これは人口減、特に労働人口の減少、結婚数の減少などによるものだ。保険とは、守るべき家族のために加入するという性格のためである。
こうした状況下だが、日生の筒井義信社長は「まだ成長余地がある」として、「個人金融資産の大部分がシニア層にある。これは運用や相続などの明確なニーズがある資金だ。このニーズを一時払いの保険などでつかんでいければ、生保業界は成長が見込める」(「日経ビジネス」<日経BP社/8月31日号>より)と語っているが、妄言といえよう。
私自身がシニア層だが、今さら誰のために大きな保険に入ろうというのか。年金型保険をこれから始めるわけにいかないし、子供が社会に出てしまっていれば一定の責任は果たしたと思うだろう。老親の死亡保険を今さら設定することはない。医療保険や入院保険も実は公的制度が行き届いているので、任意保険に頼る状況はあまりない。つまり、保持する資産はそのまま老後資金として使うのが正しい。
筒井氏は評論家ではなく、国内リーディング・カンパニーのトップである。「可能性がある」というなら、対応する商品を投入して市場開発させるなど、行動で示したらよい。経営者として怒濤の攻めを見せてほしい。
かんぽ生命の脅威
縮み続ける生保業界でもう一つの脅威が、かんぽ生命保険だ。郵便局を窓口で販売するかんぽ生命は、国有企業という絶対信頼をバックに保険料等収入では第一をも大きく上回っている。そのかんぽ生命が11月に株式上場を予定している。そうなると、国有企業という枠から外れるので、保険商品の多様化や料金設定などでますます力を発揮することになる。
以上より、現在42社を数えるといわれる生命保険会社は、これから合従連衡の時代に入ることが必至だ。進出している外資系も経済合理性にはより敏感なので、撤退や売却に逡巡することはないだろう。今回買収される業界8位の三井でさえ、預かり資産の運用利回りが保険契約者に提供しているより下回る逆ざやだった。
銀行業界でも以前には都市銀行が多数存在したが、淘汰を経て4大メガバンクに収れんした。生保業界も同じような方向へ歩んでいくだろうが、ここで業界特有の要素が前述した相互会社だ。日本生命のほかに、住友生命、明治安田生命、富国生命、朝日生命がそれにあたる。相互会社には株式がないので、株の譲渡や買収ということもない。この5つの相互会社を軸に、業界再編劇が始まるのではないか。