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ゼネコン各社、なぜトンネルじん肺の作業員救済基金に猛反対?

文=安積明子/ジャーナリスト
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ゼネコン各社、なぜトンネルじん肺の作業員救済基金に猛反対?の画像1「Thinkstock」より
 国土の大部分を山間部が占める日本では、高速道路網などのインフラ整備にトンネル工事が欠かせない。例えば、東京・品川~名古屋間のリニア中央新幹線が昨年12月に着工したが、同区間286キロのうち、86%の246キロはトンネル内を走行する。こうした世界一の難工事を支えるのが、トンネル工事に従事する技術者たちだ。

 トンネル工事は、掘削作業で多量の粉じんが発生するため、それを吸った労働者がじん肺に罹患することが多かった。いわゆる、トンネルじん肺である。じん肺とは、吸い込まれた微小の粉じんが肺組織を線維化させ、たんや咳、呼吸困難などの症状を引き起こす疾病だ。作業を離れても症状は進行し、気管支炎や肺がんを発症させることもある。

 現在は、厚生労働省の定める「粉じん障害防止規則」により、事業者には「設備、作業工程又は作業方法の改善、作業環境の整備等必要な措置を講ずる」ことが義務付けられている。また、じん肺法や労働安全衛生法などの規定に従い、健康障害を防止するために適切な処置を講じる義務がある。

 これにより、新規のトンネルじん肺患者数は減少している。有所見者数は1982年の2305名、療養患者数は83年の604名がピークで、2014年には有所見者数は60名、療養患者数は20名になっている。

 しかし、いまだに過去に罹患した3万1929名の有所見者と、9621名の療養患者がじん肺に苦しんでいる。

 彼らが重症化したり、合併症に罹患したりした場合は、労働者災害補償保険法に基づいて保険給付が行われるが、呼吸困難の苦しさなどの精神的苦痛に対しての手当はない。それに対する慰謝料を求めるのであれば、雇い主であったゼネコンを相手に、個別に裁判で争わなければならない。そこで、被災労働者は団結して、「全国トンネルじん肺訴訟」を起こし、順次、和解が成立した。じん肺管理区分に従って和解金が支払われる、統一和解基準もつくられた。

 しかし、訴訟にはコストと時間がかかる上、原告は個々の工事と発病の因果関係を示す作業歴を裁判所に提出しなければならない。現場を転々とする出稼ぎ労働者の場合、多くの資料を集めなければならず、経年により散逸している可能性もある。

 そこで、原告団らにより、加入者がトンネルじん肺と診断されたら、すぐに一定の給付金を得ることができる「トンネルじん肺基金」の創設が提唱された。これは、独立行政法人労働者健康福祉機構に設けられ、トンネル工事を受注した事業者(大手ゼネコン)は拠出金納付義務を負い、その金額は事業者が受注する工事代金に一定の拠出率を乗じたものとするという制度だ。自民党、公明党、民主党が議員立法に動いている。

基金創設に反対するゼネコン各社

 しかし、建設業界はこれに反対だ。一般社団法人日本建設業連合会は、11年6月22日の理事会で、以下のような声明を決議した。

 ゼネコン各社は、すでに国のガイドラインに従って粉じん対策を実施しており、過去の工事において発生したじん肺患者は当該工事を実施した企業により救済されるべきである。現在は和解のためのスキームが確立しており、迅速に対応できている上、被災労働者の就労履歴が不明瞭なケースも少なくないという問題点がある。

 こういった理由で、建設業界は基金創設を受け入れることができないと宣言した。

 確かに、企業としては自分の工事で発生していない疾病の責任まで取らされてはたまらないだろう。また、じん肺防止の施策に積極的なゼネコンとそうではないゼネコンが平等に費用を負担するというのも、不公平の感が否めない。

 一方で、基金創設が企業の負担を軽減することも考えられる。被災労働者に支払う金額は、裁判で和解した際に支払われる金額の60%程度が予定されており、企業は裁判費用を負担しなくて済むようになる。また、国土交通省は建設労働者の就労データの一元管理に取り組んでおり、実現すれば工事と健康障害の個々の因果関係がより明確になる。そのため、今後は拠出金の分担についてゼネコン間で公平性が保たれる可能性もある。

 こうした計算を行った結果、企業にとって「基金を創設したほうが、個々のケースに応じて裁判を行うより安く済む」という判断がなされるかもしれない。じん肺対策をきちんと行うことで、新規患者の発生をゼロに抑え、労使共に負担が軽減されることが、最も望ましいかたちではあるが。
(文=安積明子/ジャーナリスト)

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