効果は高いのですが、実は内視鏡検査への移行には大きな問題があるのです。
内視鏡検査をできる医師は現在、日本に3万人程度といわれています。もちろん技量の差もありますが、この医師たちが参加したとしても、現在のバリウム検査を内視鏡検査に切り替えると、単純計算で医師一人当たり年間500人くらいにまで検査数を増やす必要があります。これはあまりに大きすぎる数で不可能です。
ただ、日本の胃がん検診などの受診者は対象者の30%程度と少ないこと、検診年齢が50歳以上にアップされること、内視鏡検査は1回行うと毎年必要ではないことから、実際には医師一人当たりの検査数は減ってきます。
ピロリ菌除菌
また、胃がん発症の原因であるヘリコバクター・ピロリの除菌などによって、胃がん検診対象者を減らすことにつながる可能性があります。胃がん検診の年代になる前にピロリ菌感染の有無を検査し、ピロリ菌が確認された場合は除菌を行うように勧めるのです。これによって、胃がん検診が必要な人がグンと減少します。これを国が認めるかたちで行えるかどうかです。この点は十分に考慮する必要があります。
とにかく16年から、胃がん検診受診者がグンと増える可能性があります。経験のほとんどない内視鏡医が検査を行うと、検査対象者の消化器を傷つける危険もあります。内視鏡検診の推進が、胃がん死亡率を下げる効果の観点から正しい方針であることは、異論をはさむ余地のないことです。しかし、果たして厚労省はどこまで起こり得る問題を考慮しているのか、この点が懸念されます。
(文=松井宏夫/医学ジャーナリスト)