中国政府は現実路線への回帰を検討し始めた。政府が検討中の新しいルールでは、ガソリン車の生産に関する規制は強化される。その一方、ハイブリッド車は低燃費車として優遇されるようだ。これは、トヨタにとって非常に重大な変化だ。街中を走る車を見ていると、いまだに欧州メーカーの多くがディーゼルエンジンを搭載している。一方、ハイブリッド車となると、レクサスをはじめトヨタ車が多い。
中国政府は補助金政策を強化して新エネルギー車の普及を重視しつつ、ハイブリッド車の販売促進にも力を入れていくだろう。その変化にどう適応するかが、各国自動車業界の競争力を左右すると考える。
トヨタが手に入れつつあるビジネスチャンス
すでに独ダイムラーは、中国市場はまともにビジネスが行える状況ではないとの見解を示した。同社の第2四半期の業績は赤字に陥る見通しだ。想定以上に欧州勢の業況は厳しい。米中摩擦により世界のサプライチェーンは混乱している。ドイツを中心に自動車メーカーを取り巻く環境は一段と厳しくなる恐れがある。欧州を中心に、ライバル企業との経営統合など、規模の経済効果を追求する自動車企業は増えそうだ。
そのなかでトヨタは、世界の自動車業界をリードする、大きなチャンスを手に入れつつある。すでにトヨタはハイブリッド特許を無償開放することを決めた。中国においてトヨタのハイブリッド車の販売台数が増えれば、同社のテクノロジーを活用したい企業も増えるはずだ。
それは、トヨタがより有利にEVやコネクテッドカー、および自動運転に関するテクノロジーを開発するために欠かせない。先行きは不確実だが、中国政府の方針修正をうまく使うことで、トヨタはより有利に世界の自動車業界における覇権を強化できるだろう。
トヨタには、さらなる革新を期待したい。それが、人工知能(AI)の活用だ。自動車は多くのセンサーやカメラを搭載した“動くITデバイス”として扱われ始めている。センサーを通してリアルなデータを収集し、それをAIで分析した情報が複数の車両で共有されれば、渋滞の緩和による大気汚染の改善や物流の効率化など、さまざまなベネフィット=便益が見込める。
わたしたちの認知能力には限りがある。気づきづらい実際の変化を瞬時にとらえることは、より良い意思決定を支える。それが経済の効率性を高め、より多くの付加価値を生み出すことにつながる。リアルなデータを分析できるAIが実装されれば、自動車の常識は大きく変わるはずだ。
そうした発想が、新しいモビリティーのコンセプトを具体化し、普及させるために欠かせない。トヨタが中国市場で得たチャンスを生かして、イノベーションを発揮していくことを期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)